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数は力ですよ

 どうも、コゼットですよ。


 先生から許可を得たので、スライムを洞窟へとけしかけるところです。


「さあ、行きなさい」


 わたくしの指示により、分裂した土スライムたちがゴブリンの巣と仮定した洞窟へと殺到していきます。


 スライムたちは、<移動>スキルが強化された事により、中々な速度でするすると滑り進んでいきます。


 音も無く、ただただその進路にある全てを貪り喰らう濁流となったのです。


 嗚呼。


 数は力。力の前では全てが無意味。


 まさに、今のスライムはその象徴と言えるのではないでしょうか。


 中にはやはり、ゴブリンが大量におりました。


 慌てふためいている様子。


 スライムの様子を知る事ができるのはとても便利ですね。手に取るように彼らの挙動がわかります。


 慌てふためき、逃げ、立ち向かい、叫び、目を見開き。


 その最後に何を思うのでしょう。


 ですが、死んでくださいませ。


 母も、父も、子も、赤ん坊も。


 一切合切の区別なく死んでくださいませ。


 ゴブリンには死を。


 恨むならそう教育してきた我が家を、そしてこの領に生まれたご自分たちを呪い下さいませ。


 ここで放置すれば、きっと次の被害は壁を持たぬ難民達へと及ぶでしょう。


 その短剣はどちらから?


 そのお肉はなんのお肉?


 ああ、ああ。そうですか。


 学んだ通り、わたくしたちは相容れないのでありましょう。


 で、あれば。


 わたくし、コゼット・イスフィールドはあなた方の存在を許してはいけないのです。


 そして。


 それだけではなく。


 これでスライムがまた強くなると、喜ぶわたくしもまた、呪い下さいませ。


 あなた方にはそれだけが許される。


 いくらかスライムたちにゴブリンを飲み込ませて理解しました。


 魔物たちは美味い。


 スライムたちがわたくしに囁き、歓喜するのです。


 さらに力を、さらに獲物を。


 これまで隅へ、隅へと。物音を立てず力を持たず、ただただ数が増える事に特化していった小さな存在が訴えるのです。


 力を持った一つの意思となり、有象無象を飲み込まんと。


 森に来てから、正確にはゴブリンを吸収してから、スライムたちの調子がすこぶる良いです。


 まるで足りない何かを補ったかのように元気です。


 良いことです。


 当初、万を揃えたスライムでどうしろと、と考えておりましたが、違いましたね。


 シンプルに、数はやはり力なのです。その数で、そも重さでもって容易くゴブリン達を押しつぶしていきます。


 さぁお食べ。


 わたくしに与えられた職能が<スライム使い>なのだから、あなた方の有り様を、わたくしは是としましょう。



 変化が訪れたのは、ちょっとした広場へと入り込んだ時でした。


 唐突にスライムが焼かれ、はじけます。


 面白いようにぽぽぽんと。今ので100匹分くらい倒されました。


 弱すぎませんか?


 まあ、良いのですが。


 いたのはゴブリンの司祭のような魔物です。確かゴブリンシャーマン。魔法を使うのだとか。


 で、あれば、火の魔法ですか。


 土スライムは堅く、ゴブリン程度であればどうにもできないのは確認済でしたが、魔法には耐性が皆無なようです。


 ――今もファイヤーボールでかなりの数が焼かれました。焼かれた、というか弾けた感じですが。


 まあ、だからどうということはないのですが。


 行って下さいませ。


 ひたすらにスライム達を突撃させます。魔法に弱かろうが、永遠に魔法は放てないだろうし、次に放つまで猶予がありますからね。


 だてに魔法の練習はしてません。


 ……わたくしが魔法を扱えるのはいつになるんですかね。まあ諦めませんが。


 魔法を放ち終えた格好で静止するゴブリンシャーマンへと、スライム達が殺到します。


 が、届きません。


 間に入った存在が、棍棒を大ぶりしてスライム達を弾き飛ばしたのです。


 そこに居たのは普通のゴブリンよりも一回り大きなゴブリンです。


 ふむ。


 風圧だけでスライム達が吹き飛ぶとは。なんという力。それともそういうスキルですか? まあ良いです。


 こちらが吹き飛ばされた隙に、シャーマンの方が準備完了したようで、盛大に焼かれます。


 近づいては払われ、焼かれ、また近づこうとしては払われ……。


 らちがあきませんねぇ。


 とはいえ、他にやれることもないのですが。


 補填できるところまでやりますか。先生もいますし、無理だった場合は頼りましょう。


 緑も投入します。どうせ倒されるのなら、戦闘で有用な土を温存して、緑を投入しましょう。


 ストックも要らないです。数ですよ数。


 ほら、行くのですよ。


 さぁ、どこまで耐えられますかね。



 そんなこんなで、ゴブリンの殲滅があらかた完了しましたよ。


 とはいえ、また放っておくとどこからともなくゴブリンは湧くと言います。また元通りになるかもしれませんね。


 何体かスライムを残しておきますか。


 さて、減ったスライムの補填ですが……。どうやら今回倒した、最後のゴブリンたち。やはり特別な個体であったらしく、スライム達が凄い勢いで分裂して、元の数を簡単に超えたようです。


 ふむ。流石に気になってくる所ですね。


「いま数はいくつくらいですかね? そうですか、たくさんですか」


 あとでチヨ様に聞きましょう。


 そろそろ喋ってみてはどうでしょう? それくらいできるのでしょう? 面倒くさい、と。そうですか。


 白スライムをむにょむにょと揉みほぐしつつ、今回の洞窟攻略をおさらいします。


 完全な力押し。他に方法もあったかもしれませんが……。まあ、今のわたくしの力量だとこんなものでしょう。


「終わりました」


 先生に報告します。


「そうですか」


「はい」


「……」


「……」


 なんだか、「それだけか?」みたいな視線を感じますが、特に他に言うことはありません。


 スライムを押し込んだだけですし……。


「あ、魔法を使う方と大きな方がいらっしゃいましたよ」


「シャーマンとホブか。倒せましたか?」


「ええ、疲れるまでスライムたちをけしかけました」


「……私はゴブリンたちに同情するよ」


 まあ、そうでしょうね。わたくしも同感です。


「まだ何かあるかもしれないので、スライムたちに探索させようと思いますが?」


「ふむ、食料庫らしきものはみつけましたか?」


「いいえ?」


「お嬢様はスライムの見ている物を見ることができますか?」


「ええ」


 何が言いたいんですかね。


「だとすると、あまり気分の良いものではありません。私が変わった方が良いのでは?」


 ――ああ。


「いいえ、問題ありません。なんとなく想像はついています。それに、最悪家を出る覚悟もしております。良い機会でしょう」


「御意に」


 本当に気分が悪いですね。


 今の世の中、人が何人か消えても誰も気づかないものです。


 つまり、そういうことです。


 ゴブリンが憎まれる理由が、ここに来て理解できましたね。


 半端に人に似ているから、こうも嫌悪感を与えてくるのでしょう。



 ――おや。


 その食料庫に来て、お掃除させていると、抵抗がありました。


 すわゴブリンが隠れているのか、と思いましたがそうではない様子。


 これは、人の子供ですか。


 ふふ、わたくしも子供なのに。どこかおかしいですね。いえ、今”見ている”状況に少なからず動揺していますか。


 少し深呼吸をしましょう。


「どうやら生存者がいたようです」


「ああ、いる可能性もあるでしょうな」


 ええ、そうでしょうとも。その方が”保ち”ますからね。


 本当に気分が悪い。


「助けようと思いますが」


 大事な領民かもしれませんからね。


「お嬢様のなさりたいように」


「では、入ります」


「私が先導しましょう」


 ええ、よろしくお願いしますね。

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― 新着の感想 ―
[一言] 戦いは数だよ、兄貴 圧倒的ではないか、わが軍は
[良い点] 戦いは数だよアニ・・・お嬢!
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