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第4話  死に際の幻…

「……仕方ない。」



黒いフード付きのマントで全身を包んだ人影が、ポツリと一言こぼしてから…高台から華麗に飛び降りた。


次の瞬間、ザシュッと肉を切り裂く鋭い音と共に



ぐオォォォグォォォ!!!と、凄まじい絶叫のような、ドラゴンの悲鳴のような声が響き渡った。


ドラゴンの咆哮はビリビリと鼓膜を震わせる、死の覚悟を決めていた隼人はワンテンポ遅れて耳を思いっきり抑えた。


まさか、あの状況で自分が死なずにドラゴンが大声を上げるなんて思ってなかったから、ドラゴンの叫び声を聞いてようやく、自分が生きているのだと感じたとともに…鼓膜が破れたかと本気で思った。


キーンと聞いたこともない謎の音が耳の奥から鳴り響いて、あれ…もしかして本当にやばいのでは?なんて思ったけれど、鼓膜が破れた感じもしないし、音もしっかりと聞こえてくる。


ただ…



「はぁ…だいじょ………」



高くて綺麗な声が微かに聞こえたけど、その後に続く声を聞くことなく、僕の意識はシャットアウトされた。



ーーーーーー

ーーーーーー

ーーーーーー



隼人、そろそろ起きないと学校遅刻するわよ〜。


うん……今日は学校休む…。


なぁに?もしかして具合悪いの?


違うけど…学校行きたくないんだよ。


それでも行かなきゃ、卒業できないと困るのはあなたよ?


変な夢も見たし、今日くらいはサボらせて……お母さん?


どうしたの?


どうしてぼやけて…



ーーーーーー

ーーーーーー

ーーーーーー



「……て。お……きて。」


「んぅ……まだ眠い…‥…」


「起きなさい。こんな所で眠りこけていたら死ぬわよ。」


「ぅええ?!」



死ぬぞ、なんて言われて仕舞えば流石にびっくりして、僕は体をガバッと飛び起こしてキョロキョロと辺りを見回す。


綺麗な青色の光を放つ鉱石や、その光に照らされてこれまた綺麗な水色のキラキラと光っている泉があるだけで…特にこれと言って危険なものはないような…



「…ここ何処だ?僕は家にいたんじゃ…」


「何を寝ぼけているのか知らないけれど、私たちが今いる場所は死の洞窟の最深部よ。」


「そっか…じゃあさっきのは夢…」



暖かい家、柔らかいお母さんの声…あれは全部夢で、僕は本当に異世界転生なんて滅多に体験できないようなことを体験したんだな…と、改めて現実を受け止める。



今見ている風景が夢で、今も自分のベッドの中でスヤスヤと眠っていたらな…なんて思うものの、とにかく今は自分を助けてくれた人にお礼を言うのが先だろうと思い直し、隼人はフードで顔がよく見えない人にお礼を言った。



「た、助けてくれてありがとう。」


「…別に、たまたまこのドラゴンから出る素材が欲しかっただけ。」


「それでも助けてくれた事には変わらないから。」


「そう。…それにしても暑いわね。」



そう小声で言いながら、目の前の人は顔全体を覆い隠すように被っていたフードを脱ぐ。



艶のある綺麗な黒髪がパサリと重力に従って落ち、その顔が明らかになって…



「み、水原さん?!き、君生きて…」


「そうだけど、だとしたら何か不都合でもあるわけ?」


「い、いや別にそう言う事じゃないけど…」


「なら、私の生死如きでとやかく言うのはやめて。万が一他のモンスターが来たら面倒だわ。」


「生死如きって…そんな事言うべきじゃないよ!」


「…人の価値観にとやかく言う資格はあなたにはないでしょう?」


「そ、そうだけど……」


「それで?まだ何か文句があるのかしら?」


「うっ……い、いや…。」 



別に文句があるわけじゃない。…訳じゃないんだけど…そう言う問題でもない!!


とは言っても、水原さんは何を言っても聞いてくれなさそうだし…説得できそうにない。



「何も言わないのは結構だけど、私は暇じゃないの。…そろそろお暇させてもらうわ。じゃあ。」



何も言えずに押し黙っている隼人を尻目に見て、はぁ…と一つため息気をついたかと思えば、鏡花は面倒だと言わんばかりの表情を浮かべながらこの場から立ち去ろうとした。


少しくらい自分の話を聞いてもらえるかな…なんて淡い思いを抱いていた隼人の考えはあっさりと崩れ去って、慌てて彼女を呼び止める。



「ちょ、ちょっと待って!」


「…何?」


「あ、いや…なんて言うか…その…。」


「何か言いたい事があるならはっきり言って頂戴。」


「ぼ、僕を連れてって欲しい!!」



元の場所に戻る、なんて選択肢は僕にはなかった。


彼らだって生き残るのに必死だったんだ!なんて言われても…正直許せる気がしない。


彼らの元に戻ったとしても、またいつ今回みたいに囮に使われるかもしれない…いや、もしかしたらそれよりももっと酷い…。



「あなたをつれてってもなんのメリットもない。それどころか…食糧だったり水だったり、確保しないといけないものが2人分に増えるのだから、デメリットでしかないわ。」


「そうは言われても…僕はみんなから捨てられたんだ…だからどこにも行き場がなくって…。」


「それはお気の毒ね。…それで?」


「それでって…」


「もし本当に連れてって欲しいのなら、私にメリットを提示して欲しいわ。」


「メリット…」


「少なからずこちらに有利な条件がないと、荷物を増やす理由がないもの。」



なんともまあきつい言い方…だけど、実際その通りなのだからしょうがない。


水原さんは僕たちと違って王様の援助を受けてるわけでもないし、自分でお金とかを稼がなきゃならないのだろう。


一人で生きていくので精一杯だから、お前なんか助けてる暇はない!なんて言われても仕方がない。


とは言え、なんの気紛れかメリットさえ提示できれば僕を連れてってくれるみたいだ。


これが飛び付かずにいられるか!このチャンスを逃したら、僕はなんの能力も持っていないのに一人で生きていかなきゃならなくなる。


なんとかどこかの店に雇ってもらう…なんてのも不可能じゃないかもしれないけど、就職先がすぐに決まるなんて考えにくいし、餓死…なんてことになりかねない。



「えっと…君の代わりに色々荷物とかを持つ!」


「却下。そもそも必要最低限しか荷物は持ってないから荷物持ちなんて必要ないわ。」


「じゃ、じゃあ…宿とかのチェックインとかをすませておいたりする係なんてのは…」


「それも却下。別にそんな要員居てもいなくても変わらないでしょう?」


「なら君が怪我をした時とかに手当て…」


「比較的安価で質の良い回復ポーションを売ってくれる商人と契約してるから、怪我をしたとしてもすぐに治るし、応急処置くらい私一人でできるわ。」


「うっ…それなら君の代わりに戦う」


「さっきのドラゴンに成すすべなく殺されかけたあなたが?こう言ってはなんだけど…回復ポーションを無駄に使われて困窮する可能性が生じるわ。はっきり言ってお荷物よ。」


「うぅ…!」



いや、流石に水原さんの代わりに戦闘するなんてのは絶対却下されるだろうけどさ…それにしたってここまで尽く却下されるとは…!


もはや地面に五体投地したくなるほどには出した案が投げ飛ばされて、正直ちょっと泣きたくなった。…てか少しだけ泣いた。


いやいや…でもこのチャンス逃したらほんとに死ぬかもしれないし…あんまり対人関係慣れてないからこんな異世界で、都合よく僕みたいな人材求めてました!なんて展開にならなきゃ就職は無理だろ…。


どうする?僕なりに結構絞り出したほうだとは思うんだけど…全部ダメとなると後はアレくらいしか…まあダメ元で行ってみるしかないかぁ‥。


ガクッと項垂れながら、僕は諦め半分希望半分で言ってみる。



「…じゃあ、僕が水原さんの代わりに料理をするから、僕を連れてってくれない?」



あと出来ることと言えば料理。ただ…相手は女性だし、水原さんは学校でも成績優秀でスポーツも万能だから、料理くらい簡単にできちゃうだろう。


きっとまた却下!なんて、あの凛とした声で言われて僕は水原さんにおいてかれる…て言うのが見え見えなんだよなぁ…



なんて、隼人が心の中でブツクサとふてくされていると…?



「ふうん…料理ね…それならまあ、良いでしょう。」


「……え?い、今なんて?」


「同行しても良いと言ってるのよ。それとも何?やっぱりあなたとなんて同行したくありません、とでも言いたいの?別に私はそれでも…」


「喜んでその条件でお願いします!!!」



なんだか勢いに任せて変な言葉を吐いたような気がするが…正直それほどびっくりしたんだよ。


まさか側から見たら完璧少女の水原さんが料理如きで、僕を連れ歩くメリットとして見てくれるとは思ってなかった。


料理はできるけどめんどくさいから押し付ける相手を探してた…とかなのかなぁ‥。



「じゃあ行きましょう。この洞窟には厄介な魔物も多く潜んでいるし…必要な素材も取得できた。これ以上ここに止まる意味はないわ。」


「わかった…って、ちょっと待って!てか歩くのはや…!」



なんとなーく、おおよそだけど彼女が自分の動向を許可してくれた理由を考えていると、そんな隼人のことなんて一切気にせずスタスタと歩いて行ってしまった鏡花。


一応声はかけてくれたけど…思っていたより歩く速度が早くて、隼人はさっきまで考えていたことなんて忘れて、駆け足で彼女の元に向かって行った。


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