EP15 たとえ、可能性がなくとも
終焉を消す方法、それをユズと結愛に説明した。
これが不可能だとしても、これ以外方法がない。
どうにかして運命を捻じ曲げないと。
第二章 世界の英雄たち 開幕
終焉、俺と一緒にこの世界に現れた。この世界を滅ぼしたもの。
俺のせいで、世界が滅んだんだ。だから俺が終焉に終焉を告げる。俺が絶対にこの世界を守る。
そして言うんだ。
「この世界が大好きだ」と。
ユズも結愛も作戦に賛成した。もう迷う余裕はない。
早く”次の世界“へ行かなければ。
「和人、もう行くの?」
「もう行かないと、間に合わない」
この世界はまだ完全に滅んだわけじゃない。取り返しのつかなくなる前に、終焉を止めるんだ。世界を守るんだ。
世界を守るための作戦、それはこの世界じゃない世界へ行き、各地の英雄を仲間にするんだ。
「私も行くけど、結愛ちゃんは?」
「...連れて行くしかない」
こんな世界に1人、おいて行くことはできない。
「私なら大丈夫!」
「結愛ちゃんは私が守る...」
ユズのその言葉は力強く、でもどこか怯えていた。
「俺は転移の準備をしてくる」
今回はいつもと少し違う魔法だ。その違いは転移用の魔法陣が必要か否か。同じ世界であれば、魔法陣は必要ない、けど今回は世界移動だ。異世界転移、と言った方がわかりやすいか。
転移用の魔法陣、かなり複雑だからしっかりと動作するといいが。...準備は終わった。さて、そろそろ出発だ。
「準備はできた。そろそろ出発しようか」
「うん....怖いけど、きっと大丈夫だよね」
「大丈夫、俺が絶対に護るから」
次の世界、そこがどのような世界で、どのようなことが起きているのか、何も分からない。けど、たとえどれだけ苦しくとも、行かなければならない。
「さあ、行こうか」
「うん」
「...」
大きく息を吸い込み、唱える。
【新たな道を切り開け、そして導け】
気がつくとそこは、森の中の切り開かれた道だった。
ここはもう日本じゃない。完全な異世界だ。
視界の先に美しい山々に囲まれた街が見える。
まずはあの街を目指そう。
「ここは?」
「分からん、完全な異世界だ」
「怖いよぉ...」
何もない砂利道を歩く、いかにも異世界って感じの道だ。
「この道をまっすぐ行けばあそこにある街に着くんじゃないかな?」
「そうだな、きっと着くはずだ」
「結愛ちゃん、行くよ!」
手慣れてんなー、こいつ。と思いつつも、前へ歩き出す。景色を見ながら歩いていたら、案外早く街に着いた。
「いらっしゃい、兄ちゃん見ねえ顔だなぁ、旅人さんか?」
「はい、遠いところから来ました。ここはどこですか?」
「ここは、ジェネシスって街だ。よく始まりの街って言われてるんだ。ここはいい街だから、ゆっくりして行ってな!!」
「はい、ありがとうございます」
俺らはどうやら始まりの街、ジェネシスへ来たようでとても綺麗な中世ヨーロッパような街並みだ。
「和人!綺麗だね!この街」
「ああ、とても賑やかだな!」
どこからかいい匂いがする。最初に気づいたのは、結愛だった。
「和人!あっちにパン屋さんがあるよ!」
「この匂いはあそこからだな」
「食べたい!」
「いいね〜、行こうよ和人」
「お前らは気づいてない...そう!ここの通貨を持っていないことに!」
ここは異世界だ。当然、円が通貨ではない。こういう世界で稼ぐ方法...それはギルドだ。大抵の場合、ギルドで登録し、クエストをクリアすれば、お金がもらえる。
「っつうことで、まずはギルドに行こう」
「ギ、ギルド?」
「ギルドってなあに?」
「ギルドっていうのは...そうだな、クエストを受ける場所、とでも言おうか。大抵の魔法のある世界にはモンスターがいるからな。それを倒して、お金をもらうんだ」
「な、なるほど。お金を稼ぐ場所ってことね」
「よくわかんなあい」
「まあ結愛は分からなくても問題ないよ」
ギルドの場所を住民に聞いて、歩き出した。その時、大きな音が街中を響きわたる。爆発音?か何かが遠くでなった、ギルドの反対側だが、嫌な予感がしたので急いで音の発生した場所へ向かう。煙が上がってきた。
「ユズ!気をつけろ!」
「うん!」
やがて、音の正体が分かった。......魔物だ。
始まりの街なのに、こんなことになっていいのか。
粉々になった建物から、傷だらけの人が出てきた。
彼女は言った。
「魔物が急に出てきて、家族を殺したんです!助けてください!」
「分かった。ユズ、回復魔法を」
「うん!こっちへ」
ユズも結愛も、出てきた人も逃して、鞘から刀を出す。どうしようもない怒りが込み上げる。
人を殺したのが、たとえ魔物であっても、許すことはできない。だから...
【愚かなものよ罪を償え】
魔法を唱えて、殺せると思った俺はバカだ。この魔物は、魔法を跳ね返した。
「...めんどうだ」
刀を強く握りしめる。瓦礫の隙間から、血まみれになった手が見える。まだ小さな手だ。結愛くらいか。
集中して、刀を構え、振り下ろす。
バシャアと勢いよく血が噴き出る。血の雨が降り、地面を真っ赤に染める。魔物は消えた。
怒りを抑えて、瓦礫をどかす。小さな体の上に父と思われる若い男性がいた。けど、どちらももう息絶えている。せめて、祈りだけでもしよう。
俺は、さっきの女性のところへ向かった。良かった。女性だけでも生き残ったようだ。
「魔物は消しました。けど、他の方々は...」
「いいんです、それだけでも、きっとあの子たちも喜んでくれますから」
彼女は、涙を浮かべながら言った。
そうしてすぐ、軍のような大勢の人たちが集まってきた。どうやら、保護や処理をしてくれるそうだ。