EP67 それの意味。それの手掛かり。
草原にはやはりユズがいた。
『はやく来てね』
その言葉の意味に少し嫌な予感がする。
この予想が当たらないといいが....
「あ、和人!どこ行ってたの?」
「どこ....と言われても、記憶の中かな....?」
「また記憶....記憶が何か関係してるのかも!ものすっごく重要な物とか!」
そう言われると、確かにそんな感じがする。でないと記憶を何度も見せてくる必要はないだろうし。
ラノベとかアニメとかであるあるの事だ。
ここで俺が一番はじめに考えたのは記憶。
人の感情に左右される、時に嘘を映し出し、時に人の感情を揺るがす、この世で最も不思議な現象の一つである。
だいたい、ここでいう感情とは想いのことだが、それが魔力とも関係しているために、記憶と魔力にも関係があるのだろうと魔学者は考えている。らしい。
現代魔学でもそれは変わらず、古典魔学からずっとあるものだ。
魔学という学問には少し興味があり、ネットや本で調べていた。記憶との関連に関する記事を書いたものは少ないがその論文は存在していた。
その魔学。それを使えば何か手掛かりがあるのかもしれない。
「クレリア、魔学ってあるか?」
「苦手な学問ですがありますよ....ただ和人様の知ってる魔学とあまり大差ないかと....」
「魔力には記憶との関連がある可能性が大きい。魔力を研究すれば、記憶に関することが明らかになるかもしれない」
「和人、なんで急にそんな記憶について知りたくなったの?雷にでも打たれた?いやいつもか....」
ちょっと一言余計な気がするがそれは置いといて、俺が記憶を知りたいのは明里の言葉によるものだ。
『はやく来てね』という可愛い妹の言葉。
たとえどんなやつであろうと妹の願いは叶えなければならない。
そう。俺はお兄ちゃんなのだから。
「その、記憶の中にいたと言っただろう?」
「言ってたね。嘘ではないのは分かったよ」
「それで、その中で明里に会ってさ。言われたんだ『はやく来てね』って」
軽い説明をした。
魔力との関連は、何かあるのだろうか。
「和人様、なんか炎が出て来ましたよ?」
「そう言えば、この前もこの炎が出てきたよな?」
「うん。それで時間が経って、聖天地に戻って....その後にエールさんに会ったかも?」
「じゃあ、これはエールと関係あるのか?」
いやそういう訳ではなさそうだ。単なる何かの具現化。の様に見えないこともない。けど、他に何があるのだ?背後に鎮座する神社か?
それともその前に続く数本の鳥居か?
鳥居の数は十。
何か書いている訳でもない。
ただそこに存在しているだけの様だ。
「そう言えば、ここに来る前、神社でお参りしたよね?」
「そうだな。ならもう一回すれば戻れるのか?」
「そう!それが言いたかった!」
俺たちは賽銭箱へ向かい、また五円玉を投げ入れた。
そうしてもう一度願い、視界は白く包まれた。
戻れるか?と思ったが、また、"記憶"が見えてきた。
「明里。どうしてこの本を?」
「これねこれね!....あれ?これじゃない....」
どうやらただのミス。終焉について。と書かれた本は、とりあえず机の上に置いた。昔の俺は、きっとここで終焉を知ったのだろう。
図書委員の生徒が、その本を片付けてくれた。
ここで明里が渡さなかったら、俺はどうなっていたのだろう。
そんなことを考えている中、明里が一冊の本を持ってきた。
本が大好きな明里は、童話からラノベまで、沢山のジャンルを模倣している。
今、俺の手元にあるこの本はこども向けの本だ。
タイトルは「どうしていきるの?」と書いている。
いや、これ本当にこども向けか?
開いてみると、文字は読めないものの、絵だけは分かった。
しかし、特に何もなく、ただイラストを見ただけであった。
視界はまた白くなり、視界が明けると、神社にいた。
「......は?」
目の前に映ったのは、倒れたエールとエリア。また赤く燃える街並み、そして、たくさんの魔物達であった。




