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Solomon's Gate(試作_5回目失敗)  作者: にしてつ
森の中の死体
9/10

戦い

 アマンダは自殺を考えながら泣いていた。

 尖塔の屋根の縁に引っ掛けた足は幾度の痙攣と激痛に耐えかねてもはや感覚はなかった。闇夜の暗黒に閉ざされた砦は地面すら見えず、アマンダは世界の暗黒にひとり取り残されている感覚になっていた。

 彼女は塔の窓からオークの蛮行を見ていた。母は喉を引き裂かれ殺された。そして焼かれて食われた。

 父はアマンダをこの塔に押し込んだとき、ドアの向こうでオークの大槌で叩き潰されて死んだ。

 兵も女中もみな殺された。

 今アマンダは暗闇に一人だった。城壁に潜んでいたあの人は今どこにいるのだろうか。彼は身振りでここに待つように言った。しかし、彼一人でこのオークの群れの中なにができるのだろうか。

 足のしびれはもはや限界に達し、右のふくらはぎがまた痙攣を起こし始めた。彼女は息を殺して激痛を噛み殺したが、もはや意志の力はもう殆ど残っていなかった。彼女は再び地面を覗き込んだが、暗闇の底にはなにも見えなかった。

 もはや死んでしまおう彼女は目を閉じ,徐々に体重をつま先にかけた。胃がせり上がり息ができなくなった。彼女は首をもたげ意志の力を集め、暗闇の底に身を投げようとしていた。

 その瞬間、闇夜に突如閃光が走った。

 西の城壁の屋上からいくつもの発火炎が瞬いた。そして耳をつんざく爆発音が闇夜の静寂を裂いた。暗闇のどこかで姿の見えぬ鳥が羽ばたいた。

 あれは銃声だ。

 そして闇夜の底からオークたちの悲鳴とうめき声が上がった。

 兵士たちの、反撃が始まったのだ。

 次の瞬間、彼女の襟首が何者かに掴まれた。そして屋根瓦に再び身を押し付けられた。

 アマンダは手では口をふさがれた。汗の塩気がアマンダの唇を濡らした。男の顔が直ぐ側で人差し指を立てしゃべるなと合図した。

 男の首元から汗の匂いが漂ってきた。彼は細い女性的な首を持っていた。長いまつげのしたの真っ青な目と正面から見つめ合った。

 彼はゆっくりと口元から手を離して言った。

「あなたを助けに来ました」


 彼は尖塔をぐるりと廻るり塔の先端に縄を引っ掛けた。そして彼女の体を縄に結んだ。彼は小さな礫を2つ地面に落として合図した。すると少し縄が緩んだ。

「ゆっくり体重をかけてください」男はいった。男の金髪が櫓の炎に金色にきらめいていた。顔の半分は影になって見えなかった。

 彼女は言われたとおり縄に体重をかけた。そして宙に足を浮かせた。体を支えるものがなにもなくなっとき、彼女は恐怖心でパニックに陥った。彼女は目を閉じひたすら時間がすぎるのを待った。銃声と剣戟の音が直ぐ側の闇から響いてきた。彼女の心臓はせり上がり、腕はわななき恐怖で身動きが取れなくなった。彼女は首をせばめひたすら時間がすぎるのを待った。そして気がついたときは地面に下ろされ、二人の男に介抱されていた。

「お嬢ちゃん、もう大丈夫だ。」濃いひげの体の大きい男が言った。北方人特有の彫りの深い顔と毛深い腕をしていた。もうひとりの男が彼女の縄をはずしていた。彼も背が高く痩せて尖った鼻をしていた。男は縄をはずし終わると、その縄を大く揺らして合図した。縄はまた上に引っ張られていった。

「ありがとう」アマンダは言った。太い男は、手振りでアマンダに伏せろと命じた。

 やがて縄が再び引っ張られ緊張した。た。男二人は紐に体重をかけると、ゆっくりと上の男をおろし始めた。

 彼女は思考が定まらないまま男たちの行為を見守っていた。

 その時塔の影から物音がした。そして明かりが近づいてきた。彼らは凍りついた。痩せた男は手振りでアマンダに縄を支えるよう指示した。そして剣を抜き腰を落として物陰からくるなにかを待った。


 それは胴鎧を着込んだオークだった。右手に短銃をぷらぷらと下げた、顎の肉が肥えた間抜け面の太いオークだった。ゲイルは呼吸を殺してオークの懐に潜り込むと一閃刃を下から首元に突き刺した。オークは目玉を剥き驚愕の表情で刃を見下ろした。開いた口の乱杭歯の隙間からゲイルの剣先が銀色にきらめくのが見えた。オークはカンテラを取り落した。蝋燭が倒れ明かりが消えた。ゲイルは素早く剣を引き抜くと喉仏のふくらみの真下を再度突き刺した。それでもなおオークの喉を潰すのに十分ではなかった。

「ぐおおおおおおおお!!!」オークが血の泡に溺れながら濁った雄叫びを上げた。

 その雄叫びはこだまとなって谷間の隘路を幾度となく反響した。そして一瞬の静寂があった。このまま何も起きないのではないかという期待。

 中庭で、オーク達が騒ぎ出す声がした。

 ゲイルは一瞬ためらった後指笛を鋭く吹いた。

 途端城門の方で大きな物音がした。そして激しく剣を打ち合う音が聞こえてきた。兵士達が囮として騒ぎを起こし敵をひきつけているのだ。

 ゲイルは上を向いて小声で叫んだ。「アイル、急げ!」

 次の瞬間、近くで何かが砂利を踏みしめる音がした。ゲイルは身構えた。痩せた若いオークが建物の影からぬっと顔をだした。

 オークは3人を一瞥すると、剣を抜き縄を支えているヤゴーに切りかかっった。

 ヤゴーは片手で剣を抜きオークの剣を受け流した。オークの分厚い鋳造の剣はゲイルの両手剣の刃先を走り激しい火花が散った。そして重い剣同士がぶつかり合う硬い金属音が闇夜に響いた。鍔迫り合いに震える剣をオークはその膂力で押し込み、鈍い刃先がやゴーの頬を割いた。「アイル急げ!」ヤゴーが鋭く叫んだ。すると手に持った縄がゆるんだ。おそらくアイルが壁に取り付いたのだろう。ヤゴーは両手で剣を握り直し、オークの剣を押し返した。そして鋭く上段に振りかぶり全力で剣を打ち下した。

 オークは籠手で剣を受けた。そして返す刀で大股で踏み込んで下段に剣を突き出した。剣はヤゴーの右足に突き刺さった。ヤゴーは片膝をつき崩れた。

 その時、闇夜に気配を消していたゲイルがオークの右目にむかって鋭く突きを入れた。

 しかしオークは首をそらして頬で剣先をうけた。剣はオークの頬を突き破った。その剣の腹をオークは歯でがっちりと咥え込んだ。硬い臼歯には挟み込まれ剣は抜けなかった。

 オークは手首を返しゲイルに向かって剣を払った。ゲイルは剣を手離して飛び退いた。

 オークは再びヤゴーに向き直った。そして剣を高々と掲げ今まさに打ち下ろさんとした。

 そのとき、オークは頭頂をなにかに叩きつけられた。アイルが壁から飛び降りそのままオークの頭を全力で踏み潰したのだ。オークはフラフラとよろめき片膝をついた。彼は脳を揺さぶられ意識が飛びかけていた。アイルはそのまま地面に転がり受け身をとった。

 ヤゴーが立ち上がり、長剣を引き絞り勢いよく突き出した。

 オークは喉仏から頚椎まで一閃に貫かれた。そして喉と口から血反吐を吹き出し即死した。

 3人の男は顔を見合わせ頷いた。そしてオークの短銃を回収した後、兵舎に向かって走り出した。


 同時刻に、襲撃を受けたオークたちは武器を取りに倉庫へ走った。だが、扉は錠がされ開かなかった。

 下っ端のオークたちが扉に手間取っていると、「どけ!」と緑鬣の巨体オークは叫び、ショルダータックルで扉に全力で突撃した。

 扉が勢いよく開いた。刹那、緑青は見た……紐に括られたろうそくが、なぜか眼前の空中を舞い踊るのを。

 ろうそくの真下には樽……酒樽か?

 いや、ちがう。火薬樽だ。

 火薬樽の前には、刃先を向けられた何十もの鉄剣。

 瞬間悟る。

 これは罠だ。

 「伏せろ!!!」緑青は振り返りながら叫んだ。そして真後ろのオークを腕に抱え地面に倒れ込んだ。

 直後、爆発と閃光。臨界音響を超えた衝撃波が鼓膜と三半規管を激しく追檄する。粉砕された石畳の破片が千もの礫となって下肢を穿った。

 緑青は激痛に歯を食いしばり目を強く閉じた。

 ようやく目を開けたときには、四柱を残して吹き飛んだ倉庫と、パラパラと舞い落ちる石壁の破片と、そして目の前に広がる血の海。

 腕に抱えた同朋の顎から上が吹き飛んだ肉体。

 倉庫前に集ったオークは彼以外の全てが死んだ。

 緑青は慟哭の叫びを上げた。

読んでいただきありがとうございます。


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