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ロボットの一周年記念日

 いつもと同じ午前六時。私が起動すると、目の前に若草色の髪に、先の尖った耳の美青年が笑顔で立っています。


「おはようダーリン。今日も良い朝だね」


 容姿に負けず劣らず美しい声は、たしかに爽やかな朝にふさわしいのでしょう。舞台に立つテノール歌手のようです。


「エディー、朝早くにどうしましたか?」


 美青年ことエディーは普段は大変な寝坊助(ねぼすけ)さんです。何か良いことでもあったのでしょうか。


「今日は君がこの家に来て一周年記念日だよ」


「よく覚えていましたね」


 私の正確なメモリはともかく、彼がその手の記念日を覚えているのは予想外でした。


「忘れるわけないだろダーリン。下の階でお父様とチャーリーが待ってるよ。プレゼントがあるんだ」


 私の額に軽くキスをすると、エディーは軽やかな足取りで階段を降りていきます。


「ほら早く早く!」


 エディーは二十二歳という年齢の割に、子どもっぽいところがあります。ハーフエルフの常として、見た目も年齢不詳(ふしょう)なのですが。


 私が階段を降り、廊下を歩いてダイニングにつくと、三人の男性が何故か席に着いて待っていました。食卓には白い包みが置いてあります。


「遅いぞポンコツ」


と栗色の髪の少年チャーリー。


「おはようD2(でぃーつー)


と灰色の髪の紳士ケイスケさん。


「早く包みを開けてみて」


 とエディー。栗色、灰色、若草色と髪の色はとりどりですが、三人とも(とび)色の綺麗な瞳をしています。こうして並んでいると、彼らの血の繋がりを感じずにはいられません。


 私はなるだけ丁寧に包みを開けました。


「まあ」


中に入っていたのは、小さなエプロンでした。真っ白な布地はツルツルとしていますが、お洗濯のできる化学繊維。フリルとピンクのリボンがついています。


「本命の食洗機が間に合わないからって兄貴が焦って買ってきたんだぜ」


「余計なこと言うなよチャーリー」


「私は食洗機しか買ってないよ。そのエプロンはエディーのなけなしのアルバイト代だ」


「お父様まで。バラさないでいいよ、そういうことは」


どうやらプレゼントのようです。私は小さなエプロンを穴が開くほど見つめました。


「……気に入らなかった?」


私の反応はエディーを不安にさせてしまったようです。私は急いで表情を変えました。私はその気になればとびきりの笑顔になれるのです。


「まさか! あんまり素敵なので、隅々までメモリに記憶させようと思って!」


 私につられてエディーも笑顔になりました。


「喜んでくれてよかった」


「素敵なプレゼントありがとうエディー」


 エディーは無言で私を抱きしめました。こちらこそ、私の反応にそんなに喜んでくれるなんて。でもエディー。チャーリーがうわーって、どちらかといえば喜ばしくなさそうな顔でこちらを見ているので、このくらいにしましょうね。


 私はエディーを引っ剥がして、もらったエプロンをつけました。


「さあコーヒーを淹れましょう!」


ブラックコーヒーとミルクたっぷりのカフェ・オ・レと、砂糖を二つ溶かしたコーヒーを用意したら、みんなに手伝ってもらって朝食を作ります。


 新しい一日の始まりです。今日も良い日になりますように。私はメイドロボとしてこのお屋敷に来てから今までの出来事を、しみじみと噛み締めました。

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