EP50 迷わず進め
「クレリア!みんなに伝えてくれ!」
「はい!」
緊急事態出発命令。
それは即座に各員に伝えられた。
母船の後ろ側から、微かな振動が伝わる。
「エンジン始動です!」
「和人!早く中枢司令室へ!」
「わ、分かった!」
「私も行く、レシオちゃんは?」
「私は周辺の警戒姿勢を取らないと。だから先行ってて」
「うん。気をつけて!」
母船を走る。
「和人様ぁ!乗って!」
「う、うわっちょっと!!」
突然襟を引っ張られ、宙に浮いた。
「....えーっと....車?」
車のような何かに乗せられた。すごくでかいトラックのようだが、乗り心地は抜群だ。
「長距離輸送用大型車両です!」
「あ、クレリア。車運転できるんだ....」
「長距離輸送レーンに入りますね!」
「....お、おう」
思ったことがある。もっと早くこれを使えばよかったんじゃね?と。でも、何か事情があるのだろう。故に、今は何も言わないでおこう。
「和人。今からやることについて説明するね」
「分かった。ありがとう」
「まず、私たちは中枢司令室へ行くの。ちょうど今向かってるところだけど、あと1時間はかかりそう」
「司令室で何を?」
「そりゃ、司令官としての役目を果たすだけだよ」
「そ、そうか」
何も分からんぞそれ。
説明を受けて少し考える俺に、クレリアは目の前に注意しながら言った。
「もうすぐ自動運転に切り替えるからちょっと待ってて、移動してる間にやりたいことがあるの」
「ああ。分かった。レシオは何処に?」
「レシオちゃんは、外に行った。この母船の外へ」
「周囲の警戒、だな?」
「正解」
よっしゃあ!正解だあ!!とか喜んでるのも束の間、クレリアは自動運転に切り替え、パソコン?のような板を取り出した。
「この間にやることってのはなんだ?」
「....魔力について、聞きたいことがいっぱいあるの」
「分かった。説明すればいいんだな?」
「うん。メモするから。よろしく」
にしても、敬語使わなくなったな....俺の後輩のように、敬語が苦手なのか?
ひとまず俺は魔力について、幾つか説明をした。
魔力の性質、起源、仮説、事実、魔法や魔族との関係。そして、聖力との関係性も。
魔法に関しては、昔いた世界の大学にあった魔法研究所の記憶に過ぎず、確実ではないことを忘れないでほしいとクレリアに言った。
魔力とは不可解なものだ。特に、聖力との関係性は不明な点が多い。どうして交わらないのか、魔力と何が違うのか。
そういえば、魔力はいつどのようにして生まれたのか、その本質はなんなのか仮説などが立っていない時代があったが、その時に見た古代文字が気になる。あれに、魔力に関して書いてあるだろう。いつか見つけ出して研究をしたいものだ。
「以上だ。一応言っておくが、確実に分かっている事ではない。あくまで、ただの仮説に過ぎない」
「そうだね。なんなら、魔力、聖力に限らず、この世界の全てが仮説だよね。本当にそれがあっているかなんて、この世を作った者がいない限り理解出来なよ」
「ああ。しっかりとメモしたか?」
「うん。今できたとこ。えーっとあと30分で着くみたいだよ」
「マジか、結構余ったな。というか、この車、時速何キロで走ってるんだ?」
「230だね。これくらいが普通だよ。なんなら少し遅いくらい」
「マジか、地球より何倍も速いな」
かなりの時間が余った。どうしようか。もうできることはないのに。
外を眺めるクレリアの耳が少し赤い。そして何か言いたげだ。
「和人。地球について教えて!」
「え?」
「地球のことを知りたいの!どうせあとで知るんだし、いいでしょ?」
ダメ?と言わんばかりの上目遣い。甘え上手だな。
....可愛い子は、すぐに甘やかしてしまうものだ。
「分かった。"今まで"地球にあったもの、"今"地球にあるものを教えてやる」
「ありがとう!」
「じゃあ、まずは―」
残りの時間。きっとこれが最後の"二人っきり"
その時間を楽しもうか。
「こんくらいかな。時間もちょうどいい」
「....やっぱり、戦争はあったんですね。それも八回」
「ああ。人は過ちから学ぶ生き物だからね」
クレリアはフィエールのように黙って聞いてくれた訳ではないが、でも、よく話を聞いてくれた。
「みんな元気かな....」
「みんな?」
「あ、いや、何でもない....」
少し間を空けて、クレリアは悲しそうに発言した。
「大丈夫ですよ。きっと、みんな元気ですよ」
「そう....だよな。ありがとう」
「で、では、司令室へ向かいましょう」
きっと大丈夫だ。そう信じてる。けどやっぱり、不安はある。
この先に、最悪がない事を信じて迷わず進め。
自分に言い聞かせた。
さあ、もう家に帰るんだ。




