絡まれましたよ
さて、お外に出かけるわけですが、そのために必要な事があります。
「冒険者登録をしたいのですが」
「はい、それではこちらに名前を記入してください」
冒険者ギルドへの登録です。これで、外で活動していても自由民としての身分を証明できます。していないと面倒な説明をして回る必要が出てきます。
冒険者ギルドは初めて来ましたが、いつもスライム回収でお世話になっております。今後もよろしくお願いいたします。
なかなかに広く、快適ですね。食事処が併設されていて、朝からお酒を飲む方もいらっしゃいます。
壁には依頼書も張り出されております。後で見ましょう。
名前……なんにしましょうかね。言われてわたくしだと反応できる名前が良いですね。
ふむ。
「『ホワイト』様ですね」
「はい、よろしくおねがいします」
白の仮面をつけてますからそのままホワイトです。ちなみに、声はスライムによって多少低くさせています。少年くらいには聞こえるでしょう。
大量の経験値で加減ができるようになり、違和感が少なくなっています。処理場の存在はありがたいですねぇ。
今はお供が先生だけですからね。いたずらに目立つ必要もありません。
「説明は必要ですか?」
受付の方がにこやかに聞いてきます。中々に丁寧な対応ですね。とても良いと思います。
先生を見ますが、首を横にふっております。
「共がいるので問題ありません」
熱心に冒険者として活動する気はありませんからね。基本的に先生と活動すると思いますし。
「それでは、こちらに血を一滴垂らしてください」
言われた通り、血を垂らして登録終了。鉄のネックレスを受け取って終わりです。とてもスムーズです。
遠くからチラチラ見られていますが、まあ新人を気にしている程度ですか。
張り出された依頼を見てみます。
街の掃除から、素材採取、輸送護衛、森の魔物掃除、手紙の配達……。多岐に渡りますね。
剥がされている様子のスペースも結構ありますから、冒険者としてはもう遅い時間というところですか。
「それではいきましょう」
「依頼は受けなくても?」
先生が依頼書を指差しています。
正直なところ、わたくしはあまり冒険者のお仕事にそこまで興味はありません。
どちらかというと冒険者を使う側ですしね。
「気が向けば受けてみましょう」
◇
街外へと向けて、てくてくと歩いていきます。見たことない景色ばかりで、興味がそそられますね。
あの屋台などからは、いい香りがしてきます。帰りに余裕があれば買ってみましょう。
「おい」
あのお店はなんでしょうね? 雑貨屋といったところですかね。
「そこのお前だよお前」
今度、武具屋なんてのも寄ってみたいですね。
「おいガキ」
突然掴まれそうになったので、さっと避けます。
なんですかいきなり。
「とと」
相手はつんのめっております。
「なにか御用ですか」
見れば、なんとも粗暴な格好をした方がおりました。服など肩から破れております。
もう少し、きちんとした格好をされたほうがよろしいのではないでしょうか……? 体格はなかなかよろしいのに、もったいない。
側を見ると、いつの間にか先生が消えておりました。
これは、わたくしで対応しろという事ですか。
ちょっと、護衛役はどうしたんですか。姫がお困りですよ。
「ちょっとツラかせや」
「ツラ……?」
「あー、こっちこいや」
首を傾げると、わかりやすく言い直してくれます。意外と親切なんですかね。
ふむ、どうなるのか少し興味ありますし、見てみましょうか。
◇
路地に入ると、すぐに先の彼と同じような方々に取り囲まれます。
「つまり、スライムや薬草を持ってきて渡せと」
「ああ、その分街では助けてやるからよー。冒険者は助けあいだぁ」
「何を助けるっていうんだよ」
「ちげえねぇ」
何が面白いのかわかりませんが、なんとも品のない笑い方。
そしてなんとなくわかりました。御しやすそうな相手を見つけてその成果を奪っていたわけですか。
だんだん不愉快になってきました。
処しますよ。
「嫌ですよ」
「あん?」
「人にものを頼む前にお風呂に入りなさいな。ゴミ処理場より臭いです」
そもそもゴミ処理場はお兄様も足を運びますからね、名前と違ってかなり清潔です。匂いもスライムによってかなり抑えられております。
「むしろ処理場にいきなさい。仕事もありますし風呂もありますよ」
ここで気づきました。彼らはきっとシンプルにお金がないのでしょう。
風呂に入れぬほど困窮しているから、わたくしみたいな小さな子どもに成果を強請るのでしょう。
「それならそうと言ってくださいな。」
「てめっ」
何故か激昂されましたので、土スライムを棒にして殴りつけます。
その汚いお顔をボコビコにしてさしあげますわ。
「ガッ」
「な!? ガハッ」
周りの方々ももれなく叩いておきます。
なんとまあ。
弱い。
わたくしの体重では中々威力が乗りませんが、それでもまあ、頭を叩けばある程度のダメージはありましょう。
「ぐっ糞。俺らをマイノリーザファミ」
「知りませんねぇ」
「ガッ」
「てめぇ……ゴッ」
「ガハッ」
「グゥッ」
動こうとするたびに行動に支障がなさそうな場所をひたすら殴ります。
打力弱いので、わたくし。
ひたすら殴るしかありません。
「も、もうやめ……」
しばらくそうしていたら、ようやく降参してくれたようです。
「ふむ。もう、こういうことはしないようにしてくださいませ。あと、知り合いがいるなら、わたくしにちょっかいかけるなとも。いちいち相手してられません」
「わ、ゔぁかった……」
「あと、これをつけて下さいな。悪いことしたら首がしまる素敵な首輪です」
人数分の土スライム首輪を出して放り投げます。
「ゴハッ」
背後に居た、逃げようとした男を殴りつけます。衣擦れの音が大きいのですよ。
というかここに来て逃げる意思を見せますか。やはり攻撃力が足りませんね。
ふむ、スライム。
棒に棘が生えてきます。鋭くはありませんが、まあ痛そうではあります。
「次はこれで叩きます」
「わ、わかった! つける! つける!!」
「そうですか。どれくらい痛いか気になったのですが。試しに殴られてみませんか」
「やめてくれ!! もうつけた!! つけたから!!!!」
地面に四肢をついて首を差し出す格好をするリーダーらしき男。
「その首輪ですが、悪いことをするとこんな感じで締まります」
「グゲェ!!」
途端に首を押さえてうずくまる男。
しばらくバタついていますが、だんだんと動きが弱くなってきます。
ふむ、人はどの程度、生きてられるのか気になってきましたね。
加減を覚えるのは大切ですからね。
「も、もうやめてくだせぇ!! わかりましたから!!!」
「――そうですか。それは何よりです」
周りの方たちにも理解いただけたようなので、首輪を緩めます。
「それでは、わたくしは行きますので。人から奪うのではなく、与えることに残りの人生に時間をかけなさい」
「は、ハイィ!!!」
ふむ、良い返事ですね。
「もし悪さをしたら、あなたの周りの人間にその首輪をつけにいきますからね。お付き合いしている方やお子さん、親がいるなら、いっそう励んで下さい」
ヒュッと息を呑む男たち。
見ていますからね……。




