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【転生代行】~勇者を量産するちょっとアングラなお仕事~

作者: 徳村ショウイチ

短編をいくつか投稿していきます。

気が向いたり反応が良ければ続編作る感じでゆるくやっていきます。

「佐藤拓也さん、あなたは死んでしまいました。」

よくある転生モノのワンシーンだ。


何処にでもいるような高校生、佐藤拓也はその茶番に付き合わされていた。

「ここは、、、どこ?あなたは、、?」

おっと、佐藤くんはノリがいい。お手本のような回答をしてくれる。

「ここは天界。私は、そうね、あなたの世界で言う女神よ。」

女神は白く、シルクのように艶やかな長髪を靡かせながらそう言った。


「転生モノは嫌いじゃないけど、冗談はやめようよ。女神なんかいるわけないでしょ?」

さすが佐藤くん、現実的で無難な回答だ。

「あなたがそう思うのならそれでいいわ。けど、あなた異世界に興味あるんでしょ?もし良ければ別世界に転生させてあげるわ!

剣と魔法の世界に!もちろんそのままの姿でもいいけど、やっぱりキャラメイクしちゃう?」


佐藤くんの疑問をそっちのけに、どんどん話を進める女神。テンプレ化した茶番も雑になぞるだけがトレンドになっている。

「だから、そんなアニメみたいな話あるわけな、」

「おっけー!剣と魔法の世界ね!!イケメンで頭脳明晰で運動神経抜群でついでに料理もできる完璧超人に転生させてあげるわ!少しサービスして魔法を使えるようにしてあげて、あ!あとちょうどあなたみたいな子を探してたのよ!!」

佐藤くんの言葉を遮りどんどん話を進めてしまう女神。少しどころかだいぶ雑なサービスだ。

佐藤くんは呆然としている。そりゃそうだ。


気づけば佐藤くんを中心に魔法陣のようなもの、いや、魔法陣が描かれ、煌々と光を発している。

眩しさに思わず目を細めてしまう佐藤くんに対して女神は畳み掛ける。


「それじゃあ、新しい世界に行ってらっしゃい!グッドラック!」

佐藤くんがその言葉の意味を理解する前に魔法陣がより一層強く発光し、光が消えたあとには女神以外誰もいなくなっていた。

こうして佐藤くんは転生した。


「はあ、今日の業務はこれで終了、お疲れわたし、えらいぞ~」

佐藤拓也の転生が終了し、沈黙が訪れた天界に、女神の疲れが籠った独り言が放たれる。

「本日もお疲れ様です女神様。」

その独り言を拾うかのように、どこからともなく現れた中年の男性が労いの言葉をかける。

「あ、おじさん。見てたの?」

おじさんと呼ばれた男性が身にまとうのはピチっと整えられ、皺一つないスーツだ。


だが、それはあまりに天界に似つかわしくない。ファンタジー作品にでてくる執事の着用するタキシードとはわけが違う。

中肉中背、ほんのり薄くなった髪と眼鏡が合わさり、ザ・サラリーマンと言った風貌だ。


「それじゃ、あいつらに振込よろしく~、次回の発注もかけちゃって」

「承知しました。候補者リストも合わせて送付しておきます。」


ファンタジーから一気に現実に引き戻されそうな会話が飛び交う天界。

「いつもありがとねおじさん!」

女神の労いを受けた男性は恭しく一礼し、その姿を消す。


____________________________________________________________________


~数時間前~


「今日のターゲットはこいつ、名前は佐藤拓也だ。」

「えーっと、八王子市在住、南野高校の2年生。パッとしない顔っすね~。」

「おい、ジロー。支度してさっさと向かうぞ、簡単な依頼だからな。」

「おっす、アニキ、車回してくるっす!」

都内にある雑居ビルの一室にて、男達がそんな会話を繰り広げる。

ファンタジーはおしまい。一気にアングラな世界へGOだ。


ジローと呼ばれるやんちゃな青年が颯爽と準備に取り掛かる。

「あ、南野高校の生徒はうちらの同業者も狙ってるから気を付けてくださいよ。」

その一言を聞き、アニキと呼ばれる男は軽く舌打ちする。

「めんどくせぇな。同業者に取られると手間なんだよ。」

どうやらターゲットである佐藤拓也は競争率が激しそうだ。


「アニキ、準備できましたよ、行きましょう。」

ジローが雑居ビルの表に回したトラックにアニキが乗り込む。

「おう、向かうぞ。」

そう告げるとトラックは南野高校へと向かい走り出した。


ピーンポーンパーンポーン

南野高校では、終礼を告げるチャイムが鳴っていた。

2年D組の教室では担任が帰りのホームルームをしている。

「あー、お前ら全員いるな。」

クラス全員を確認する担任に対し、生徒の1人が声をかける。

「せんせー、佐藤がまだ来てません!」

その言葉を受け、先生は少し眉をひそめた。

「あいつもか、今日は居残りかもしれんな。まあ佐藤のことはHR後にしてくれや。」

先生がそう告げると日直が号令をかけ、本日の終礼が終わる。

(うーん、まだ寝足りないなぁ)

そんなことを思いながら、佐藤くんは保健室のベッドに横たわっていた。


「へー、佐藤拓也って、意外と不真面目なんすね。」

「さあな、体育館裏でリンチされてるかもわからん。」


帰りのホームルームの様子を盗み聞きして、各々勝手な感想を言い合う二人組がいた。

南野高校沿いの路地につけられたトラックで待機しているアニキとジロー。


佐藤くんの帰りを待つ怪しい二人組の想いとは裏腹に、佐藤くんはまたしばらくの眠りについた。


「おっ、出てきたっすよアニキ。」

トラックの窓から、南野高校から1人の男子生徒が歩いてくるのを確認する。

「どんだけ待たせるんだよ、もう20時だぞ!」

「部活やってる生徒はこの時間ですからねー。」

「依頼書のプロフィールにちゃんと帰宅部って書いてあったぞ、まあいい、追うぞ。」

アニキの言葉に従いジローは車を発進させる。


(あれ?なんか今日の感じいつもと違うな)

少し違和感をおぼえる佐藤くん、いい勘してるぞ。


「いいか、ジローもう一度確認するぞ。依頼主からの今回の指定は

1.下校途中を襲うこと。2.銃器以外での殺傷。3.襲撃時の目撃者なし。以上だ。」


「歯がゆいですね~、夜なのにちゃんと人通りの多い場所を選んでる。」

佐藤くんの自宅は南野高校から徒歩20分。その間に勝負を決めないと依頼達成とならない。


「チッ、ここからは二手に分かれるぞ、俺は歩きで後を付ける。お前は俺が指定するポイントで待機だ。」

「やだなぁ、こっちまで緊張してくるじゃないっすか~、あいよー!」


二手に分かれた2人は、それぞれ佐藤くんの動向を伺う。人通りも少なくなり、そろそろか。といったところで、、、

「ねぇ君、高校生?お姉さんと遊ばない?」

スラっとした高い背丈に、黒髪のショートボブが似合う、いかにもな怪しい女に絡まれた佐藤くんが口を開く。

「いいですけど、僕、お金ないですよ。」


(おい!マジかよこいつ!)

(最近の若者ってのはみんなこうなのか?思春期、恐るべし。)

あっさりとハニートラップにかけられる佐藤くんに、少し後ろで聞いていたアニキと通話を繋いでいたジローが呆気にとられる。


「大丈夫よ、私も家、こっちのほうだから、歩きながらお話ししましょ。」


「おいジロー、作戦変更だ。もう轢いちまって構わねえ!おそらく同業者で間違いねえ」

「りょーかい!俺もそう思うっすけど、もし違かったら知らないっすよ!」

依頼主からの3つ目の指定、「襲撃時の目撃者なし。」に同業者は含まれない。


「へー、お姉さんにも聞かせてよ君のお話」

そういいながら女の手は既に佐藤くんの腰へと伸びている。


「趣味は、えと、特にはないです。」

緊張からか脈絡なく話し始める佐藤くんにジローも驚く。

「そうなのね~、お姉さんは大学生よ、ところで君彼女とかいるの?」

女は顔を佐藤くんに近づけながら色気のある声で尋ねる。

「いやー、まだそういうのはなくて」


(あれ?なんで僕、知らないお姉さんとこんな話してるんだろう?)

「え!?君、童て、じゃなくて高校生よね?」

「可愛いなぁ。お姉さんが色々教えてあげちゃおっかな♡」

女は少し目じりを下げながら色っぽい声で佐藤くんに尋ねる。


「やあ、ター坊、ジローちゃん。」

突然、アニキとジローの通話に割り込みが入る。アニキのことをター坊と呼ぶ声はしゃがれており、初老の女性に感じられる。

「ババア!今取り込み中だ!邪魔すんな!」

「仕事中にババアとはいい度胸してるじゃないかい?あたしにはちゃんとチヨって名前があんだよ。せっかくいい情報持ってきてやったのにさ。」


通話越しにバチバチの雰囲気を醸し出す二人、というかター坊と呼ばれたアニキが一方的に突っかかっているだけか。

「今、ターゲットの隣にいるク〇ビッチは元・阿修羅会の羽月ってやつさ。」

このババア、アングラな仕事に絡んでいるだけあって口が悪い。

「参ったな、阿修羅会が絡んでくるとなると話は別だ」

「安心しな、とっくの昔に破門されてるからね、それに普段は姿を現さない。知らないのも無理はないさ。ただ、あいつは微力だがチャームのギフトを持っておる。ターゲットはもう離れられないよ。」

「なるほどな。なら、やっぱり突っ込むしかねえな。やれ!ジロー!」

そう告げるアニキの声に合わせて、ジローの乗ったトラックが二人を襲った。


当然、避ける間もなく佐藤くんは即死。羽月も例外ではない。


「あっけなく終わったな。結果的に羽月が人通りの少ない所に連れ込んでくれて助かった。ご苦労だったな、ジロー。」

「うすうす!帰って依頼主に報告しましょうや!」


後日、羽月の遺体は現場から消えていたのだが、二人がそれを知るのは少し先のお話。


場面は再び、2人のアジト、雑居ビルへ。

「無事依頼完了っすね!お疲れっす!」

佐藤くんが死んでからまだ1時間もたっていないが、二人はケロッとしている。職業柄なのは言うまでもない。


机に雑においたスマホが鳴りだす。依頼主からだ。「ああ、もしもし。」

「ご苦労でした、無事依頼達成。後処理はいつも通りこちらでいたします。報酬は100万。いつもの口座に振り込んでおきましたので。

それから、次の依頼についてもリストをまとめて共有しておきます。受けたい依頼があれば、、、」


「やあ、ター坊、無事完了したみたいだねえ。」

またしても割り込み。チヨだ。

「何の用だババア!」

「そう怒らないでって、情報料として、口座から50万抜いといたから、それだけ!体あったかくして寝なさいよ、じゃあね。」

ブツ、、、

そう告げると電話は切れた。


「ふざけるなよ!あのババア!!」

たった数十秒の活躍で今日の報酬が半分になってしまった。

「よーし、これでパーッといきましょ!アニキ!」

電話の間寝てたのかと思う程、脈絡のない声をかけて来るジローに、調子を狂わされたアニキは提案に乗った。


__________________________________


「さーてと、次はどの子が勇者になるのかしら」

天界では本日の業務を終えた女神がそう呟いていた。


__________________________________


本日の転生者

名前:佐藤拓也

年齢:16

所属:南野高校

称号:平凡/童貞/転生者/トラック転生者/

転生特典:チャーム5/料理人8/剣技5/魔法基礎2/言語理解

佐藤くん、異世界ではがんばれ!

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