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スライム玉

 わたくしはスライムを抱えて庭に出ました。


 屋敷の裏手にある畑が目的地です。薬草や、まだ時期ではない花などをここに植えて育てているのです。


 その1つを自由にして良いと許可を頂いています。


 そこに、相変わらずクッキーでテンションの高いスライムを下ろします。


「雑草と薬草の違いがわかりますか?」

「?」

「うーん……」


 わたくしがやらせたいのはスライムによる雑草抜きです。


 以前、庭師が雑草抜きの作業中に腰を痛めたことがありました。その時、畑では毎日の作業として、雑草抜きと害虫駆除が必要なことを知りました。


 これをスライムで代替できないかというわけです。


 とはいえ、スライムの消化能力は低いです。


 もしかすると消化能力の高いスライムもいるかもしれません。しかし、ここにいるスライムのそれは残念ながら低い。


 クッキーも刺して数時間が経っていますが、いまだ全てが溶けているわけではありません。


 つまり、消化能力によって雑草を次々消化していく、というのは期待できません。


「これは食べてはいけません」

「!!」

「これは食べて良いです」

「!」


 とりあえず薬草を1つと雑草1つをそれぞれ抜き、スライムに刺します。きちんと理解できたようで、雑草がスライムの中に取り込まれます。


 スライムの中に雑草が浮かんでいるような形。


 ふむ。


 やはり、スライムには思考能力があり、かなり賢いです。


 これがわたくしが使役しているからなのか、元々高い思考能力が備わっているのかはわかりません。


「クッキーは体の中に入れないのですか?」


 ぷるぷる震えるスライム。


 どうやら好みの味があるようで、必要に迫られない場合はゆっくりと消化したいようです。


「ここの列は一種類の薬草だけです。それ以外の草を抜いて処理しなさい。行きなさい」

「ピェエエエエイ!!」


 一鳴きして畑を進み出すスライム。


 …………。


 ……。


 まぁ、移動速度は遅いですが、しっかりと仕事はできているようです。雑草を見つけると、体の一部を土に潜り込ませ。根ごと抜き出し取り込んでいます。


根が張ってるものについても、捻るようにして途中から引きちぎるようにして抜いていますね。まあ問題ないでしょう。


 その様子をしばらく観察していると、ある程度取り込んだ段階で、スライムからなにやら許可を求められます。


「良いですよ」


 許可を出すと、体の中に取り込まれた雑草がギュッとまとまりシュワシュワと泡立ちます。


 そのまま雑草が消えて無くなってしまいました。


 スライムが居た土の上には、雑草のカスのようなものが残っています。


「……カラカラですね」


 正しくカスなのでしょう。触ってみても、水分も感じられないほどです。


 白だったスライムが、薄く緑に染まっているような気がします。


「それは許可が必要だったのですか?」

「ピェイ」


 必要なようです。


「……んー、魔力を使うとか?」

「~♪」

「なるほど」


 これはスライムがもつスキルなのでしょう。


 どれほどの魔力を消耗するかはわかりませんが、魔力は自然に回復しますし、まあ問題は無いでしょう。



「ではそれを使って雑草を処理していってください」

「ピェエエエイ!!」


 勇ましく進み始めるスライム。


 行くのですスライム! がんばるのですスライム!!


 ……。


 遅いですね。



「――それではやってみましょう」

「はい」


 結局、畑をのんびり進むスライムを見ているだけというのも、もったいないので魔法の練習をしております。


 炎を思い描いてえい、炎を思い描いてえい。


「はい、体の中の魔力を感じて」


 魔力とは体の中に巡っており、特に体の中心に濃く存在していて、これをどうにか動かし魔法とするのだそうです。


 炎を思い描いてえい。炎を思い描いてえい。


 大切なのは想像力と記憶力。


 魔法を記した本に描かれた魔方陣を記憶し、それを頭の中で描き、魔法を現象とする。


 魔法が正しく発現したとき、その魔方陣が体の中に刻まれ、いつでも使えるようになるのだとか。


 ただその制御には難しさや癖があり、たゆまぬ鍛錬が必要なのだそうです。


 最初のとっかかりが難しく、ここで苦労する方も多いと聞きました。


 本を見て、講師の言葉に耳を傾け、繰り返すしかありません。


 さて、わたくしはどれだけの時間がかかるのやら。


 まあ、素質はあるようなので、そこまで焦ってはいません。


 そうしている間にも、スライムはもそもそと雑草を取り込んでおります。


 指示を出してから数時間が経っています。


 作業は遅々として進んでおりませんが、塵も積もればなんとやら、なかなかの量の雑草の処理が済んでおります。


 人間の手作業で10分かかるところを、スライムに任せて4時間というところでしょうか。


 この差をどう見るか、というところでしょうね。


 もっと数を増やせば、畑仕事の援助に有用と言えなくもありません。



 講義も終わったので、スライムに近づきます。


 元々、白だった色がもうほとんど真緑といった塩梅。クッキーは既になくなっています。


 この色、元に戻りますよね?


「疲れていませんか?」

「??」


 理解できないようです。


「最高にご機嫌ですか? ご機嫌ですか? 元気ですか? そうですか、元気ですか」


 どうやら体調? には問題ない様子。


 もしかするとスライムには、疲労といった概念は無いのかも知れません。


 だとすれば、かなり使い道があるように思います。


 ふむふむ、面白いではないですか、スライム。


 作業をしている間、スライムが休むといったことはありませんでした。

 

 消化するのには魔力がいるようですが、次の消化までに雑草を抜きつつ移動する事で、効率的に作業を進めることができているのでしょう。


「元の色には戻れるのですか?」

「ピェイ、ピゥイエエエエエイ」


 ブルブル、と震えながらスライムの色が白に戻っていきます。体の中心に、いくつもの濃い緑の球体ができているのが見えます。


 少し経つと、その濃い緑が外側に動き、そのままポロンと玉として出てきます。


「なんです、これは」


 持ってみると、なんともプニプニしております。


 よくよく観察してみると、透明な殻で緑の内容物を包んでいるのがわかりました。


「これはなんですか?」

「?」


 本スライムにもわからない様子。


 スライムが雑草を処理すると、後には絞りカスのようなものが捨てられます。とすればこれは、雑草の栄養素的なものなのでしょうか。


 ここから考えられるのは何か。


 これが消化であれば、カスはでないはず。となると、これは文字通り雑草を絞った成果物なのでしょう。


「つまりスライム、お前は消化ではなく雑草の栄養素を抽出したのですね」

「?」


 おそらくスライムは、わたくしが雑草を処理しろという曖昧な指示を達成するために、体に貯めた雑草をどうにかしようとしたのでしょう。


 そのまま吐き出す事もできたのでしょうが、今回の指示から外れます。そしてスライム自体の消化力では指示を達成することはできない。


 その結果が抽出です。


「スライム、あなたはわたくしが思っていた以上に可能性の塊です。もっと情報を集めなければなりません」

「ピィエエエエエイ!!」


 抱え上げると、スライムがぶるぶると楽しげに震えました。


 この玉を「スライム玉」といたしましょう。


 これは雑草の栄養を集めたスライム玉。つまり雑草スライム玉、縮めて雑草玉ですね。


 雑草といえど、この玉には雑草の栄養、大げさに言えば生命力が詰まっております。なにか利用方法があるかもしれません。


 農作物の栄養剤になったりはしないでしょうか。


 これだけ濃い色なら染料にできるかも知れません。


 とりあえずメイドにガラス瓶を持ってきてもらい、これに雑草玉を入れます。


「光にかざすと綺麗ですね」


 ともあれ、これらを試すのにはとても長い時間が必要でしょう。庭師やお父様に渡して、実験はそちらでやってもらうのがよろしいでしょうか。


 わたくしは農業には明るくありません。そんなわたくしがいたずらに手を出しても失敗する未来しか見えません。



「抜いた雑草はどうしていますか?」

「へぇ、集めて燃やしております」


 屋敷の表に回り、植木の手入れをしていた庭師に早速話を聞きます。


「そうですか。この子が雑草を食べてこの玉を出せるようなのです」

「はぁ、そうですか。その玉はなんですか?」

「まだわかりません。おそらく雑草の栄養を抜き取ったものです。何かに使えるかもしれません。燃やすならスライムに与えようかと」

「わかりました。他の連中にも話しておきましょう。申し訳ありませんが、執事長に話を通していただきませんか」

「ありがとう。話も通しておきます。あ、これをいくつか渡しておきます。利用法を思いついたら教えて下さい」


 雑草玉をいくつか渡します。


「へぇ。食べたらだめなんです?」

「元は雑草ですよ? 食べられるんですか?」

「いやあ、なんだかおいしそうなもんで」


 作業で疲れてお腹がすいてるんですかね。


「まあ確かに、見た目はそうですが」

「食えるもんだけ与えたら、食える玉がつくれるんじゃねぇですかい?」

「……そうかもしれないですね。考えてみます」

「楽しみにしております。こいつはまあ、小分けにした鉢にでもやってみますわ」

「わかりました。雑草玉はできたものをどこかにまとめて置くようにしますので、自由に使って良いにことにします」

「わかりました」

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