表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

6/8

第6話  隠された都市ヴィクナ

「はぁ…はぁ…ちょっと…とま…止まって!」


「街まではあと少しだから、宿(やど)に着くまでは我慢なさい。」


「そうは…言っても…!!」


「そもそも15分前に休憩したばかりでしょう?…体力なさすぎじゃないかしら?」


「はぁ…ひきこもりだから、あんまり…体力がないんだよ!」


「でも本当にあと少し、5分歩けば街の中に入れるわ。」



水原さんに救われてから約一週間程度。


僕たちは3つ先の街を目指して歩いていた。


もちろん、魔王だとか勇者だとか…おまけにクワで農作物を育てているむらや街が至るところにある世界なので、電車だとか車だとか…自転車だとかはない。


どこに行くにも徒歩、徒歩、徒歩!


歩いて行けない場所へはさすがに船が出ているみたいだったけど…それもモーターエンジンだとかはない。


大きなマストを広げて風の力を利用して海を渡るか、もしくはオールを使って漕ぐかのどっちかしかなかった。


何日も何日も歩き続けで、正直今すぐベッドにダイブしたいくらいには疲れ切ってる僕とは違って、水原さんはピンピンしてる。


その細い体のどこにそんな体力が有り余ってるのかよくわからないけど…とにかくこの一週間で僕が彼女についてわかったことといえば



水原さん…料理って概念知ってる?



この一言に尽きる。


いやいやそんなまさか。料理ってレシピ通りに作れば失敗することもないし、火加減を気をつければ黒こげになることもないでしょ?って…僕も彼女の料理スキルを見るまではそう思っていました。


水原さんが何をしたかって?……弱火で15分のところを「つまり強火で5分でやれば時短できるってことね。」なんて、そんなやばいことを平気で言うんだ。


そう言うことじゃない!確かにそうなるかもな〜とか思う時もあるだろうけどさ、本当にやる奴がいるとは思ってなかったよ!


弱火でやんなきゃいけない理由は具が硬いから芯まで火が通るように!強火でやるのは少し焦げ目をつけるためだけ!


だから時短がしたかったら圧力鍋を持ってこい!それがないならちゃんとレシピを守れ!


……僕が料理をやるって言ったら、動向を許可されたのにも納得がいったよ…まさかここまで壊滅的に料理が下手な人だったとは…。


とにかく今後、水原さんには料理道具とか調味料類とかは全部触らせない様にするとして…それよりもまだ歩くの?!



「とは言っても、何にも見えないじゃないか!」


「特殊な装置を使って街全体を隠しているから見えないだけよ。」


「なら、どうしてすぐ近くにあるかどうかがわかるんだ?」


「これ、このペンダントで場所がわかるのよ。」



そう言いながら水原さんが僕に渡してきたのは青色のペンダント。


宝石みたいにキラキラ光ってて…え?これもしかして本物の宝石?!


だとしたら、相当価値が高いものじゃ…


落としたらまずい…ただでさえ一文なしなのに、こんなのを弁償しろなんて言われたら…


宝石を持つ手がプルプルと震えて、なんとも言えない顔で固まっている隼人のことなど無視しながら、鏡花は話し続ける。



「とあるツテを使ってこの透明都市に入るためのペンダントを手に入れたのよ。ここだと普通の街では手に入らないような薬や装備が手に入るから、この街に入るためのペンダントはそこらの宝石よりずっと高いわ。」


「だだだ!だったらもっとやばいじゃんか!!」


「あぁ…そうね。落とされるとだいぶ困るから、しっかり持っててちょうだいね。」


「そんな貴重なものを僕に渡すな!!」


「あなたが聞いてきたんでしょう?どうやって見えない街の場所が近いのかわかるのかって。だから私は教えてあげただけでしょ?」


「だとしても大事ならもっとて音に置いておいてよ!」


「確かに壊されたら困るとは言ったけれど、別に入手ができないとは言ってないわ。」


「えぇ…。」



困るって言ったり、別に入手できるって言ったり…結局どう言うことなんだよ…。


なんだか水原さんに救ってもらってから、彼女のことを知るたびにわからないことが増えていく…もはや夏休みの自由研究にでもしたいくらいには色々と不思議な行動をしてるよ…水原さん。



「とにかく急ぎましょう。流石に私も少し疲れてきたし、宿で休みたいわ。」


「…!大賛成!パッパと行って早く休もう!」


「そうね。…あぁ、慌てないで。そこは木の根が…」


「うわぁ!…いたた…もうちょっと早く言ってくれよぉ〜。」


「言おうとしたわ。でもそれより先にあなたが歩くから。」


「確かにそうだけどね?でも何て言うか…とにかく思っちゃったもんはしょうがないだろ?」


「あら、街についたみたい。」


「僕の話聞いてる?!」



何だろう…水原さんって意外と自由人?なんかたまに考え方がずれてる時あるし、やっぱり普通より変わってる人なんだなぁ…。


つまづいた時に軽く捻ってしまった足をさすりながら、隼人は目の前の少し変わった女の子の認識を固めていた。


そうこうしている間に、鏡花は青色のペンダントを何もない空間にかざす。


すると…



「……え?!とと、突然街が!?」


「だから言ったでしょう?今から私たちが行く場所は透明都市だって。このペンダントを使わなければ入る事も出来ないし、この街を観測する事もできないわ。」



状況がわかっていない隼人のために説明しながら、突然、鏡花は隼人の手をとって…



「み、水原さん?!」


「なに?なにか言いたいことでもあるの?」


「いや、手…」


「?手がどうかしたの?ただ繋いでるだけじゃない。」


「女子と手を繋いだことなんてないし、急に繋がれると流石にびっくりするんだよ!」


「驚かせてしまったのね。ならごめんなさい。今度からは繋ぐ前に一言かけるようにするわ。」


「そういうことじゃ…いやそういうことでもあるんだけどね?なんていうか…緊張するからできればやめてほしいというか…。そもそも手を繋ぐ意味って?」


「ペンダントを持ってる人にしかこの街に入る権利がないの。だから連れている人がいるときはペンダントを持っている人と手を繋がなければ入れないのよ。さぁ、無駄話はおしまいにして入りましょう。」



無駄話って…僕にとっては結構大切な話だったんだけどなぁ…。


なんて思っている間に、ペンダントから凄まじい光が放たれ始めて…



「な、なんだこれ?!まぶしっ!」


「ペンダントに内蔵されている仕掛けが作動している証拠よ。」




もはや目を開くことすらできないほどに当たり一体が眩しくなって、僕は目がやられないようにぎゅっと目をつぶって、とにかく光が収まるのを待った。


しばらくの間そうして目を瞑っているうちに、段々と光が弱くなっていくのを感じたので、隼人が恐る恐る目を開けると



「ここが…あの見えなかった街?」


「透明都市ヴィクナ。この街は今はもう他の場所にはない失われた技術のある唯一の街よ。」



いままで見た3つの街のどれもが、王道のRPGゲームで見るような、科学技術とはかけ離れた街並みだったのに対し、ここはあまりにハイカラすぎた。


僕たちが住んでいた日本よりも技術の発達した、SF系映画でしかお目にかかることがないようなハイテクな街並み。



「広…え、あんな場所にこんな広い都市があるなんて…あれ?でも少しおかしくないか?」


「他の街と比べてここだけ革新的なのがおかしいということ?」


「それもあるけど…普通こんな舗装された道のど真ん中に、ここまで大きな見えない街があったら、ここを通る人みんなが街にぶつからない?」


普通に考えたら、この先の街だったり村だったり…他の場所に向かってる途中にこの街にぶつかって、なんだこれ?!見えない壁があるぞ?!みたいな反応になってる人がいてもおかしくないと思うんだけど…。


そんな僕のちょっとした疑問に納得がいったのか、水原さんは「あぁ、その事ね。」とポンっと一つ手を鳴らしてから話す。



「さっきペンダントに内蔵された仕掛けのことを話していたでしょう?」


「そのペンダントを持ってる人しか街に入れないとか、そういうやつでしょ?」


「どうしてそんな仕掛けがあるのか、わかるかしら?」


「えぇ?そうは言っても……なんでだろう。異世界転生あるあるの魔法とか?」


「確かにこの世界にも魔法はある様だけど、それは異世界から召喚された勇者やこの世界のごく一部しか持っていない力よ。…正解は科学技術。」


「科学技術…科学技術?!ま、街を丸ごと透明にしたりする技術が、この世界にはあるってこと?!嘘だろ…。」


「残念ながら嘘じゃないわ。とは言っても、私たちが住んでいた世界以上の技術があるのなんてここくらいだけれどね。」


「それでもすごくない?…でも、どうしてここにしか技術がないんだ?」


「そんなの、自分達が優位に立ちたいからに決まってるわ。さぁ、いいから宿を探しましょう。今日は何もわかっていないあなたのために色々と説明しなきゃならないんだから。」


「あ、ちょっと待ってよ!」



むしろこの街についてもっと説明して欲しいくらいなのに、水原さんはパッパと宿を探して歩いて行ってしまう。


やっぱり水原さんは無駄話…と言うか、自分にとってなんのメリットもない話にはてんで興味がないみたいで、僕が気になって尋ねたことでも答えてくれる時と答えてくれない時があった。


基本的には今回みたいに軽く説明してから、すぐに話を切り上げて歩いて行ってしまったり、他の事をし始めてしまったりするが、興味のある事となるとすごい。


もうそれはすごい。…説明しておいてなんだけど、自分の語彙力のなさに今だいぶびっくりしてるよ…とほほ…。



……まあそれはともかく。水原さんが興味のある話だった場合、彼女は饒舌に語り出す。


その時は心なしか目がキラキラしている様にも見えるし、普段は大人びていて変わった子な印象が、年相応にも見える。


テクテクテクテクと先に進んでいく鏡花の後に続いて隼人はついていくが、ちょうど5分程度歩いた所で、鏡花が止まった。



「ついたわ。」


「これが宿…?」



まるで豪華なお城を小さくしたかのように綺麗で、宿というより…



「どっちかと言うとホテルじゃね…?」


「この世界にはホテルなんて概念がないから、どんな見た目をしていようと全て宿判定よ。」


「こんな豪華な宿があってたまるか!……所で、こんな場所本当に泊まれるの?」


「お金の心配をしているなら安心なさい。ここの店主に錬金術の貴重な素材や薬草なんかを譲渡、もしくは売り買いする契約で、タダで止めてもらえることになっているから。」


「……水原さん、本当に何者なんだ…?」



宝石以上に価値のあるペンダントをもらっていたり、こんな豪華なホテルをタダで泊まらせてもらえたり…交渉が上手なのかもしれないけど、普通の高校生だったらそんなことできないと思うんだけどなぁ…。


隼人が何かしら考えている間にも、鏡花は足を止めることがない。


そんな彼女の対応にこの3日間で慣れたからか、隼人は考え事をしながらも歩く足を止めない。



「店主、前回言われていたドラゴンの血と爪、牙を一欠片。それに鱗を5枚と髭を1本とってきたわ。…それにしても、今回の依頼の内容で、宿をタダにするだけじゃ対価が見合っていないんじゃないかしら?」


「おいおい、ここが一泊いくらするか知ってるかいお嬢さん?金貨2枚だぜ。それをヴィクナに来るたびに無償で泊めてやってるんだから…むしろこっちが感謝して欲しいくらいだよ。なぁシスター?」



うわ…なんかこの店主態度悪くないか?カウンターの上に足は乗せてるし、新聞っぽいのを読みながら話しかけるし…こっちを見ようともしてないぞ…。


ロビーもとっても綺麗だし、さぞや従業員の態度も洗練されたものなんだろうと思っていたが…なかなかに態度が悪かった。

一応、 水原さんとは取引関係みたいだけど…なんだか舐め腐った態度だし。


もしかしたらこの店主、水原さんと取引するのが嫌になったんじゃ…と隼人が考え始めた瞬間。


ドンッ!と勢いよく机を叩く音がロビーに鳴り響き…



「どうやらこの素材の価値がわかっていないみたいだから教えてあげる。」



水原さんだ…水原さんが机を思いっきり叩いたんだ。


さっきまで余裕ぶった表情を浮かべていた店主も、突然机を叩かれたからかびっくりして、一瞬体が震えていた。


そんな店主の隙を見逃さない様にしているのか、水原さんはさらに店主に圧をかけようとぐっと近づきながら、さっき彼女が言ったように水原さんは自分の持ってきた素材の価値を話し出す。



「今回倒してきたドラゴンはただのドラゴンなんかじゃないわ。もちろんドラゴンゾンビなんかでもない。…私が今回持ってきたのはカオスドラゴン…体の半分が腐りかけてもなお理性を保ち続けてる極めてめずらしいドラゴンよ。こいつから取れる素材で作った回復薬は蘇生にも似た効果を発動させることができる。」


「はぁ?そ、そもそもカオスドラゴンなんて100年に一度現れるかどうかすらわからないくらいレアな魔物だろ?」


「確かに、普通ならないでしょうね。…でも、ここに証拠品がある。」



ドサっとゴツゴツとした何かがたっぷりと入った麻の袋を机に放り投げる水原さん。


何が入ってるかわかった物じゃない麻袋を慌ててキャッチする店主の事を無視して、水原さんはそれを確認しろとばかりに顎で麻袋の方を指す。


別に僕に言われてるわけじゃないのに、何故か僕まであの麻袋の中身を確認しなきゃならないような気持ちになってくる…。


直接言われている張本人である店主は僕よりもその気持ちが強いのか、恐る恐る…といった感じで麻袋の紐を解き、中身をチェックし始める。



「……ふ、普通のドラゴンと全く同じ見た目じゃないか。本当にこの素材全部がカオスドラゴンからとった物だと証明できてないぞ?」


「話が通じないとか、それどころの話じゃなかったわね…。そんなに気になるなら成分解析でもしてきたら?」



麻袋から出てきたものは、黒い何かの欠片がたくさんと僕の顔くらいのサイズの牙っぽいものが2本。


それから赤黒い…いや、なんだかちょっと緑っぽい色の血?みたいなものが入った小瓶が10本程度…ちょっと待って?


もしかして水原さん、さっきガラス製っぽい小瓶が入ってるのにあの袋投げたの?


えぇ…ガラスって脆いし割れやすいんだから、もうちょっと丁寧に扱った方がいいと思うんだけど…。


割れていなくてよかったなぁ…とホッと一つ安堵のため息をついた隼人だったが、すぐに鏡花にどうしてガラス製品が入った袋を投げ捨てたのか聞く。



「み、水原さん。流石にガラス製のものが入ってるものを投げるのはあんまりよくないと思うんだけど……」


「あら、どうして?別に割れるわけじゃないのだから、投げてもなんの問題もないでしょう?」


「いや、今回は割れなかったけど、普通は割れると思うからさ。せっかく手に入れた、錬金術の素材?だったっけ。あれが自分の不注意で無くなったら嫌じゃない?」


「そんな事ない…あぁ、そういえば言っていませんでしたわね。あのガラスは強化ガラスと言って、耐熱温度は200℃。耐寒温度は−30℃程度。上空2000m程度の場所から落とさないと割れないくらい頑丈なもので、この強化ガラスはヴィクナ、つまりここで作られている物よ。外には出回ってないけれどね。」


「じょ、上空2000m?!そこまでしないと割れないガラスって…もはやそれはガラスじゃなくないか…?」


「私たちが住んでいた世界でもここまでの技術はないけど、先も言ったようにヴィクナは失われたロストテクノロジーが今もなお残っている唯一の街で、製造方法や素材は極秘中の極秘。外部への持ち出しは基本厳禁だけど…私は製造部門の責任者たちから持ち出し許可をもらっているし、そもそもこの技術を解析して儲け様だなんて思ってないから。」


「そこまで厳重な情報規制があるほどすごい技術ってわけ?」


「確かにそれもあるみたいだけど…他の理由もあるみたいだわ。」


「他の理由…水原さんはその他の理由ってやつも知ってたり」


「しないわね。多少ヴィクナ内での評判は良好みたいだけど、それだけで全くの赤の他人に教えられるほど軽い情報じゃないんでしょうね。」


「え…ちょっと意外だなぁ。」


少しめんどくさそうにしながらもこっちを見てしっかりと説明してくれる水原さん。…やっぱ、なんだかんだ言いつつ優しい人だよなぁ…。


ただ、ちょっと意外に思ったことが一つあった。


意外だなぁ…なんて心の中だけで言ったつもりが、どうやら口に出ていたらしく…


「意外って何よ。」


「え?あ、いや…なんか水原さんだったら極秘の情報とかも聞き出してそうだな〜なんて思ってたから。」


「……流石に無理よ。第一それをするメリットが今の所私にはないし、何より人から話を聞き出すのは意外と疲れるの。だから報酬がもらえるわけでもないのにそんな労力を使いたくないわ。」


「じゃ、じゃあ本気を出せばそういう秘密とかも知れるってこと?!」


「そうね…国家機密とかよほどの場合でなければできなくもないかもね。」


「す、すごい!そんなことができたらめちゃくちゃかっこいいじゃん!」



キラキラと目を輝かせながら自分を誉める隼人を尻目に見ながら、鏡花はちょっと照れ臭い気持ちになった。


なんせ、今までほとんど人と関わりを持つことがなかったので、純粋な好意に慣れていない。


それに、学校の教師は最低災厄な奴が多かったしクラス内でも自分を無視する低俗や奴や、人をいじめることでしか楽しみを見出せないのかと言いたくなるような行為ばかりしている奴が多かった。


女子は見てみぬふり男子はもっとやれと言わんばかりにいじめに加担…退屈で死んでしまいそうなほどには鏡花にとって学校はつまらない物だった。


なんだかむず痒い気分に居た堪れなくなりながら、鏡花は解析が終わって戻ってきたらしい店主の方を向く。


すると、さっきまですごいすごいと言っていた隼人の方も鏡花につられてか、帰ってきた店主の方を向いてくれた。


正直あんな目線を向けられてどう対処すればいいかわからなかったため、気が逸れてくれてよかったと、鏡花は誰にもバレないようにこっそりと安堵の息を吐いた。



「……それで、成分解析の結果はどうだったかしら?」


「す、全て…全て、カオスドラゴンから出る成分が含まれていた…。」


「あらそう。なら、あれらの素材が正真正銘本物のカオスドラゴンから抽出した素材だってことがお分かりいただけたかしら?」


「ぐぬぬ……上乗せ分は銀貨15枚で…」


「銀貨15枚?今まで1000年単位で見つかっていなかったカオスドラゴンの素材は高々銀貨15枚程度なのね?それは困ったわ…。」



流石にこれは僕でもわかる。多分水原さんは自分が損をしないようにとにかく脅しをかけているんだろうな…ちょっと店主さんがかわいそうに思えてきたかもしれないけど、水原さんの所持金が増えれば僕も助かるから援護はしない。…頑張れ!ファイト!



自分本位であることはわかっているけれど、それでもこちとらなんの後ろ盾もない異世界人なので…この世界の常識もわかってないし、生きるのに必死なんだ。


僕が勝手に言い訳を考えながらうーん…と唸ってる間に、水原さんは商人か何かか?と言いたくなるような鮮やかな手腕で店主を丸め込んでいる。



「こちらもただ黙って損するわけにもいかないから…そうね、もっと支払い条件のいい所と契約して、今後貴重な素材や薬草はそちらにだけ流しましょう。」


「ま、待ってくれ!それじゃあこっちの商売上がったりだ!外界からやってくる奴らからしか素材を買えないってのに…お前ほど貴重な素材を持ってくるやつなんて他にいるかどうかすら…。」


「あら、そちらが私の事を下に見て報酬を下げようとしたのがそもそもの原因ではなくて?あくまでも私は対価に見合った報酬をいただければいいだけですから。」


「わ、わかった!金貨5枚でどうだ?!」


「…やはりわかっていないようね。私の持ってきた素材を市場に売れば、少なくとも金貨25枚はする代物よ?それを5枚でなんて…」


「ならこっちは金貨30…いや、35枚出す!」


「それでいいわ。交渉成立。報酬は今夜21時頃に受け取りに行くから…それとこの契約書も書いて。契約なんてしてないとか言い逃れされても困るからね。…あぁ、血判も押しておいて頂戴。」


「はい…。」



入った当初はあんなに態度の悪かった店主も、水原さんによる凄まじい交渉…いや脅し?によって言われるがままにするようになってしまった。


結局最後には…



「ほら、これでいいんだろ!」


「えぇ、満足よ。」



もはや投げやりな感じに契約書を書き殴り、さっさと部屋に行ってくれ!と言わんばかりに不機嫌になっていた。


でも、そんな店主の様子を気にすることもなく、水原さんは雑に置かれた部屋の鍵をひょいと拾って階段を登っていく。


そんな水原さんの跡について、僕も2階へと向かっていった。


もしよろしければ感想やブックマーク、Twitterのフォローの方などしていただけたら嬉しくて飛び上がります。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ