EP55 あの日、世界が滅んだ日。
空を見上げる。
星が一つ輝く。
同じものはない。
在ってはならない。
「和人....?」
少し、何かが見えた気がする。
大きな木が生えていて、街が広がって....でも、魔物か何かに破壊されたような....
建築は和風だ。けど、道の感じからして日本じゃない。
「和人....!」
「え?あ、ユズ。起きたのか」
「うん。どうしたの?ずうっとぼーっとしてたけど」
「....な、なんでもないよ」
どうしてだろう。思い出せない。
「ならいいけど....なんかあったら言ってね!」
「ああ、ありがとう」
ユズは元気に言った。苦しい記憶を見た後でも、彼女は輝きを失うことはなかった。
彼女は一番星。空に輝く星のように輝いた。
「あ、和人、またゲートが」
「本当だ。あれ....なんか違う....?」
少し違和感を感じた。前のものは十字に割れていたのに対し、今回は二回り大きく、六芒星の形に割れていた。何かの予兆だろうか。
「仕方ない。入るか....」
「うん」
ここで考えていても変わらない。戦わなければ勝てないのと同じだ。
そうして、俺はまた、ユズの手を取りその世界へ歩き出した。
傘はないけれど、覚悟はある。
きっと大丈夫。
踏み出した瞬間、気づけば俺の実家にいた。
「お兄ちゃん....どうして....!」
明里がいた。泣いていた。
そして、俺は....
首を切って、死んでいた。
これは、あの日の話。世界が滅んだ日の話で間違い無いだろう。
「和人....こんなことが....」
ユズが言った。
申し訳ない気持ちでいっぱいになった。
俺の勝手で、こんな辛い出来事を見せてしまっている訳だから。
「ユズ、ごめん....」
「ううん。謝らなくていいの、求めてるわけじゃ無いし。ただ、少し....いや、かなりショックだっただけで」
ユズは強い。戦闘力ではなく、メンタルが、その精神が強い。
じゃなければ、友人の自殺を目の前にし、その後の終焉で家族、そして世界を失ってもこんなに明るいはずがない。
もし、普通の人なら、もう希望を失い、自ら命を絶つだろう。
「お兄ちゃん....!どう....何?!地震?!」
大きく揺れる。
明里はものすごく困惑した様子で、冷たくなった俺を揺さぶる。
速く逃げなければ自分も死ぬ。それなのに。
「お兄ちゃん!速く起きて!二人とも死んじゃう!」
もうだめなのに。
「速く!!ねえ!速く!!!」
懐かしい声が脳に響く。
涙が溢れる。
救えなかった。守れなかった。
たった一回の、自分の「死」によって、妹を、家族を殺した。
世界をも敵に回した。
一瞬で、約80億人を消した。
そんな俺は今、のうのうと生きている。
幸せを感じている。
笑っている。
どうして俺なんかが生きているのだろう。
俺なんかが生きていいのだろうか。
俺なんかが。
俺なんかが....
俺なんかが――
だんだんとだんだんと、闇に包まれる。
だんだんとだんだんと、闇に呑まれる。
世界が、俺自身が。
闇の中輝き、戦い、諦めない煌めきが、こちらを見つめる。
世界が残酷だと気づいた時には遅かった。
自分が間違っていると気づくのが遅かった。
生きているのが間違っていた。
死ななかったのが間違っていた。
そんな感情が、幾つも脳内を彷徨う。
星。
それは、人の人生を照らす。
ユズ。
彼女が、俺の中の一番星だ。
「和人....大丈夫....?」
手が震える。
「あ、ああ、大丈夫だ」
声が震える。
もっと早く、好きなものを好きと言えばよかった。
もっと早く、生きることを楽しめばよかった。
もっと早く、自分を探せばよかった。
もっと早く。
もっと早く。
もっと早く。
世界が滅べばよかった。
「和人!目を覚まして....!」
ユズのその言葉に、消えかけた己を取り返した。
「ありがとう....ユズ」
まだ、目の前には明里がいる。
逃げると言う、その"選択肢"を放棄した明里がいる。
俺が守れなかった、明里が、俺を守ろうとしている。
涙が止まらない。
俺は、どうするのが正解だったのだろうか。
心に問いたい。世界に問いたい。
きっと、いつかの未来に希望があるのだと信じたい。
「和人、明里ちゃん。移動したよ」
「え?ああ。追いかけようか」
突然の行動に、少し困惑しながらも後を追った。
この空間は記憶かなんかだからなのか、彼女たちからは見えないようだ。
明里が向かった先。
そこには、何もなかった。
勢いよくドアを開いて飛び出した明里だが。知らぬ間に謎の空間に飛ばされた。
そして、そこには....
さっきと同じ、神社があった。
神楽大社。
その文字も、そびえ立つ鳥居も、全てが新しく、煌めくように美しかった。
当然ながら、明里は困惑している。
それはもちろん。俺らもだ。
「ねえ和人。これって....ループしてるってこと?」
「....ループ....か。その可能性は高そうだ。けど、なら俺らは既に明里に会っているんじゃないか?」
世界がループしている。
その考え方は、きっと大昔からあるだろう。
でも、一つ疑問がある。
それは、その世界が、本当に同じ世界なのかと言うこと。
深く考えた。
何度も考えた。
その間、明里はとあるものを見つけた。
「何これ....ナイフ....?」
鋭い刃物。ナイフのようだが、取っ手はない。
明里は、そのナイフを目の前に突き出し、空間を割いた。
その裂け目から漏れた光には、崩壊した世界と、全く知らない世界が映った。




