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夢屋与平  作者: 君島 明人
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前田慶三の夢では金儲けは無理?

5 前田慶三の夢では金儲けは無理?

 

前田は都内の弱小証券会社の営業3課に勤務するうだつのあがらない平社員である。しかし根は真面目なので早朝から出勤して新聞は隅から隅まで丹念に目を通し、ネット検索で耳寄りな情報を探していた。「おはよう、今日も早くから頑張ってますねぇ」 営業3課の庶務係をやっている宗像晴子である。

「おうムナちゃん、おはよう」 「朝から難しい顔して何考えていたんですか?」 「いや大したことでもないんだが、君の瞳を見ていると思わずcan’t take my eyes off you って呟いてしまうんだ」 晴子の眼は丸くてちっちゃくてつぶらな感じだが、全体的に顔の中央に配置されてかわいいのかブスなのか社内でも賛否両論ある。晴子も最初は真に受けてルンルン気分だったが、やがてそれは自分の丸い目をいじって楽しんでいる男どもの魂胆とわかってくると、報復としてお茶やコーヒーに異物を混ぜる事を密かな楽しみとなっていた。

「今日は味の素を混ぜてやろう」 前田はいつもより味のあるお茶を飲みつつ株価のチャート画面を見ていたら、いつものように眠くなりそのまま睡眠状態に落ちてしまった。


「前田教授 お休みのところ申し訳ありませんが、少しお時間をいただけますか?」 「あ、ムナちゃんごめんごめん もうすぐ出かけようとしていだんだよ で何かな?」 「私発見したんです」 「何を?」 「不老長寿の薬です」 「そうか、君がそういうなら間違いないんでしょう では早速詳しい説明を聞こうか」 「ありがとうございます 早速ですが加齢の概念は従来的には細胞分裂を繰り返した結果、やがて衰えてきて分裂しなくなり、それが加齢とその先に待っている老衰死と考えられて来たことは前田先生もご存じだと思います」 「確かに それ以外の説は私も聞いたことがないよ」 

「ところが老化の主な原因は老化細胞の蓄積による細胞や臓器の不全だったのです 更には細胞内でDNAやRNAのコピーに失敗したジャンク細胞や、マクロファージに食べられた癌細胞から出るTNFαが生産するインターロイキン1とプロスタグランジンE2などのサイトカインやゾンビ細胞が臓器や血管に付着して、やがて溜まりにたまって体が弱って死に至るというところまで解明しました」 「ではそれらのゴミを綺麗に排出すればよいということだね?」 「そうなんですが、厄介なのは生きたままの状態の癌細胞と老化細胞をいかに殺すかなんです」 「死んだ細胞でなければ中々

体外に出ないということか? ましてや生の癌細胞をマクロファージが食べたら下痢便をまき散らして発熱をおこすよなぁ 体内に姥捨て山があったらいいのに」 「そこでひとつひとつの細胞を精査したところ、がん細胞の中のリソソームは壊れてなくて老化細胞のリソソームは破れていました」 「つまりがん細胞は若い細胞で古い細胞はリソソームが壊れてしまうということか? でもリソソームが破れて中身が出たら細胞内が酸性になって死んでしまうのでは?」

「そこが最大の難所でした 研究のために人の細胞を増殖させて、上から軽く叩いてリソソームが破れた半殺し細胞を作って観察していたところ、検体を運んでいた人がつまずいておしっこをシャーレにひっかけてのです」 「まさかそのエピソードが世紀の大発見につながったみたいな?」 「ご明察 その後スタッ・・・じゃなかった 半殺し細胞は元気を取り戻したのです しかもリソソームは破れたままなのにです」 「ということは、ションベ・・・じゃーなかった、尿の中のなにかの成分が老化細胞に持続化給付金のようなものを与えた訳だ なんだろう? ナトリウムかカルシュウム、あるいはカリウムか糖なのか?」 「そこは素直にアンモニアでいいでしょう? 血液中にアンモニアが多いのは腸内に悪玉細菌が多くて便秘になり、そこからメタンが生成され、さらにアンモニアとなりSGL1酵素となって老化細胞を延命させ早く老け込んでものと推測されます」 「ではどこかの繋がりの部分をブロックさせればいいんだな? 腸内環境をお花畑にするか、或いはアンモニア除去剤を入れるかってところだな」 「まあそれでもいいんですけどぉ・・・SGL1を阻害するってのはどうですか?」 「そんな薬剤があるの? 正常な細胞まで殺したらまずいでしょう」 「あります もちろん私が開発したもので、正常細胞には作用しません その名もSGL1阻害薬で~す」 「そのまんまじゃないか! 若い癌細胞はどうなの?」 「癌は老化と違って患者の血液から樹状細胞を取って訓練を施して体内に戻せば全ての癌が消滅するから気にすることはありません」 「でもやったな これで俺たちはノーベル医学・生理学賞まちがいなしだぁ!」 「俺たちって、これは私の発明ですよ」 「あぁ そうなの? そんなつれないこと言うんだ じゃー名前を貸すのをやめよっかなぁ~」 「またこれだ! どうして教授という生き物は欲深いんだ?」 「またってってなに? 前にもあったってこと? ・・・えっ!? まじかよ」 「どうかしたんですか?」 「今SGL1でググったら出てますよ しかも日本ではNASH(非アルコール性脂肪肝炎)の治験も始まっているようだ ムナちゃん、もう少し早く言ってよ~」


「おい前田! いつまで寝てるんだ!!」 「はっ!! わーびっくりした、ムナちゃんか 課長かと思った」  「早く出かけないと本物の課長がきますよ」 「いってきまーす」 「いってらっしゃい♡」  


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