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終焉に終焉を。  作者: 終焉を迎えたTomato
第四章 記憶の闇に

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EP62 知らない世界でも

雨が降り出した。

最初はポツポツと降る雨も、だんだんと強くなっていく。

仕方なく、神社で雨宿りをしていた。

「雨って....久しぶりじゃない?」

ユズは言った。

「俺に聞かれても分からんて....」

「3週間ぶりくらいだろうか。最近はずっと晴天だったからな」

背後からフィエールが答える。

「ここは標高高えし、それが理由かもな」

なんとなくで答えたが、そう言えばそうだ。

ここ聖天地は9000メートルほど上空を飛んでいるのだ。富士山よりも、エベレストよりも高い。

まあこのクソでけえ土地のせいでおそらく天候が狂ってるわけだが。

「ねえ和人。あとどれくらいで止むかな?」

「....予想としてはあと二十分」

「ながーい....暇ー。なんか面白い話ないの?」

さて、一番困る言葉を投げられたところで....

....面白い話なんてないな....クレリアに告白された事を言ったら殺されそうだし。

いや、あれは告白と言えるのか?

その話をしてみるか....

数秒の葛藤の末、俺はクレリアについて話をする事にした。

ああそうだ、死を恐れちゃダメだ。

「えーっと....そうだな....俺が母船にいる時に告白され――」

「殺す」

ダメでした。

ユズから物凄い殺気を感じる。

嫉妬か?嫉妬しているのか?

可愛いやつめ!

「うん....落ち着け?」

「無理だよ」

ユズが怖い。なんかこう....すごく怖い。

語彙力がサボテンになるくらい怖い。

「おおおおおちちちつくのだああああユズ」

「フィエール。お前が一番落ち着け」 

「そ、そうだな....」

「和人。ナデナデしてくれたら許してあげる」

「何それ....」

そんな独り言を漏らしたが、やらないと多分クレリアと俺の命が危ない。

ふとユズの顔を見ると、目がキマっている。

大変だ死んでまう。

仕方なく、「仕方なく」ナデナデをしユズの機嫌を取ったところで少し違和感に気づいた。

少し体が浮くような感覚がした。


その直後だった。


景色がパッと変わり、辺り一面、どこまでも続く草原に包まれた。

俺とユズ、そして結愛だけがここにいる。

さっきまで居たフィエールも、あの街並みもその姿を消していた。

ここはどのような「空間」なのだろうか。

俺は下を向き考えた。

「また転移....次は何?」

ユズが言った。

結愛はユズの裾を掴んで震えている。

一言も喋らず、ただ一人考えた。

しかし、答えが浮かぶことはなかった。

心地よい日を浴び、時間は過ぎていった。

少し空がオレンジに染まり、これから夕方という時間。

この黄昏時に、俺ら三人は固まって地面に腰を下ろしていた。

まるで休日に娘とピクニックに来た親子のように、肩を寄せ合い、結愛を挟んで座っていた。

この異変が、何かは分からないが。

この異変に、何かの意味がある。

それだけは分かった。

涼しく気持ちいい風が吹く。

ユズの髪と、そこら辺に生えた雑草が揺れている。

結愛は疲れたのか、寝てしまっている。

「結局。ここはなんなんだろうな」

「うーん....分かんない。けど、こういう生活、ずっとしたいな....!」

絵に描いたような笑顔を浮かべ、こちらを見つめるユズ。その笑顔を、俺はずっと守りたいと思った。

「....そうだな」

「ねえ和人。こっち向いて?」

「ん?」

言われた通り、ユズの方を見た。

すると、ユズは俺を押し倒し、俺の上で四つん這いになった。

「....ユ、ユズ?!」

ユズは目を閉じて、だんだんと顔を近づける。

ああ、これが、青春か――


俺も、目を閉じて、流れに身を任せた。

唇が重なる。

ユズの温かさを感じる。

この愛は、ずっと消えないだろう。

「和人、顔赤いよ」

ニヤッと笑ったユズは、力を抜いて、俺の上に乗った。

ただ、一つの愛に近づきたい。

俺はユズの体を、そっと両手で包み込んだ。

「和人....大好き」

そう、耳元で囁いた。

何がとは言わんが柔らかい感触を少し楽しみながら、俺は答えた。

「俺も。ユズが大好きだ」

答えたのはいいものの、いざ言うとなるととてつもなく恥ずかしい。けど、後悔はしない。

我慢をしながら、少しユズを強く抱いた。

俺は、絶対にこの声を守ると誓った。

揺れ動く草原。次第に速く、大きくなる鼓動。

その全てが、たった一つの愛に感じた。

これは、「恋」じゃない。「愛」なんだ。

夕日が、二人を照らす。

まるでスポットライトのように包み込んだ光のカーテンは、どこか優しく、見守っているようだった。

「ありがとう。ユズ」

「こちらこそ」

そんな小さな会話を続けた。

会話のキャッチボールとか、話す内容とか、特に何も意識せず、その時間がが幸せに進んだ。

ちょっと苦しいが、それでも、ユズの温かさ、優しさ、柔らかさを感じたまま、俺らは眠りについた。

なんとかつけた焚き火も、もうくたびれている。

いつか必ず、彼女が言ったような生活を送れる世界を。

ユズと一緒に、作っていきたい。

結局、この空間はなんなのかわからないまま。

その世界は幕を閉ざした。

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