EP63 意味
しばらくして日が完全に沈み、俺も眠りについた。
ふと目が覚め、真っ暗な世界を見渡していると、ポット目の前に何かが現れた。
闇に包まれた謎の世界に一つ、不安定な炎が灯った。
かなり大きく、一見火事に見えるがそうではない。
何もない草原から火柱が立ち、煙も出さずに燃えている。
周りの草原も燃え移る事なく、ただそこに存在しているだけだ。
その炎が何を示すかも分からないまま、ずっと眺めることしかできなかった。
それの意味が、かなり重要なのであれば....
そういえば、エールとエリアの姿を見ていない気がする。
フィエールが居たので、少なくともエールは来れてもおかしくないはずだ。
何かあったのだろうか。
炎は消えない、だんだんと大きくなったが、今は成長が止まっている。
本当になんなのだろうか。
「和人....?」
ユズが起きた。
「おはよう。....って言っても夜だけど」
「う、うん。おはよう....あれは?」
あの炎について聞かれた。
「分からない。突然燃え出して、それからずっと不安定なまま」
寝ている結愛を、ユズは膝の上に乗せた。
結愛はさっきより気持ちよさそうに寝ている。
「ここ、なんだと思う?」
「え?....えーっと、誰かの記憶とか?それとも過去とか、心の中とか?」
「なるほど。確かに、俺もそう思う。けど、ここから抜け出せなかったら....」
「私。和人とずっと一緒に居たい....離れないで、ずっと一緒に、こういうところで、楽しく生きたい....!」
肩に身を委ねるユズは、悲しそうな声で言った。
「私がに死ぬまで、ずっとずっとそばにいて?デートとか料理とかもして、同じベッドで寝て....その....えっちなこととかもしちゃったりして....」
ユズの本気が伝わる。
どうせ、ユズは死んでしまう。
それをわかっているから、何も言えない。
いずれ俺にも死というものが来るはずだ、万物に永遠はない。
けど、もし、この命が永遠に続いて、ユズが死んでしまったら、俺はどうなるだろうか....
ずっと、心にぽっかりと空いた穴を埋めようとするのだろうか。
悲しみのあまり、心を失うのだろうか。
それとも、ユズに変わる女性を探すのだろうか。
....また、終焉を迎えるのだろうか。
もう、終わりなんだ。
後悔するのはこれでおしまいだ。
終焉は、必ず俺が消す。
2度と、この世界に現れないようにするんだ。
でも、ユズが"そう"なったら、俺は....
「でも、私はいつか死んじゃうから、だから....」
ユズが顔を耳に近づけ、囁いた。
「今だけでも、そばにいて?」
俺は、どうしてネガティブな考えに行ってしまうんだ....
今、これほどに幸せなのに。
空が、少しずつ明るくなっていく。
日が差し込む。
大地を照らす。
まるで、『心配しないで』と言っているかのように、暖かく、優しい光が、3人を包み込む。
俯いた俺を、ユズはそっと抱きしめた。
「こんなの、結愛ちゃんが見たらいけないから、滅多にしないんだからね!」
そう言って、その可愛い顔を赤くして、結愛を巻き込んで抱き合った。
昔、生きる意味を探していたのがバカみたいだ。
あの時に、ユズがいれば、俺は、世界は滅ばずに済んだのに。
....世界はもう。元には戻らないのだろうか。
一度傷ついた人の心が治らないように、世界もまた、治らないのだろうか。
気がつけば、あの神社にいた。
「帰ってきたね....」
「そうだな、結愛はまだ寝てるから起こさないようにね」
一つだけ、気になることがある。
この神社の建物内に、何があるのか。
エールとエリアは、どこへ行ったのか。
後者に関しては母船にいるという可能性もある。
けど、もう崩壊して物理法則ですら変わってしまう世界だ。何が起こるかは誰にも分からない。
もしわかる奴がいたら、そいつがこの世界を創り上げたのだろう。
「和人、私も行く」
そう声をかけたのはフィエール。
まあ、当然だろう。
「フィエール。ありがとう。ユズも行こう。何が起こるか分からない」
「分かった」
ユズも立ち上がって答えた。
かなりの大きさの建物を眺めながら、障子を開けた。
......そこには、布団の上で横になったエリアと、謎の巫女服を着た狐の少女がいた。
見た感じ看病しているようだ。
「君は....?」
「やっと、逢えましたね。本来の姿で」
「なんの....ことだよ....?」
彼女は笑った。
不思議なオーラを感じる。
どこかで、かなりの回数会っている気がする。
「和人。この人を知ってるの?」
「いや、知らない....はずだ....」
「フィエールさんは?」
「....私も、記憶にない。だが、どこかで....」
「....そっか....えーっと、あなたは誰ですか?」
ユズが恐る恐る質問した。
彼女は悲しそうに答えた。
「....和人様....酷いです」
「そんなこと言われても」
「私は....エールです。エール・アストリア」
その名前を聞いた瞬間、俺ら三人は硬直した。




