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終焉に終焉を。  作者: 終焉を迎えたTomato
第四章 戦って戦って戦って。

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EP74 それは正義で、それは悪

「お前がいなければ....こうは....!」

やめろって。

「聞いているのか!人殺しが!」

黙れ、消えろ。

「このゴミが....!」

「お前、親に向かってなんと....!!!」

「ゴミだっつってんだよ!」

声を荒げた。

喉が痛い。

どうしよもない怒りをどこにもやることはできず、頭を抱えた。

クレリアはどうなってる。ユズやフィエールもこうなってんのか。

俺は、俺には自分のことを考えるなんてできなかった。あいつらが大事だから。


――


「リア、テストはどうだ?」

「お、お父さん....よ、良かったよ....」

「そうか、ならクレシスも喜ぶな。いい子だ」

「う、うん」

父は優しい人だった。でも母は厳しい人だった。

何故、この正反対のような二人が結ばれたのかは分からない。けど、二人は異様に仲が良く、相性は抜群であった。

父は軍人で、母は研究者。

父は、私に人殺しになってほしくないと、研究者を継がせるようにしていた。ちょうどその時、クリアでは内戦に加え、別の更に高度な宇宙空間文明による星間戦争が絶えず、父はあと二ヶ月でこの家を去るため、休暇を取って、ずっと家にいた。

幼かった私には戦争とか、理解できなかった。

そして、小学生ながら、私は危険を省みず戦う父の背中に憧れていた。

でも、私が軍人になりたいなんていうと、父も母も悲しむ。

だから、いい成績を取って、母のようになるしかなかった。それに、低い点を取ると何をされるか分からないから。

母が恐ろしかった。勉強を押し付け、私の幸せなど考えるわけのない母が恐ろしかった。

私は、もっと自由に生きたかった。

「いつかきっと、王子様が、私を迎えにきてくれる」

毎日毎日そう自分に言い聞かせて眠った。

でも、寝ることが不可能に近かった。

「リア、今回のテストはどういうこと?」

夜遅くに帰ってくる母が、成績を見て怒り狂い、寝かせてくれなかったからだ。

「お、お母さん....」

「答えなさい。九十九点って何よ!!!」

怒鳴りながら暴力を振るう母に、私は謝ることしかできず、あざだらけで日々を過ごした。

今思えば、父に言っておけばよかった。

彼は、私が眠ったのを確認してから訓練に向かうから、このことを知るはずもないのだ。

おそらく、父なら、こんなことにはならなかった。

もうやだ、やめて。

その声は誰にも届かず、寒い外の空気に触れ、白い息となって消えるしかなかった。


「リア、次こそは百点よ。私はもう寝る。前みたいに起こすんじゃないよ!」

「は、はい....ごめんなさい....」

それは何年も続き、それは終わりを告げる時は、母が死んだ時だった。四十九で母は過労、そして自分の持つ高血圧や生活習慣病により命を落とした。

私は、ちっとも寂しくなかった。むしろ、家に帰り、一人で笑った。私は自由だと、解放されたと、小一時間笑い続け、私は、心が終わっているのだと悟った。

それから研究はやめずに続け、母よりも成果を上げた。

時に、あの時の辛さを思い出して泣くこともあった。

けど、お金にも、時間にも余裕が生まれ、心が楽になり、精神科には一年と半年ほど通院しただけで済んだ。

もう、父の顔も、母の顔も覚えていない。


ただ、私よりも辛い人生を歩んだ人が、世界には沢山いる。

両親がいない人、大きなトラウマを持つ人、お金がない人、生きる意味を失った人、大切なものをなくした人、いじめに遭った人、猫に偽造する人だっている。

そして、そういう人たちは、確実に自分の近くにいる。

和人様も、その一人だ。

私は、私たちは、そのような人たちを慰め、助け合わなければならない。

これは、私の中の"正義"だ。

しかし、誰かの中の"悪"でもある。

人を待って待ち続けて、結局来ないから自分を投げ捨てる人のような、そんな人たちの中の悪だ。彼らは、人間が滅びることが正義なのだと考える。きっと、それは、"apocalypse"もそうだ。

しかし、そんなことを考えている暇はない。

今は、大好きな彼を、大切なものを守るために、自分を削って戦うべきだ。


――


「パパ!お兄ちゃん!もうやめて!」

明里が叫ぶ。けど、俺はもうそんなことを気にしていることはできないほどに、怒りが爆発し、いつの間に持っていたのか分からない包丁を父の喉に向けていた。

「もういいんだよ!俺に干渉すんな!」

大声で叫び、少し喉を切った。

「死ね。死ね!ゴミはお前だ!宇宙ごと人を殺したお前だ!死んで償え!」

「もう死んでんだよ、俺もお前も。もう一度、殺してやるよ!新しい死因ができてよかったなあ!――」

一度包丁を戻し、振り翳した、その瞬間。空間は大きく割れた。

「お前、また空間を割ったのか!」

「るっっせえ!!」

その割れ目からは、少しだけ、愛を感じた。

もう一度殺そうとしたその瞬間、大きな衝撃波と共に、壁へ押し付けれられた。

「ダメ、和人様....!」

「クレリア....?」

壁に寄りかかった俺に抱きつくクレリア。泣きながら、彼女は言った。

「人を、殺しちゃダメ。殺したくても、我慢して」

「でもこれは記憶の中であって....!」

「記憶の中でもダメ!」

世界が戻りつつある中、説教を食らった。

久しぶりだ。この感覚。


この、冷たくて、暖かい感覚が。

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