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終焉に終焉を。  作者: 終焉を迎えたTomato
記憶の闇に

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54/82

EP54 過去の未来

俺の消えた記憶。

失っていたとしても、見ることはできるのだろうか。

そんな考えが頭をよぎる。

というか、あれは本当に記憶なのだろうか?

しばらくして、もう一度視界を取り戻した。

「....神社?」

また、神社が在った。

さっきより、少し大きい。戻ってきたのかもしれない。

「和人....」

震えた声で、ユズが指を差した。その先には、さっきまでなかったこの神社の名前が在った。

"神楽大社"

読み方は「かぐらおおやしろ」であっているだろうか。

聞いたことのない名前だ。

「名前....さっきまでなかったよな....」

「....うん....ねえ和人。私の苗字知ってる?」

突然の質問。

言われてみれば、ユズのフルネームを俺は知らない。

「知らないが....どうして?」

かなりの間を空けて、ユズが答えた。

まだ手の震えは止まっていない。

「私の苗字は"神楽(かぐら)"」

この神社と同じ名だ。

「いい苗字だね。かっこいい」

「ありがとう....何か、私と繋がりがあるのかな?」

「確かに。親から聞いたこととかない?」

「うーん....お父さんは小さい頃に亡くなったし、お母様からも何も聞いてない」

神楽....神に楽が....いや神を楽にする....?

「と、とりあえず、何かある時まで待とうか」

「うん....」

そう言って、階段に腰を下ろした。そう言えば、さっきまでこの階段はなかったな。

この空間はなんなんだろう。

神社以外、特に変わりもない。依然妙に落ち着く空間だ。

「和人....私の身に何かあったら、助けてくれる?」

目の前の夕日を眺めながら、ユズが質問する。

「もちろんだ。必ず助ける。一人にはしないよ」

その時は....いや、そんなことはさせない。


そうして、十数分が過ぎた。

変わらず夕日は沈みかけたまま、そっと俺らを見守っている。

どこか、懐かしい感覚だ。

どうやらユズは寝てしまったようだ。隣ですやすやと眠っている。疲れたのだろう。そりゃそうだ、だって、あんな記憶を見たんだから。

「ユズ、大好きだよ」

「凄く愛が深いのですね。和人様」

突然聞こえた謎の声、振り向く突然そこには雫の姿があった。

「雫....どうしてここに....?」

「泣き声が聞こえたので」

初めて会った時と少し違う。少し大人びている気がした。

「泣き声....?」

「はい。正確には、叫び声も含みますが。....説明するのは大変です。天使と人間では、大きな壁があるので」

「そうか....まあ、言いたくないならそれでいい」

「....ありがとうございます」

誰しも言いたくないことはある。

さっきの言葉が、どのような意味なのか、正直凄く気になるが深掘りしてはいけない気がする。

「....愛莉は....?」

「....えーっと、ここには連れてきてません。色々あって、それで――」

彼女は言葉を飲み込んだ。

「そう....なら仕方ない....」

「....」

「愛莉には悪いな....ここから、抜け出す方法を教えてくれないか?」

「....記憶の....過去の未来をみてください。一人の傍観者として」

「なるほど。分かった」

傍観者。その言葉が、少し引っかかる。

俺が傍観者として世界を見れるなら、また、別の傍観者が世界を、俺らを見ているだろう。

それが未来の俺らなのか、別の全く関係ない人間なのか。

「あ....また、泣き声が聞こえます。寂しくて、小さくて、無力で....まるで私のような泣き声が」

「....泣くことが嫌か?」

「はい。みんなを心配させてしまいますし、何より、笑われてしまうので」

「泣くことは悪いことじゃない。泣きたいなら泣けばいい。その小さな輝きで、大きな悲しみを洗い流せ。涙ってのは、心の叫びだ」

雫。隠さないでくれ。その気持ちを、今、君は泣きたい気持ちでいっぱいだろう?

その心の叫びを。

「和人様....私も泣いていいのですか....?」

「誰だって泣いていい。誰だって弱音を吐いていい。

誰だって、生きているだけでも悲しいことがある。心の叫びを溜め込んだら、いつかそれが爆発して、取り返しのつかない....それこそ、自殺に及んだりしてしまう。いつか、それを上回る希望が、夢が現実になるから、それを信じて泣いてくれ」

俺がそう言うと、雫は静かに泣いた。

理由は....考えないでおこう。もう気づいてはいるが。

「和人様....和人様....どうして命は消えるのですか?どうして死んでしまうのですか....?」

「....不老不死の俺だから言えることが一つある」

夕日の方を見て、静かに答える。

「何にもない明日が怖い。何にもない昨日が怖い。もう、生きたくない。『死』ってのは、俺ら生命に与えられた、唯一の救いなんだ。死ねるって、とても幸せな事だ」

今、生きている人は皆、死が"悪"だとみなすだろう。

けど、俺はそうは思わない。いや、思えない。

不老不死だからこそ、死という喜びが分からない。

確かに、死というプログラムは悲しいものだ。けど、ずっとずっと、辛い人生を歩んでいくよりかはましだ。

「....そう....ですね」

「もう溜め込むなよ。さ、行ってこい」

「....はい!」

元気に返事をした雫はすぐに走り出した。

今のも試練。

新たなる未来のために俺らは進む。


たとえそれが、目の前にあるゲートのように暗く、汚れていても。

明るい未来がその奥にあるのなら、小さな輝きがそこにあるのなら、俺は、俺らは喜んで進むさ。

そう、覚悟しているから。


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