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第7話  この世界と地獄の特訓の日々の始まり


「さて…それじゃあこの世界について説明するとしましょう。」


「お手柔らかにお願いします…。」



2階の204号室について荷物を下ろし、はぁと一息つきながら少しの間、ぐでーっと大きなベットに寝転がって休んでいると、鏡花はサイドテーブル近くの椅子に腰掛け、隼人たちが召喚された世界の事情やらルールやらについて話し始める。



「現在この世界では魔王の率いる軍勢と、人間勢力が戦っていて、私たちはその戦力増強のために呼び出された異世界人よ。」


「うわぁ…なんか本当に王道物の異世界転生って感じ。」


「異世界から正式に招待された…国から召喚された異世界人たちは勇者と呼ばれて、国のために色々と任務をこなすのよ。」


「正式に招待?正式とか不正式とか、普通に召喚された人たちが勇者になるってことでしょ?」



誰かに召喚されたら勇者!という方程式みたいなものが自分の中にはできていたし、そもそも召喚以外で異世界転生なんて…



「あ、そっか。トラ転とかでこういう異世界にやってくる可能性もあるのか。」


「とらてん?聞いたことのない言葉ね…。」


「ええっと…トラックに轢かれて死んだら転生した!って言うのをトラ転って言うんだけど…知らない?」


「最近よくある小説の…ラベル?だったかしら?」


「ラベルじゃなくてラノベね?て言うか水原さん、ラノベ読んだことないの?」



最近の若者…と言うか、結構いろんな人がラノベを読んでるし、逆にラノベを読んだことない人なんてあんまりいないと思ってたからちょっと新鮮…。



「基本的に技術書や哲学書とか…他には文豪の本とかくらいしか読むことがないし、そもそも本を読んでいる時間自体が少ないのよ。」


「て、哲学書…僕が一生読まなさそうな本だ…。そもそも、哲学書って読む必要なくないか?まあ流石にソクラテスとかは知ってるけど、あれってただ人の事論破してただけじゃないのか?」


「いえ、ソクラテスの生前の言葉の中に『無知の知』と言う有名な言葉があるでしょう?あれは自分がいかにわかっていないかを自覚せよって言う意味の言葉なのよ。だから、ただ論破していただけの人間ではないわ。」


「へぇ…そう言う意味だったんだ。初めて知った。」


「話を戻しましょうか。この国の国王は勇者を呼び出しては無茶な依頼を託し、生き残った異世界人をさらに様々なトレーニングを積ませることで強化させ、少数精鋭の部隊を作ろうとしているみたいね。私たちもその部隊に入れるための人員確保として連れてこられたみたいだったわ。」


「じゃ、じゃあ…あのドラゴンを倒せって言われたのも全部、部隊を作るためで…」


「無理難題を課せられたってわけね。…まあ、そんな事を考えても今更どうしようもないわ。次にこの国の情勢とか、民間人の異世界人への印象とかだけど。」


「あ、うん。切り替え早いな…なんかこう、もうちょっと感傷とかにひたりたかったかも…。」



自分達はそのためだけに連れてこられたのかだの、どうしてそんな無理難題を突きつけられたんだだの、そのせいで僕はもしかしたら…だの、いろいろと思うところはあったのだが、水原さんのあまりにも早すぎる切り替えのせいで、どうにも何とも言えないような感覚になった。


いやまあ重い雰囲気になるよりかはまだいいけどね?でも、なんか何にも感じる暇がないのは違うと言うか…まあいいか。


なんて言えばいいかわからなかった隼人は、とりあえず思考を放棄した。



「はっきり言って私たち異世界人に向ける印象はあまり良くないわ。」


「えぇ?!てっきり世界を救ってくれる英雄だ!とかめちゃくちゃいい印象を持たれてると思ってた…。」


「過去20年のうちに非道な異世界人が何人か来たみたいで、村の食糧をほぼ全て取っていく、助けた人たちから金銭を奪っていくなど、なかなか酷い事ばかりしていたから、異世界人は酷い奴らだ、とこの世界の人たちは思ってしまったみたいね。」


「そんな事が…でも、僕たちはそいつらと別人なんだから異世界人がみんな酷いやつだとか思われるのは違うと思うんだけど…」


「それでも、向こうからすればいつ20年前みたいな異世界人が来るかわかったものじゃないから、警戒するのは当然でしょうね。」


「うーん…そんなことを言われちゃったらどうしようもない…。あれ?でも水原さんはこの街の人たちに随分よく思われてるみたいだったけど。」


「馬鹿正直に私は異世界人です、なんて名乗るわけないじゃない。この世界がどんな状況かも分からないのに、下手に自分の身分を言うべきではないわ。適当に少し裕福な平民の出、もしくは商人の娘とでも言っておけば信用してくれるのよ。」


「へ、へぇ…もしかしてだけど、水原さんって異世界転生何回かしたことあるんじゃない?って思っちゃうくらいなんか対策が完璧だよね。」


「それはともかくとして、国の情勢についてだけど…現国王への不満が強い、それくらいしか伝えるべきことはないし、特に気になることもなかったわ。」


「あの王様評判悪いの?僕たちがドラゴン討伐の依頼を受けた時は、民のためを思ってとか、結構いい人そうだったんだけど…。」


「外面を良く保つためでしょう。それも、他ならぬ優秀なスキルを提げて(ひっさげて)来るはずの異世界人に悪い印象は与えたくないでしょう。優秀な兵力になるんですもの。」


「うっ…!やめてくれ、スキル関係の話は僕に刺さる!」


「何だか中二病みたいな口調になってるわよ。」


「あ、中二病は流石に水原さんでもわかるんだね。」



ジトーっと目を細めて鏡花の方を見ながら、隼人は何となく現在自分が置かれている立場…と言うか、国とか世界とかについての理解を深める。


ただ、それがわかったからと言って、何をすれば自分が有利に立てるだとか、どこに向かったほうがいいかとか、そもそも自分は何をすべきかとか、そう言うのがわかるわけもないし…まず第一に、自分は元々何の変哲もない一般市民Aだったのだから、異世界に来て突然軍師的なアイデアを思いつけるわけもない。


…まあ、戦争シュミレーション的なゲームはやってたけどね…あれはそもそもゲームだし、難易度も他のシリーズと比べると簡単だったし…脳筋できない奴はなんか難しすぎた。



「考える事が山積みだ、とか…もしくは何をすべきかわからないとか、そんな事を考えてるんじゃない?」


「えっ?!」


「その反応だと当たりみたい。」


「すご…僕の心よんだのかって思うレベルでピンポイントに当ててくるじゃん。」


「大体考える事は予想がつくわ。突然死にかけたり、この世界だと自分たちは歓迎されないなんて言われたり…どうすればいいかなんてわからないでしょうね。」


「…水原さんは、僕と同じような状況に置かれてるのに、めちゃくちゃ冷静だし、いろいろ行動できるよね。」


「行動しなければ死ぬんだから、当たり前でしょう?」


「お、おおぅ…直球だなぁ…。」



確かに自分の知らない世界だからと言ってわんわんないていても死ぬし、動かないといけない事は本当なんだけど、それにしたってド直球。


それに何にも間違っちゃいないから反論のしようもないときた。


うーん…もうちょっとだけオブラートに包んで言ってくれないもんかなぁ…なんて、考えては見るけど、多分無理だろうなぁ。


なんか、それする必要がないでしょ?とか、現実を受け入れないとどうしようもないでしょう?とか言ってきそう。



実を言うと正解である。なんせ鏡花は人にものを言うときにオブラートに包んだ事がないとかそう言うレベルではなく、そもそもほとんど人と関わってこなかったため、実は対人スキルがへっぽこなのだ。


鏡花自身はそれを認識しているし、変えるために対人関係の本などを少し読んではいたが…如何せん、実戦経験がなさすぎた。


冷静沈着、クールな印象の水原鏡花は、実は対人関係ちょっとへっぽこの普通の女の子。…普通の女の子?だったのだ。



「とにかくまずは動くこと。考えうる限りで一番最悪な事態を避けるためにも行動することは重要よ。」


「たしかにそれは大切だよね。…でも、なんか水原さんがいるならむしろ僕は行動しないほうがいいんじゃないかなぁ〜…なーんて。」


「甘えないでちょうだい。」


「ぐふっ…!なんか平手打ちでもされたみたいに精神的なダメージが…。」


「…?」



胸を押さえながらうずくまり始めた僕を見て、キョトンとした感じで首を傾げている水原さんを見た感じ、どうして僕がうずくまったのかとか、そういうのがあんまり分からないみたいだった。


悠はこういう時ノリに乗ってくれるんだけど…まあ悠と水原さんは別人だし、あいつならなぁ…とか思うのは失礼だよね。



「…頭に違和感を感じるなら少々衝撃でも与えて直してみる?」


「まさかの治療(物理)?!」



にっこりといい笑顔で顔の前に拳を作る水原さんを見ながら、僕はギョッと目を見開きながらついつい叫んでしまった。


いやいやいや!なんかお淑やかそうな…それこそ漫画とかで出てきそうな淑女みたいな見た目でまさかの脳筋キャラだったの?!だとしたら驚きなんだけど。


それにしても…うわぁ、めちゃめちゃ綺麗な笑顔なのに言動がまるであってないなぁ…。



「ふざけてる暇はあまりないわ。当分の間は私がモンスターとは戦うけど…だからと言っていつまでも弱いままじゃこちらが困ってしまう。」


「つ、つまりしばらく僕は特訓とかをしろと…?」


「そういうこと。きっちりみっちり、特訓づめにするから覚悟しておいて。」


「わ…ワァーイ…ウレシイナァ……。」



多分今の僕の顔はめちゃくちゃしわくちゃで、全く嬉しそうには見えないと思うんだけど…そんなこと水原さんにはなんの問題もないみたいだった。


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