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私のお母様  作者: 河辺 螢
本編
6/17

6

 ところが、お母様は自分のことに領のお金を使うような人ではなかった。

 ジョルジュと一緒に今後の収支見込みを立て、十年計画で領内の道と水路の整備を行うことにした。まずは領主の館がある街を中心に、領を横断する通りから。全舗装までは行かなくても、凹凸をなくし、馬車が通る充分な広さを確保し、定期的なメンテナンスを。

 大がかりな道の整備に街には雇用が生まれ、他の領から出稼ぎに来る者も受け入れた。この領が気に入り、定住を決めた者もいた。


 ノーマンは気は弱いけれど執事としてはそれなりに働ける人だった。ジョルジュから仕事を学び、ジョルジュとの契約が終わった後は、お母様と一緒に領の建て直しに務めてくれた。


 水路の整備は喜んで受け入れるところが多かったけれど、中には反対する村もあった。

「今まで通りで不都合はない。女がしゃしゃり出てくるな」

 それが村長の言い分だった。

 お母様が領主代理だと言っても、お父様の一筆を見せても同じだった。

 【頭の固いこと…。ま、後回ししかないわね。】

「わかりました。ではこちらに一筆いただけます?」

 お母様は村民の総意で水路の整備はしないと決めたことを記し、村長のサインをもらった。

 そんな町や村が三つあったけれど、お母様は一筆をもらっただけで無理強いすることはなかった。


 山から持って帰った草はお母様のお兄様、アルフレッド伯父様の元に送られ、他国から輸入している薬草と同じ効能があるものか調べてもらった。すると、ほぼ同じ効能があることがわかった。その他にも薬草として使える草が三種類あり、どれも輸入頼りだったものだ。

 輸入に頼ってきた薬草を自国で手に入れられるようになれば、もっと多くの人に薬が行き渡る。お母様が目をつけたのはそこだった。

 【比較的お金のあるうちでさえ、お母様の薬が手に入らないことがあったわ。咳に苦しむお母様を見ているのはつらかったもの…】

 お母様は人を雇って山の中腹にある山小屋の周辺と、山のすぐ下の村にある畑で薬草を育ててもらうことにした。成功しても失敗しても代金は払う。その言葉に村人は喜んで草の世話をした。村人にとっては珍しくもない雑草。これでお金をもらえるなら願ったりだ。

 山小屋の周辺ではそこそこ育つものの、持って降りて移植すると弱り、育つのは半分以下だった。一見雑草ではあるがなかなか難しい。しかし畑の知識を持つ村人の工夫で、少し匂いは薄いが葉の大きな草が下の畑でも徐々に安定して育つようになっていった。効果は若干薄いが、その分多めに使えば充分薬として使える。


 お母様の実家、レンフィールド商会と契約して育てた薬草を買い取ってもらえるようになると、薬草事業は着実に収益につながった。山小屋近くの畑で育てた薬草は特に高い値で買い取られた。収穫量は少なく、運搬も一手間掛かるが、割のいい副業に村人も喜んでいた。

 収入が増えれば税収もある。それをきちんと使っているところを人々に見せなければいけない。山の麓に続く道は優先的に整備され、馬車の揺れが少なくなると出荷する薬草の傷みも減り、出荷時間も短縮されるようになった。

 住民の意見を聞いて、畑だけではなく街の中にも水路を通し、生活用水として使えるようにした。

 井戸や泉もあったが、水の運搬に時間を取られなくなり、住民にゆとりもできた。

 山麓の街は少しづつ変わっていった。


 領の収益の増加はお父様には伝えられることなく、前年ベースで報告すればお父様は満足していた。お父様はそういう人だったのだ。


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