EP23 もしも世界を護れるのなら
沢山の魔物を目の前に考える。
これも、終焉の影響なのかと、もしそうなのであれば、それは俺のせいだということになる。本当にそうだったとしても、嘘であると言って欲しいな...
「和人、構えろ」
「ああ...」
「...おそらく、魔物はまだまだ居るだろう、私たちは、国民だけじゃない、全ての人々を守る義務がある。私のことは気にしなくて良い。本気で行くぞ、手加減なんてするな」
「了解...!!」
【天の使いよ、罪人を捌け】
できるだけ多く、
「かかってこいやぁ!!」
できるだけ長く、
「食らえ!!」
できるだけ強く、
魔物を殺せ。
赤く染まる空は、どこか遠く離れていた。輝きを失い、希望なんてない。そんなことを言っているようだ。
「か、数が多い...でも、諦めねえ!!」
刀に魔物が触れて、塵と化す。最前線で抑えないと...
この戦いは、いつまで続くのだろうか...
「俺のせいでも、俺が責任を取る!!!そうでなきゃ行けないんだ!」
「和人、これは貴様のせいではない!」
その後しばらく沈黙が続く。フィエールに俺のことをフォローしてる暇なんてない。俺はできるだけ、フィエールが集中できるよう計らった。
いつかの戦いも、こんな感じだった気がする。
...何も見えない記憶、掠れすぎて再生不可能だろう。
ユズは無事だろうか。もしユズが死んでいたら、俺はどうしようか。そんな暗い考えが頭をよぎる。
「これ...多すぎる...」
二人がどれだけ強くとも、勝てないほどに数が多い。
魔物一体一体の力は弱いものが多い、しかし、数には勝てない。
「頼む!早く援軍が来てくれ!」
「あと30分は無理だ!王国内に動きが見えない!」
「国民の優先か...30分、そんなに持つだろうか」
「持たなくとも、やるんだ」
「そうだな....さて、そろそろ再開しようか!」
戦いは続く、もし今の戦いが終わっても、終焉との戦いが待ち侘びているだろう。今はそんなことよりユズと結愛が心配だ...
「せやああ!!!」
これがゲームだったら良いのに。そう思いながら死ぬ気で刀を振る。魔物を斬るその刃は、淡い黒で輝いていた。
これだけやっても、敵の数は変わらず、むしろ増えていた。一向に減らない敵を目の前に、フィエールは脚がすくんだり、手が震えたりしていなかった。
「強いな...フィエールは...」
「...」
フィエールは無言で、魔物を薙ぎ倒していた。
その顔は、集中して戦えと言っているようだった。
「おらああ!!!」
【夢の名残よ、未来を見透せ】
未来が見える...というより、次の攻撃の予測が表示されると言った方が正しいか。そんな魔法を使ったり、
身近なものを利用したりしてできるだけ多くの敵を倒す。
【神の怒りよ、舞い降りろ!】
初級魔法や中級魔法。それらをそれぞれの敵の強さで選び、放つことで魔力の消耗を抑え、長く戦えるように調整する。上級魔法はあまり使わない、上級魔法は少し時間がかかるからだ。約3秒と言ったところだ。ただその分威力が高かったり、範囲が広かったりする。でも、ここにいる魔物は中級魔法で十分だ。
もう一度当たりを見渡す、やはり数はそれほど変わっていない。
その時気づいたが、魔神エラルドが姿を消していた。
俺らを殺せると確信したのだろうか?って今は戦いに集中しないとな。
「せりゃあああ!!!!!」
フィエールはずっと無言だ。
これが...戦争か...戦争なんて多分初めてだ。...いや何回かあったな。俺も参加した、あの戦争...確か、中国と日本で戦争してたかな。今まで思い出せなかったのに、その時の記憶が蘇ってくる。
大事な仲間を失ったあの時を。
「翔太!大丈夫か!」
「...あ、ああ和人...大丈夫...では..ないかな...」
「ッ!...だ、大丈夫だ回復魔法をかけてやる!」
「無駄だよ...和人...俺はいいから...君だけでも...」
「で、でもお前が!...」
「二人とも死んだら、元の子もないだろう?それに...上を見ろ...」
「え?上...?」
上を見た。そこにあったのは
「自爆ドローンだ...」
「翔太、逃げるぞ!」
「やめろ!」
「しょ、翔太?」
「きっと俺は助けられても生きることはできない。なんせ体が抉れてんだ、もう遅いだろう。だから、だから!俺の分も生きてくれ!この世界の戦争を止めてくれ!」
翔太は体が半分以上消えた状態で叫んだ。涙を流しながら、だんだんと冷たくなっていく。
「翔太...翔太ぁ!!」
「和人、今まで....ありがとう...楽しかったよ...」
「翔太ぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
真上を飛ぶドローンに、早く爆破して欲しかった。
けど翔太は俺に生きてと言った。当時の俺は中学生、
大人な回答とかができる年齢ではなかった。でも、翔太が息絶えてすぐに、目の前で仲間が粉々になった。
俺は、中国を恨まなかった。なぜなら、中国にまた、同じことを経験している真っ最中だからだ。
今のこの“戦争”もあの時と似ている気分で、あの時を思い出す。翔太をなくした俺は、心を無くして戦った。そして13年続いた戦争は幕を閉じた。中国は崩壊、日本は戦勝国となった。
今は、あの時と違って、勝ち負けなんてない。
終わったら最後、勝ちも負けも決まらず、世界は終焉を迎える。この戦争で、世界が変わる。きっと世界がいい方向に進んでいくことを願って、あの時とは違う様になることを願って、俺は、俺らは戦う。何時間戦ったのか分からなくなったころ、やっと援軍が来た。
その数...15人...
「...たったの15人....なんでこんなに少ないんだ...?」
15人だけでも嬉しいさ、けど、明らかに少なすぎる。
装備を見る限り、先鋭部隊ってわけでもなさそうだ。
「こちら、部隊、レグルス!参りました!」
「レグルス...どうやら、事態はかなり深刻なようだ」
「え?...」
「レグルスは予備軍、仕事のほとんどが災害派遣のみだ。今回そんなレグルスが配備されたということは、きっと別のところにもこの様なこと、もしくはこれよりもっと大変なことになっているかもしれん」
「はい、フィエール様のおっしゃる通りです」
「ま、まじかよ...」
これほどのこと、今回が初めてだ。今までこんな経験をしたことがない。もちろん、あの時も。
少し遅れて馬車が到着した。
そして降りてきたのはユズだった。
「和人!!」
「ユズ!?無事だったのか!」
うん!」
ユズは一息置いて言った。
「今王国内でも、王国の外でも、大陸中で、大変なことになってるの」
「まさかとは思ったが...本当にそうなるとはな」
だから、結愛ちゃんは、王宮で保護してもらってる。私は、自分で行きたいって言って来たの。だから情報を集めて来たわ」
「ありがとう、助かるぜ」
それはこっちのセリフ。じゃ、説明するね」
「できるだけ手短に頼む」
ユズは小さく頷いて説明を開始した。
どうやら、今世界中でやばいことになっているらしい。
まずは終焉について、この世界に複数個ある終焉は拡大を続けていることを確認した。同時に、この世界に終焉の本体がないことも確認できた。この場合、本体はおそらく東京だろう。
そして次に魔神について、今まで古の英雄によって封印されていた魔神ら11名は、終焉の影響で封印が解け、世界中を彷徨っている。終焉の影響によってなのか、そいつら一人一人の強さがとんでも無く上がっているそうだ。
最後に、世界の結合、それがここ、エールのアリスト大陸で発生する可能性が高まっているということだ。
もしこれが発生すれば、終焉ノ鐘が鳴るのと同じく、
かなり危険なことになる、そして避けなければいけないのは、俺らの世界、地球...いやコスモスとこの世界エールが結合することだ。それは起きてしまったら、もう後戻りができない。世界を救う方法は宇宙をゼロから作り直すしかない。
以上のことを踏まえて、俺らは戦いに急ぐ。少しでもこの状況を打破しなきゃいけない。過ちなんていくらでもあるだろう。過ちが悪い訳じゃない、悪いのは、その過ちをなんとかしようとしないことだ。
きっとなんとかなるさ。そう自分に、世界に言い聞かせて、俺らは戦う。
自分のために、世界のために!!!