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助けに来ましたよ

 先生に先導してもらい、洞窟の中を歩きます。


 なんとまあ、空気が悪いですね。


 臭いは抑えておりますが、なんというか、古い臭いといいますか。


「この洞窟はどうしますかね」


 崩すにしても私の力ではちょっと難しそうですね。岩を1つ2つ溶かしたら崩れるとかそういう物でもなさそうです。


 また、崩したらどうなるのか予測もできません。


 土スライムに埋めて貰いますかね?


「定期的に見回るように通達を出すのが普通ですな。いつの間にかこういう穴はできるのですよ」


「そうなんですね。とりあえずスライムを何体か常駐させておくつもりです。スライムを倒さないように注意しておいてください」


「持って行く奴がいるかもしれませんが?」


「だとしても届けられるのはギルドでしょう。まあ、この洞窟まで来る方がスライムで得る小金を欲するとも思えませんが。最悪、逃げられるでしょうし、倒されても実際痛手ではありません」


 スライムを拾う方々は、大抵街の周辺でスライムを見つけているようです。わざわざ森に入ってまでスライムを取らないでしょう。スライムは簡単に確保できますが、かさばるのです。


 わたくしのスライムがギルドに届けられたところで、そこまでの損にもなりません。


 処理場が稼働した今では、ギルドから得られるスライムの数は微々たるものです。しかし、仕事としての評判は良さそうですし、しばらくスライム確保依頼はこのままでしょうね。


 見たことないスライムが確保できる可能性もありますし。


「なるほど。ではそれで良いでしょう。管理できるなら、こういった洞窟は利用価値があります。小屋を建てるにしても手間ですからな」


「そういうものですか」


 と、喋っていると該当の小部屋に来ました。


 まあ、なんとも。


「胸を張りなさい」


 ええ、ええ。


 わたくしは泣く子も黙る”イスフィールド”ですからね。


 スライムたちの壁を割り、中に入ります。


「出てきてくださいな。助けに来ましたよ」


「う、嘘だ!!」


 そこにいたのはひどく汚れた少年でした。手には短剣を持っています。


 頭から足先までどろどろになりながらも、目だけが爛々とこちらを見ています。


 ふむ。


 良い目です。


「嘘だと言われましてもね。ゴブリンは全て倒しましたし。ギルドの証もありますよ」


「そんなの誰だって取れる!! それにお前は怪しすぎる」


 むっ、確かに白仮面はつけてますし、ランクも最低ですが。面と向かって言われると少し傷つきますね。面だけに、という洒落ではありませんよ。


「あまり顔は見せられないのですよ。人には様々な理由があるものです。例えば大きな傷があるとかです」


「うっ」


 言葉に詰まる少年。これは何か後ろめたい事がありますかね?


「お、俺たち(・・・)にゴブリンを倒せって言ってきた奴も冒険者だった!」


 あー、あの方達ですか。見事に面倒くさい事態になってるじゃないですか。後でお仕置きですね。



「うっ」


「どうした?」


 街でスライム首輪をつけられたゴロツキのリーダーが立ち止まったので、取り巻きたちが気にする。


「いや、今首輪がしまったような気が……」


 真っ青な顔をするリーダーに、周りも少し青くなりながら首を確かめる。


「あんまり驚かすなよ」


「そ、そうだよな」


「それより、早く他の奴らに話つけにいかねぇと、問題が起きて絞められるのは俺たちだ」


 一人が首元を切るような仕草で手を動かす。


「ああ、行くぞ」


 焦ったように、ゴロツキ達は狭い路地を走って行った。



 ふうむ、しかし”俺たち”ですか。気になる言い方ですよね。


 今わたくしたちに対峙しているのは少年一人です。


「ちょっと失礼」


「なっ」


 少年にスライムたちをけしかけ、抑えつけます。ついでに綺麗にしてやってください。


 人の汚れをそのまま取ったことはありませんが、まあできるでしょう。


「く! や、やめろ!!」


 もがいても、どうにもなりませんよ。弱い自分を呪うのですね。


 ふうむ、どう考えてもわたくしが悪者ですが、まあ良いです。誤解は後で解けばいいですし。


 助けたいというのは本音ですからね。

 

 何も問題はありませんね!


 あと、力尽くで人の行動を制限するの、結構嫌いではない自分がいることに気づきましたよ。ちょっと楽しいです。


 ほらほら、こうするとどうですか。


「や、やめろ!! 服の中に! ヒン!!」


 あら、良い声ですね。


 ――これ以上はいけないと、脳内チヨ様がバッテンを作っているのでやめておきます。


≪え、やめるの!?≫


 何か聞こえましたが、無視します。


 さてさて、邪魔なものをどけて――、と。


「あら」


 これはまずいですね。


「先生」


「おや」


「早急に屋敷へと戻らなければなりません」


「そうですな。洞窟から出たら狼煙を上げます。森を出る頃には馬車が来るでしょう」


 流石先生。やはりこういう時の対処方法は用意済ですか。


 隠れていたのは少年だけではなく、女の子もおりました。それもかなり危険な状態です。


 左前腕に噛み跡があり、ズタズタ、熱があるようでぐったりしております。さらには、彼女もドロドロの状況のようです。


「あなたに構っている余裕がなくなりました。このままではこの方、死にますよ」


「え!」


 驚いている所申しわけありませんが、もたもたしている暇はありませんね。


 そして、ここもこのまま放置することもできません。


「ここにいる方で、あなた方に関係する方はいますか?」


「い、いや、いない」


 そうですか。


「では、ここにある全ての魂に安らぎがあらんことを」


 時間が無いので祈りは略式です。


 それにあなた方には、祈りよりも無念を晴らす機会を与えるのがふさわしいでしょう。


 ついてきたいなら、いくらでもついてきていいですよ。


 わたくし、懐は深いつもりですからね。既にスライムが万体近くと一名いますし。


 スライム達が渦巻き、その場のわたくしたち以外の、あらゆる物を飲み込みます。


 そこにあるのはただ1つの感情です。


 ――歓喜。


 極上の”力”を持つ素材(・・)を前にスライムたちが喜んでいるのです。


 ええ、良いですよ。何もかも食べてしまいなさい。


 そして魔物を倒しましょう。


 沢山、沢山倒しましょう。


 ここはイスフィールド領。


 魔物相手に切って切られて今日を迎えた野蛮な土地です。


 魔物は何故か人間を襲います。動物もいるのに、執拗に人間を襲うのです。


 そう定められて生まれてきたかのように。


 だからこそ、わたくしたちイスフィールドの人間たちもまた、生まれながらに定められるのです。


 魔物を許すな、魔物を殺せと。


 子守歌のように聞かされて育てられます。


 あなた方もそうでしょう。ならば、これが手向けになるでしょう。



「大丈夫ですか?」


「はい。――いえ、ありがとうございます」


 少し、頭痛がする程度です。


 問題は――無いでしょう。


 ここに留まる理由はなくなりました。出ましょう。


 先生の手が塞がると行けませんので、女の子を包み移動させます。ついでに彼女も綺麗にしましょう。


 少年もそうでしたが、どろどろで何がなんだかわからない状態でしたからね。女の子とわかったのも、軽く体を見てみてからですしね。


「ちょ、ちょっと」


「これ以上、あなたと問答する気はありません。黙ってついてきなさい」


「うっ」


 今の光景で、完全に力量差はわかったでしょう。黙ってついてきてくれます。


 短いやりとりでなんとなく察しておりますが、彼は頭の回転が速そうです。手間が少なくて良いですね。


 はぁ。


 今日は疲れました。


 帰ったらとりあえず寝ましょう。


 他の講習は申しわけありませんがキャンセルです。


 チヨ様にクッキーをねだりましょう。


 いつもスライムがねだっているのです。


 わたくしがねだっても罰にはならないですよね。


 なんだか今は、とてもあのチョコレートの甘みと、体を包む暖かさが恋しいのです。

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[一言] 百合が広がる予感!(早計)
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