表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
終焉に終焉を。  作者: 終焉を迎えたTomato
第三章 確実に世界を救うために。
51/81

EP51 生きてさえ。

扉の先に、SF感満載の機械が並ぶ。沢山のスイッチ、並ぶレバー。輝くモニター。そして、窓の外の美しく遠い星々。

「ここが司令室か」

「はい。司令室と言っても、操縦するのはあなたですけどね」

「な、なるほど....?」

まあ、明らかに操縦席な見た目をしている椅子があるしな。非常停止ボタンらしきものもそこに着いてるし。

「えーっと、もう行くのか?」

「はい。予定通りの時間です」

「予定つっても緊急のだろ....」

ツッコミながら椅子に座る。右手にはボタンのついたレバー。左手には一つ大きなボタンのついたレバーがあった。

「和人。準備はいいですか?」

「ああ。もちろんだ」

家に帰るんだ。生きて帰れば、それでいい。たとえ事故っても。

移動時間にクレリアがしてくれた操縦方法。それを思い浮かべる。

「まずは....」

「精神融合。です」

精一杯呼吸をし、心を整える。

椅子の後ろから生えてきたモニターに注意する。

精神融合。

それは、この母船と俺の精神を融合させる、高度な技術。フルダイブ型VRゲームのようなものだ。

よう分からん。

優しく目を瞑る。心を落ち着かせ、やがて融合が開始した。

「....和人様、失礼します」

クレリアが言ったのか。何か体に貼られているようだ。そういえば、精神異常や、心拍数の異変などに対応するための装置だったっけか。

「バイタル異常なし....続けてください!和人様!」

敬語が戻ってる....

「ああ、任せろ。必ず生きて帰ってやる。そして、笑顔でただいまって言うんだ」

「はい....では、行きましょう!!」

「出力50%!発進!」

あたりに響く轟音と共に、母船が動き出す。やっと帰れるのだと、安堵でいっぱいだ。しかし、そんな事を考えてる場合じゃない。

今は、やるべき事に集中しないと。

「バイタル異常なし....もうすぐレシオちゃんがきますよ」

「分かった。集中させてくれ」

できるだけ、惑星の重力を使って―


「ユズ、何かあったのか?」

「え?いや、何でも....」

「最近ずっと空を見上げているからな。心配で」

「もー、フィエールは心配症だなぁ〜」

私は気づいている。

「フィエール、私なら大丈夫だから」

「そ、そうか....」

嘘だ。大嘘だ。

本当は不安で不安で仕方ないのに。

和人、まだ帰ってこないの?

早く帰ってきてね。無事で帰ってきてね。

「....まだかな....?」

和人がいないと、私の心が死んじゃう。

早く帰ってきてね。

心の奥底から祈った。

こんな世界でもこんな状況でも月が綺麗だ。

夜と和人は私に優しい。

「この夜が続けばいいのに」

「ユズお姉ちゃん?」

「....あ、結愛ちゃん、何でもないよ」

泣きそうになりながら、空を見上げた。もう地上に人はいなくて、電気も水道も通ってない。だから、星が綺麗だ。

「....和人だ」

「結愛....ちゃん....?」

二人で空を見上げていた。結愛ちゃんの言葉が気になった。

返事をせず、ずっと見上げたままの横顔は、とても可愛くて、ずっとずっと、愛していたい。

....けど、こんな可愛い結愛ちゃんも、消えちゃうんだよね。

涙が止まらない。泣いちゃダメなのに。


「ユズ....?」

一瞬、ユズの泣き声が聞こえた気がする。

寂しそうで、可哀想で、小さな泣き声が、確かに聞こえた。

俺は今、頑張らなくちゃ、ユズが....

「クレリア。少しの間静かにしてくれ。ちょっと本気で集中したいんだ」

「....はい。分かりました。私はそばにいますので何かあれば言ってください」

「ああ、ありがとうな、いつもいつも」

「いいえ。好きな人に優しくするのは当然です」

やめてくれ。

「私は、和人のそばにいたいのです」

やめてくれ....!

「ですので、私はずっと―」

「やめてくれ。今はやめてくれ」

そっか、俺がユズを愛すように、クレリアも俺を愛しているのか。

どうして、俺は今まで気づかなかったんだ。

それだけは揺るぎない事実なのに。

「....分かってます。やめて欲しいのも、フラれたのも」

「....」

「ですが、私は和人が好きなんです....まだ出会って数日ですが、好きなんです....!」

「....意味は違うけど、俺もだよ」

「....はい。ありがとうございます。わ、私は少し、別室に行きますね....!」

クレリアの颯爽とした足音が聞こえた。

「傷つけたくはなかったんだけどな....」

....後悔してる場合じゃない。早く帰らないと。

「できるだけ速く、安全に....!!」

推力を上げていく。

60%、70%....


....100%

あとは少し加速して、転移をするだけだ。

待ってろユズ、今すぐに抱きしめてやるからな。

悪かった。そっちでどれだけ時間が経ったのか分からないが待たせて悪かった。


深く息を吸い込む。

心臓が、強く派手に鳴り響く。

俺の心臓は、まだ動いている。いずれ死するだろうけど、止まる事なく、休む事なく動き続けている。

「やっべえな....心拍数が....」

少し意識が不安定だ。

「けど....!」

守らなければいけないもの。

それが俺にはあるから。

「....心配するな俺、必ず成功する」


もう一度深く深く息を吸い込んだ。

そして、大声で叫ぶんだ。

「....転移!!!」


十二時間。やっとだ。その時間をかけて、十二時間かけて、やっと終わるのだ。

「....これで....ユズに....」

でも、意識が....

転移が終わって、地球に到着した。聖天地だって見えた。

けど....少し無理をし過ぎたようだ。


目の前が暗闇に閉ざされた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ