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第1話  最悪な日常から…最高な非日常へ?!


いつもと変わらない日だった。



「ねえねえ、今日タピオカ飲みに行かない?」


「いいね!いいね!」


「でもここ最近、なんか殺人鬼?とか言うやつが街にいるらしいじゃん?」


「あ〜あれね〜怖いけどでるの夜だし、遅くまで出歩いてなきゃだいじょぶっしょ(笑)」



女子たちはキャッキャキャッキャと騒ぎ。



「お前4組の|叶崎≪かなざき≫に惚れてんだろ?」


「さっさと告白しろよ〜!」


「あの人美人だし、俺如きじゃ無理だよ。」



男子たちはわいわいと盛り上がっている。


いつもどおり学校に行って、いつもの様に授業を受けて。…いつもの様に、いじめを受けていた。そんな僕にとっての日常だった。


そう…あんなことさえ起こらなければ‥。



「やっぱ持つべきものは友達だよなぁ!」


「それな!…ほら、パン買ってこいよ。」


「で、でもお金‥。」


「あ?あぁ…。」



僕より背の高いこいつは見下すような笑みを浮かべながら、何やら小さい紙切れにマジックで何か書いていた。


書いてる時にちょくちょくこっちをみてくる。その時も、こいつは僕を馬鹿にしたような目で見てきて…それがひどく居心地の悪いものだった。


そうしてこいつが紙切れに何かを書き終わったと思ったら、今度はそれを僕に渡してきた挙句……



「ほら、1000円やるから買ってこい。もちろんお釣りもちゃんと返せよ?」



『1000円』と書いてあるだけの紙切れ。こんなのおもちゃの紙幣とおんなじだ。これじゃあ何も買えやしないのに…そんなこと分かり切ってて渡してくるもんだからたちが悪い。



「は、はい‥。」



きっと、僕が自分のお金で買ってきて、お釣りまでこいつに渡さないといけないんだろう。…そう思うととてつもなく憂鬱な気分になった。


はぁ…嫌だなぁ。今月のお小遣いもらったばっかりなのに…もうそこを着きちゃうよ‥。今月が始まってからと言うもの、今まで受けてきたいじめはさらにエスカレートしていた。今まではたまにパンを奢らされる程度で済んでたのに…そろそろ受験だからかな?



そういえば…僕がいじめられてからこれで1年くらいが経つのか…。


僕がこんな風に辛い学校生活を送るようになったのは、1年前のある日の出来事からだった。


その日の天気は…まあ、そんな細かいところまでは覚えていないけど、その日僕はいじめられていた男の子を助けた。


毎日生傷が絶えなかった彼が余りにも痛々しくて…見ているこっちが辛かったものだから、僕はいじめっ子たちを先生に言いつけて、注意してもらったんだ。…思えばそれが、僕がいじめられる事になったきっかけだった。


それから暫くして、いじめられていた男の子は隣町に引っ越していった。どうやらまだいじめは続いていたみたいで、絶えられなかったんだとか…そうじゃないとか、噂程度でしかないけどそんな話を聞いた。


あの男の子が引っ越してから、いじめの対象は僕に移り変わった。多分、先生に言いつけられたのが気に食わなかったんだと思う。それに加えてあの男の子がいなくなってしまったから、新しいターゲットを探していたんだろう。…そうして僕の辛い学校生活は幕を開けたんだ。




でも、もう我慢できないよ…いっそ学校に相談…いや、ダメだったもんな。先生たちはめんどくさがっていじめのこともみ消したもん‥これ以上相談したって無駄だ。せめて殴られたりしないといいな‥。


早く買ってこなきゃあいつらの機嫌を損ねる…!なんて思いながら購買への道のりを歩き出した時だった。


ガタガタガタ…


ん…?地震…かな?


ちょっとした揺れが起こったから、またいつもの小さな地震かなって思った。


すぐに止まるだろうしきっと大丈夫だろうと思って、また歩き出そうとした。



すると、その直後、今まで体験した事のない大きな揺れが起こった。


机がガタガタ揺れるなんてもんじゃない!掃除用具入れのロッカーが地面に倒されるほどまでに大きい地震だった。


それぞれがいろいろな話に花を咲かせて賑わっていた教室は、突如として恐怖と混乱に満ち溢れた。


女子たちの甲高い悲鳴や、男子たちの狼狽えた声…そんなものがごちゃごちゃに混ぜ合わさったものが聞こえる中、キーンキーンと激しい耳鳴りが鳴り響いて…僕は意識を失った。




ーーーーーー

ーーーーーー

ーーーーーー




ようやく意識が戻った時、僕の目に映ったのは…代わり映えのないいつも通りの教室。…それと気絶したクラスメイト達の姿。



「いてて…。」

 


朦朧としていた意識がはっきり戻った瞬間、後頭部に鈍い痛みが走った。幸いなことにそこまで頭を強打したわけじゃなかったみたいで、倒れてしまうほどの激痛が走ったわけでもなかった。…立った状態から気絶してこんぐらいの症状で済むって…地味に凄いかも。


そんなちょっとした事を考えていると…



「ん…あ、あれ…。」


「いったた…。」



クラスメイトのみんなが起き出してきた。


そういえば…さっきの激しい地震はなんだったんだろう…?それに…なんか、さっきまでより眩しい気がする?


そう、僕が一人で考えていた時だった。



「お、おい!ちょっと外見てみろよ!」



クラスの中心人物…早瀬くんが大声をあげ出した。外を見てみろ!とか、どうなってんだ?!とか…一体どうしたんだろう?


別に校庭に珍しいものなんて特になかったはずだけど…。でも僕の思考とは裏腹に、みんな窓に駆け寄っては大袈裟に騒いでいた。



「うわー…なんだあれ?」


「え?!ここって学校のはずじゃ…。」


「もしかして…これってなろう小説でみた…。」



え…ほんとにいったい何に驚いているんだ?別に大したものなんて…。


そう心の中で毒づきながら、僕は席から立つこともせず、チラッと横目で窓の外を眺めたが…


カランカラン…と何処か空虚にも思える無機質な音が僕の耳に入って来た。…いや、もはやそれ以外聴こえてすらいなかったのかもしれない。落としたシャーペンを拾う事もしないで、僕はただただ眼下に映るその景色を見ていた。


フワッとほのかに風の感触を感じながら、僕は窓の外に広がる辺り一面に生き生きと生えた芝生が支配する、そんな大草原に釘付けだった。



「と、とにかく外に出てみようぜ!」


「本当に異世界なら俺ら勇者って事になんのかな?」


「なわけないでしょ〜?あんたは村人Aってとこがお似合いよ。」



続々と下駄箱へ向かっていくクラスメイト達、僕の友達も僕の仲良くない人に連れられて下駄箱へと向かっていってしまった。


ほとんどのクラスメイト達が出ていったがらんどうの教室では、僕と…いつもの子ぐらいしか残っていない。


あんなに騒々しかったのに、まだ本を読み続けてる…やっぱり変わった子だなぁ…。


僕は一人本に読み耽る彼女の事を置いて、みんなの後を追いかけていくのだった。




ーーーーーー

ーーーーーー

ーーーーーー




「やっぱここ異世界だよ!それ以外ありえねーって!」


「まあ、学校の近くにこんなものなかったしねぇ…。」


「んじゃさ、スキルとか魔法とか…そういうの使えるんじゃね?」



外に出た時には…みんな大騒ぎだった。魔法使いになれるチャンスだ!とか、転生ものはやっぱり心躍るからなぁ〜!とか…いっちゃうと好き勝手にやりたい放題してた。でも…僕はそれ以上に気になってしまった。


こんな大草原の中に学校が立ってるって事自体がまず異常事態だ。それに、途中他クラスの教室を覗いてみたけど…ちゃんと先生とか生徒とかもいた。…もしかして、本当にここが異世界だって言うなら…学校にいる人全員で異世界転生したって事?!


となると…約300人の人間が一気に異世界転生したって事になるんだけど‥。


ありえない…流石にそんな事…と思う反面、もしかしたらこれって、落ちこぼれの僕に神様が与えてくれたチャンスだったりして…と思っていた。


自分で言うのもなんだけど…僕って最近流行ってるざまぁ系主人公にうってつけの底辺にいるからなぁ…自分で言ってて悲しくなってきたな…。


一人でうんうん唸ったり、パァっと目を輝かせてから落胆したり…と一人劇を続けている時だった。



「柊君だいじょうぶ?一人でなんか盛り上がってるけど…。」


「うぇっ!?なんだ…小林さんか…びっくりした…。」


「あ、びっくりさせちゃってたか〜ごめんね!」



今僕の目の前で可愛らしい笑顔をしているのは小林美希。クラスの中心人物で、学校のマドンナとも言われるほど人気が高い。しかも彼女はとっても性格がいい。僕みたいな日陰者にも優しく声をかけてくれる。この人のお陰で助かったことは結構多かったりする。



「異世界転生だなんだ〜って、男子達が大はしゃぎして…まぁ、確かにこんな場所に毎日登校してた記憶はないし、多分異世界っていうのはほんとなんだろうねぇ〜。」



ちょっと遠くの方で「俺の能力は氷だ〜!」て言いながら、薄黄色っぽい閃光みたいなのを見せつけてるやつがいた。そんな非日常的な風景を見つめながら、小林さんは勝手に喋り出す。



「もしかして…やっぱり王道系の魔王討伐とかするのかな?それとも間違って召喚された勇者?」



人差し指を頰近くに持ってきて、何か言うたびにちょこちょことその人差し指を動かしている彼女はなんと言うか…あざとい。


じゃあね〜と、今の状況に全くついていけない僕を無視して、小林さんは輪の中心に入っていった。


僕にも、やっぱり能力があるのかな…。試しに両手を前に突き出して、頭の中で念じてみた。


僕の能力…僕の能力…こい!僕の新しい力!……来るわけ、ないか…。


これが異世界転生の主人公ならば、チート系の能力の一つや二つ授かっているのだろうが…現実はそんなに甘くはない。何度手を前に突き出しても、念じても、やり方を変えても、手を擦り合わせてみても、何をやっても何も起こらない。


そのうち僕の奇行を、クラスメイト達が見てくるようになった。ある者は苦笑いを浮かべて困ったような…子供のわがままを聞いている母親のようなそんな顔をしていて、またある者は遠巻きにして…チラチラこっちを見ては(あざけり)の表情を浮かべてくる者、様々だ。



「み、みんな!」



みんなはどうやって能力を使ってるの?なんて聞こうとしたけど、誰も僕の言葉に耳を傾けてはくれなかった。


誰かが教えてくれるかな…とか、「隼人の能力は何だった?」とか、誰からしが僕に話しかけてくれると思い込んでいたのが間違いだったのかな…と、改めて自分の状況を思い知る。


僕が恥ずかしくて顔を真っ赤にして俯いていた時、突然辺りに小林さんの快活な声が響いた。小林さんはパッと手を広げてみんなに問い掛ける。



「ねぇみんな!みんなの能力って何?」


「あー…確かに気になるな。」


「そうね、誰がどんな能力もらってるか気になるし…美希(みき)の意見にさんせー!」



の、能力関連の話…どうしてこんな時に限ってその話をしようとするんだ…。


頭が割れそうなほど痛いと感じたのは初めてだ。…もうちょっと空気を読んで欲しかった。せめて僕に救いをくれよ‥。


なんて、僕が意気消沈して地面に膝をつけてしまいそうなほど凹んでいると…僕の事なんてお構いなしに能力紹介がはじまった。


次から次へと能力が発表されていく。



「みんなすごい能力だね〜特に早瀬くん!雷を自由自在に操れるなんて!憧れるな〜。」


「だろ?俺がみんなを守ってやるからな!」



俺がみんなを守ると豪語している彼は早瀬康太。クラスの人気者で中心人物。


一息に言うとよくいる陽キャ。僕とは正反対だ。



雷を自由自在に操る…いいな、そんな能力欲しかったな‥。


正直、早瀬くんが羨ましかった。僕なんて自分の能力すらわからない状態で、肩身の狭い思いをしてるって言うのに‥。



「ねえねえ!水原さんはどんな能力持ってるの〜?」


「私は身体強化よ。」



身体強化の能力を持っているといった少女は水原鏡花。黒く長い髪を三つ編みにしていて、肌は真っ白…一度も外に出たことがないと言われたら納得してしまうほどの白さで、目は茶色、クラスでもちょっと変わった容姿の子だ。


いつもはクラスの端っこで自分の席に座って本に読み耽っている。いわゆる文学少女?的なイメージだ。



へえ…水原さんは身体強化か…。みんなすごい能力ばっかりだ。


まさか本当に自分だけが能力を発揮できてないだなんて…どうして僕だけが‥。


自分1人だけ仲間外れにされたような疎外感…募るのは劣等感ばかり。どうして…なんで‥。


もはや恨み言のようなそれらが心の中を占領する。…そんな自分が嫌いだ。



ワイワイと盛り上がっているみんなの輪の中にすら入れず、僕はクラスのみんなから少し離れた木陰から、まるで絵画でも見るかのようにクラスメイト達を眺めていた。


みんなはどうやらこれからモンスター狩りに出るらしい。僕も…モンスター狩りに行こう。


チラッと視界の隅に友達の姿が映ったが…モンスター討伐に一緒に行こうなんて誘う気も起きなくて、僕は俯きながら草原を歩き出した。




ーーーーーー

ーーーーーー

ーーーーーー




その日の夜は大盛り上がりだった。



身体強化能力の持ちだった佐藤くんの力を借りて、東の森から何本かの木を丸々持ってきたり、即席でキャンプファイヤー用の土台を作ったりした。

自分たちで仕留めたモンスターの肉を捌き、宴の様なものをした。


分厚い肉が焼ける音が聞こえてくる。油のたっぷりのった肉は少しの焦げ目をつけながらも、ジューシーで食欲をそそる良い香りをあたり一帯に蔓延させた。それに混じって、パチパチと炎の弾ける音、木の燃える匂い、燃え尽きかけの木が積み重なった木の束から崩れ落ちる音、各々が楽しげに会話をする声、そのどれもが魅力的だった。



「うめぇ〜!こんなうまい肉食べたの初めてだ!」


「やっぱ異世界最高だな!」


「ん〜!もう私、おうち帰んなくても良いかも!」


「ね!ここで暮らしたいよね〜。」



天まで届くんじゃ無いかと思ってしまうくらい勢いよく燃える炎と、その裏に隠れかけている月を眺めながら、その日僕は人生で初めての野宿をした。




ーーーーーー

ーーーーーー

ーーーーーー




それは突然のことだった。



「君たちの中から一つグループを組んで偵察に行くように。」



転生してきた日からずっと外に出てこなかった先生達が、突然僕たちに話しかけてきたのだ。


僕たちが偵察に?でも…本来ならそういうのって大人がやるべきなんじゃ…。


僕がうーん…と悩んでいると…



「先生、それってあんたら大人がやる事じゃないの?」



いつも学校に化粧をしてきて、校則破りの常習犯の中本さんが僕の心のうちに芽生えた疑問を聞いてくれた。



「ねー。それって大人がやる事だよね〜。」


「なんであいつらがやらないんだよ。わざわざ俺らにさせるって…食糧だって俺らが調達してやってるのに‥。」


「うわっ…まさか怖いから生徒にやらせるの?」



次々と、生徒達の口から先生達に対して不満が漏れ始める。


元々の厳しい校則だとか先生達側からの理不尽極まりない生徒指導だとか、その他諸々の不満に、生徒たちは普段がら鬱憤を蓄えていた。


日頃の不平不満がポツポツとこぼれ出し、やがてほとんどの生徒が先生たちにブーイングを飛ばし出す。


しかし…先生達は顔色ひとつ変えずに、至って冷静に。いっそ怖くなるくらいの真顔で淡々と僕らに命令するように話す。



「もし私たちが偵察に行って死んでしまったら、君たちは頼れる大人をなくす事になるんだ。それくらい考えればわかるだろ。」


「チッ…まじだる〜。」


「はぁ?ぜってぇお前らが行きたくないからだろ…マジふざけんな。」



口々に暴言を吐き捨てるみんなだが…先生達が動くことは絶対にないと悟ったのか、生徒会の役員が中心になって偵察メンバー決めが始まった。



「人数は10人とかくらいでいいんじゃないか?」


「でもどうやって決めるの?まさか全員でじゃんけんってわけにもいかないし…。」


「それじゃあ、各クラスから代表を一人出して、その人たちでいけばいいんじゃないか?」


「それじゃあそうしましょう!パッパと決めてくださいね〜。」



か、軽い…一応偵察に行くって言う重大な任務?みたいなののはずなんだけどな‥。


なんて僕が思っている間に、いつの間にか僕たちのクラスの代表者は決まっていた。



「おい水原、お前が代表として行けよ。」


「…どうして私が行くの?|神崎…くんが行く方がみんなも安心するんじゃないかな?だって、神崎くんは優秀なスキルを持ってるんでしょ?」



水原さんを偵察に行かせるのか…まあクラスの中でも浮いてる存在だし…正直、話しかけるのも気まずいような雰囲気を常に出してるしなぁ‥。


こう言っちゃなんだけど、納得してしまった。


しかし当の水原さんは、少し不安そうな、怖いと思っているのか手元が少し震えている。


流石に怖がってる子を無理やり行かせるのはちょっとひどいんじゃ…



「身体強化系なんだろう?ぴったりじゃないか。それに…俺は偵察なんかに駆り出すにはもったいないほど優秀なスキルを持ってるんだ、偵察にはお前みたいなのが持ってこいだろう。」



え…流石に神崎くんそれは…。


僕が躊躇して、隣にいる男子に「ねえ、あれはちょっとひどいよね‥。」と、言おうと思ったが…隣にいる男子の言葉を聞いた時、僕の体は凍りついた。



「妥当だろ。そもそも水原ってなんか近寄りづらいし〜正直いなくなってもって言うか?」


「うーん…水原さんには悪いけど、みんながこう言うんだし…ね?」



「…わかった。私が行くよ。」



水原さんはゆっくりと目を閉じて、一、二回大きく深呼吸をした後…決心した顔つきで、みんなに言い放った。


こうして、僕らのクラスの代表は決まった。…本当に、彼女を代表にして良かったのだろうか?



…その後、僕は後悔する事になる。




ーーーーーー

ーーーーーー

ーーーーーー




あれから1週間が経過した。


8レベくらいになってから、突然レベルが上がりにくくなった。それがこの1週間で気づいたうちの一つ。

でもそれ以上に、僕には…いや、きっとみんな同じなのだろう。僕たちには気がかりなことがあった。



「なぁ…偵察に行った人たちは、まだ帰ってこないのか?」



水原さん達偵察に行った10人がまだ帰ってこない…あれから二週間も経つのにだ。一体何があったんだろう?無事でいてくれるといいんだけど…。そう考えている僕の脳裏には震えている水原さんの姿が浮かんで来る。


大丈夫…彼女は身体強化系の能力を持ってるって言ってたし、まあ怪我とかはしちゃうかもだけど…きっと帰ってくるよ。


しかし…それは僕の『こうなってほしい』と言う幻想で終わってしまった。



「…ん?あれは…。おーい!偵察組が帰ってきたぞ!」


「え?!まじか!」


「見て!ひどい怪我をしてる!」



武器を生み出す能力を持っている山本くんがモンスターを一刀両断した時、彼らの姿は見えた。


山本くんは大急ぎで外に出ている人達に偵察組が帰ってきた事を知らせる。もちろん、それは僕の耳にまで届いてきた。



偵察組が帰ってきた。あぁ、やっぱりあの嫌な予感もただの杞憂だったのかな…なんて思っていたかった。


よろよろとおぼつかない足取りで帰ってきたのは…たったの3人だった。


全身ボロボロで、今にも崩れ落ちてしまいそうな人ばかりだ。中には頭からダラダラと血を流している人もいて、見るからに重症だ。



「この人足が折れてる!誰か保健室まで運んであげて!」


「大丈夫か?今から保健室に運んでやるからな。」


「担架とかないの?!」



さっきまでいつものようにモンスターを狩っていた、もはや日常になってしまった光景が一転、あたりは騒々しくなる。


痛みに耐えかねて唸る声、悲痛な声を上げて負傷者を運び込む声、様々な声が聞こえるが…僕は気づいてしまった。



どうして3人だけしか帰ってきてない?

だってあの時見送ったのは10人だったはずだ‥。それがどうして…



「キャーッ!!!」



悲鳴?!なんで?どうして?


頭の中が真っ白になるとはこの事を言うのだろうな…なんて、そんな事を考えている暇なんてなかった。


ただその時は、突然聞こえて来た悲鳴に驚くばかりで、ろくに状況確認なんかもできていなかった。



「どうした?!」


「な、何…あれ‥。」


「嘘だろ?!どうしてこんな所に‥。」



「ゴブリンの…む、れ?」



バッと勢いよく後ろを振り返った時…僕の目には絶望の色が宿った。


100匹を軽く超えてしまうほどのゴブリンの群れ、キヒヒ…ケヘヘ…と、奇妙で、それでいて不気味で不快な声が大量に聞こえてくる。


ゴブリン達は僕たちのことをじっと見つめた後…まるでお気に入りのおもちゃを見つけた子供のように笑顔を浮かべた。


…しかしその笑顔には可愛げなどひとカケラもない…恐怖を煽るだけの笑みだった。


「ギャァァァァァ!!」


「いやー!助けて!!」


「く、くるな!くるなぁぁ!!」



あちこちから悲鳴が聞こえる…そんな中、僕はどうすることもできなかった。


ただただ目の前の惨状が現実だと思えなくて、呆然と立ち尽くしてしまった。



「くそっ!‥戦えない者は建物の中に入れ!戦えるやつは建物の中にいる人を守って!」



早瀬くんは混乱するみんなの耳にまで届く様な、はっきりとした声色でみんなに指示を飛ばしていく。


混沌とした戦場に、一筋の光がさした気がした。…さした気がしたのだが‥。



「あいつ…学校に向かって進んでる?」


「まさか…俺たちの言葉がわかるのか?」



そのまさかだった。


ゴブリン達は戦えない者がいる学校を中心的に狙いにきた。


時には数によって学校内に押し入り、時にはその数でもって撹乱させる。…ありえなかった。


あのゴブリンに…RPGゲームなんかでも一番弱いゴブリンに、僕らは殲滅されかけていた。


嘘だ…まさか、そんなはずない‥。



「お、おい!お前ら大人なんだから子供を助けろよ!!」


「うるせえガキが!!お前らなんか助けてる余裕はねえ!」


「ど、どうしてよ!!この役立たず!!」


「はっ!精々そこでのたれ…あ”ぁ”ぁ”ぁ”ぁ”ぁ”ぁ”!!!」



どこかで誰かの叫ぶ声が聞こえる…。血飛沫が飛び散り、先生だったものが僕の前に倒れ込む。


頭には斧が刺さっていて…顔は絶望に染まり、瞬き一つしない…。


『人が一人死んだ』…それも、目の前で…あ、れ?


どうしてこんな事になってるんだ?どうして…



「隼人!早く逃げなきゃ俺らも殺されちまう!!」



悠?…そうだ!早く逃げないと…でないと…



「殺される…!」



悠が僕を見捨てずに声をかけてくれたおかげで、僕はやっとショックから立ち直った。


僕の手を引いて森のある方向にかけていく悠の負担にならないように、僕はこれまでに一度だって出したことがないほど早く走って見せた。


…途中、助けを求めて伸ばされた手を振り払いながら…僕は僕を引っ張ってくれる彼と共に、ゴブリンの群れから逃げ続けた‥。

随分と久しぶりに投稿した気がします。

今まで離れてたけどインスピレーションも湧いてきたし、最近買った本を読み終わったらめちゃくちゃ描きたくなってきたので投稿再開しました。


虚空のソフィアの方も投稿再開したいけど、とりあえず新作が結構我ながらいい感じにかけたんじゃないかって思います。


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