リザルト2
「元々職能とか、ゲームゲームした世界観だなぁとは思っていたのよ。ここに来てステータスとは。ゲーマーの血が騒ぐわ!」
「は、はぁ」
「コゼットちゃんは職能を貰ったよね?」
「そうですね、<スライム使い>を頂きました」
「同じように、私も貰ったってわけ……たぶん」
「たぶんですか」
チヨ様が気まずそうに明後日の方を見ています。
「しかたないじゃない。自分の職能を確かめる術がないんだもの。できるんだし、しかたないじゃない」
「はぁ、まぁ、そうですが」
「名付けるなら<解析>ね。コゼットちゃんに関わる事なら色々わかる能力ね! で、まあこれよ」
「ピュア・スライムというのがこのスライムの名前、というか種類ですか。あとはスキルみたいなものですね。やはり草玉を作ったのは抽出ですか」
「コゼットちゃんが実験してた奴ね。ここからどうなるのかどうかよくわからないけども、興味深いものがいくつかあるわ」
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ピュア・スライム
経験値:5
<全が一><吸収 lv1><抽出 lv1><移動 lv1><ストック lv1>
ストック:0
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<全が一>
我々に個はない。誰はなく、我もない。我々だけが有る。全てが我々であり、全てが我々になる。
<吸収>
消化した対象が持つスキルを確率で習得する。消化力にも影響する。
<抽出>
魔力を消費し、体内に取り込んだ物を要素ごとに分解し生成物とする。レベルがあがるごとに、対象にできる要素が増え、生成速度が上がり、魔力消費量が下がる。
<移動>
移動速度に影響する。レベルが上がると地面状況の変化にも対応できるようになる。
<ストック>
同族を取り込み「ストック」とする。ストックが増えるたびに全てのステータスが上昇する。いつでもストックを解消し分裂することができる。レベルによって上限数が変わる。
「ね?」
「ええ、文字だけを見ると<ストック>が興味深いですね。しかし、すごいですね。ここまで詳細に見れるとは」
「ふふーん!」
「ナカマヲアツメヨ、チカラ、チカラ」
「ええ、恐らく明日、何体かあなたのお仲間が来るでしょう。早速試してみましょう」
「ウヲォォオオオオオ」
嬉しそうですね、スライム。
力へのその原始的な貪欲さ。本来、生き物とはこうあるべきものなのでしょう。見習うべき所があるかもしれません。
「この<全が一>というのはなんですか? 物々しい説明になってますが」
「レベルもないし、スライム特有のものか、コゼットちゃん配下のスライム特有のものなのか、そんな所かな。全てのスライムは色々なものを共有するってことなのかも」
「そうなのですか?」
「ゼンブ、スライム。コレ、アレ、スライム。コレ、アルジ、スライム」
「……」
「……」
「チカラ! チカラガ!!」
「ええと、控えめに言って危なくないですか?」
命への根源的な危機を感じます。
「予想以上に危ない気がするね」
「アンゼン!! チョットダケ!! チョットダケダカラ!」
「信用できないよ!?」
ビシビシとスライムにチョップを繰り返すチヨ様。
「まぁ、とはいえ、スライムを上手く使っていくしかありません。せいぜい上手く制御していけということでしょう」
「肝が据わってるねコゼットちゃん。そういうところも好きよ」
「あ、ありがとうございます」
「チカラ、チシキ、アルジニナル。ツヨクナル。ゼンブアルジ」
「……なるほど?」
「わかるのですか?」
チヨ様がスライムをつつきながら目を細めます。
「私たちの世界には、粘菌という動く水みたいな生物がいるの。この世界にもいるかも。もしかしたら粘菌の代わりにスライムがいるのかもしれないけれど。そいつは小さな生き物が集まって1つの大きな生き物を作ってる。スライムも同じかも知れない」
「はぁ、信じられません」
どう見ても目の前のスライムは1つの個体です。しかし、スライムの能力やスキルの説明を見ると、納得できる事もあります。
「それを考えると、スライムが増えると強くなっていくという言葉も納得できる。思考能力があがるという事なのかも。そしてその力がコゼットちゃんに還元されるのかも。理屈はわからないけれど、ファンタジーだし……。スライム、コゼットちゃんとの主従関係は絶対?」
「アルジ、ゼッタイ。アルジガイル、スライムツヨクナル」
「ふむ。今まさにコゼットちゃんの影響を受けて思考能力が高まっているっていうこと? そしてスライム側から乗っ取るような事はできない」
「エチゴセイカ!!」
ぐんにょりと自身の体で器用に丸を作るスライム。
「……コゼットちゃんやばいわ」
「どうしたんですか?」
「こいつ、私からの影響も受けているわ!」
「まずいことですか?」
チヨ様がひどく真面目な顔でスライムを睨みます。
「わからない。危険が無いとは言えない……。私とコゼットちゃんが繋がっているように、私とこのスライムも繋がっているの。多分このスライムの高い思考能力は、私とコゼットちゃんの頭を間借しているんだ」
「エチゴセイカ!」
「そんな……」
今日一日側にいた、というか今もまさに一緒に寝ているスライムが、どこか恐ろしい物のように見えてきます。
「アルジゼッタイ! アルジイナイ、スライムワカレル」
必死に訴えるスライム。
「本当だね?」
「イノチカケル」
「コゼットちゃんを裏切ったらもうクッキーあげないからね」
「イエスマム!」
万能ですね、クッキー。
「まあ、わたくしにはあなたしか居ないのです。せいぜい見限られないように頑張ります。あなたもわたくしをガッカリさせないようにしてください」
「ワルイスライムジャナイヨ!!」
◇
「ゲーマー的にはこの『経験値』というのも気になるわけよ」
「そうなんですか?」
今は5あるようですね。
「だって経験値よ? これを貯めると強くなるのが定番なのよ」
「それは素晴らしいですね」
「コゼットちゃんの世界にはレベルなんてないよね」
「スキルの強さという意味でレベルはありますが。それも習熟度の目安でしかありません。強くなるには鍛錬しかありません。経験値というのは初めて目にしました」
自身がどれだけ強くなったのかの目安は、教会で見てもらうしかありません。
それもまた単純な目安でしかなく、スキルのレベルが高くても単純に=強さというわけでもありません。
「ふむ、だよね」
「チカラ、ツヨクナル。アルジガエラブ」
むにょんむにょんと屈伸するスライム。
「わたくしが選ぶのですか?」
「アルジ、スライムノアルジ。スライムノオウ」
何を選ぶというのか。
「もしかしてこの吸収とか抽出とか、コゼットちゃんがスキルを選んで強くなるの?」
「ツヨクナル!!」
「ふむ……。あなたは経験値を貯めてスキルが強くなるのですね。どうやって経験値が貯まるのですか」
「イキル!!」
なるほど。生きること即ちそれだけの力を持つと言うことですね。
「深いですね」
「そうかなぁ?」
チヨ様が頭をかしげます。
「この世は生きるか死ぬかですよ。スライムなど、生き延びるだけで奇跡でしょう」
「まあ、それはそうかも。それだと生きるのに必要な事に関係するスキルを高めると良いかも?」
「イイセンスダ」
「それだと、<吸収>でしょうか。力になるという意味では一番、経験値という言葉に関連性を感じます」
<吸収>によってスキルを得ることもできるようですし。かなり有用なスキルでしょう。確率面で未知数ですが。
移動はわたくしが持ち運べば良いです。ストックは上限に到達するまで後回しでしょうか。抽出は今日見た感じ不満はありません。
そうすると、消去法でも今不足している能力は吸収でしょう。これをどこまで高めれば目に見えて有用になるかわかりませんが、高める価値はありましょう。
「良いんじゃないかな」
「じゃあスライム、<吸収>を高めて下さい」
「ウォオオオオオオ」
スライムがぶるぶる震えています。
光の文字が動き、経験値が0になり、<吸収 lv3>となりました。
「ふむふむ、消費経験値2でlv2、3でlv3か。レベルと同じだけ経験値を消費するのかな。最高レベルはいくつかな」
「この感じだと相当ありそうですね」
「1000無い事を祈ろうか」
「ぞっとしない話ですね」
ともあれ、わかりやすい目標もできました。目に見えた成果ができなくても、とりあえずスライムのスキルを高めていくという行動指針ができたのです。
今日はとても有意義であったと言えるでしょう。
会話も改行を挟んでみました。
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ピュア・スライム
経験値:0
<全が一><吸収 lv3><抽出 lv1><移動 lv1><ストック lv1>
ストック:0
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多分後々管理しきれなくなる奴。ごちゃごちゃし始めたらレベルは省略すると思います(免罪符)。