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役にたちますね

「なんだよこれは」


「しっ」


 憤る男を隣の者がたしなめる。


 彼らは隣の領から逃げてきた難民だ。あまりにも厳しい締め上げに耐えきれなくなり、世間では魔窟だとか領に住むのは野蛮人ばかりだとか、娯楽は殺し合いしかないだとか、悪評が留まるところを知らないこのイスフィールド領にやってきた。


 他の領に行く手もあったが、他の領にも難民は行っていると考え、一か八かの選択だ。


 どんな地獄も、元いたザイフリート領よりはましであると考えていた。実際来てみれば、そんなに非常識な事はなく、最低限の衣食住はなんとか確保できた。


 しかし、その先は暗い。古い防壁で守られた街に入ることは制限され、金を手にする機会はなく、なんとか薬草やスライム集めでその日限りの銀を稼ぐ日々。


 それだって満足なものではない。


 配給はあるがそれも必要最低限。飢えないというだけ。


 狩りをしようにも、魔の森が近いこの領では、ちょっとした森に入るにも危険が伴う。知らない土地の森ほど危険なものはない。


 同情の目で見られようとも、具体的な何かがされるわけではなく、だらだらと不安な日々が続く。


 ゆるやかに滅びへ向かって行くような漠然とした焦燥感。


 冒頭の男だけではなく、誰も彼もが現状に不安と、そして自分たちをこんな境遇に追いやり、今もまた人生を左右しかねない上位存在、つまり貴族への憤りを感じていた。


 自分たちが何をしたのかと。ただ生活をしていただけなのにと。


 そんな感情は今や爆発寸前であった。


「しかしよ。ようやく街に入れたと思ったらこれかよ」


 そして今日である。


「俺たちは奴隷じゃねぇ」


 仕事ができたと伝えられ、ようやく街に入れたと思ったら、案内されたのはゴミの山である。ここには思いつく限りのゴミが集められている。


 不思議な事に不潔さはあまり感じないが、ゴミはゴミ。


 木材、石材のような瓦礫、そして生ゴミ。悪臭を放つものがないのが救いか。


 周りを守り、そして彼らを監視する街の衛兵たちは、これを処理するのがお前たちの仕事であると言う。


 なんだそれは、だ。


 ほかの領から逃げてきたとはいえ、同じ王国の民である。それをこのような扱いとは。


「そうだな、お前たちは奴隷ではない。だが、この領民でもまたない」


 と、そこに若い声がする。


 見れば、良い服をした子供が彼らを見ていた。整った顔に銀の髪。絵画から抜け出したようだ、と表現できるような男子である。背景にゴミの山が築かれようとも、それがまた何かの風刺であると感じさせるほど絵になる。


 側には着古したローブを目深く着込んだ子供がおり、これまたその男子を美しく際立たせる。


 この子供を一言で表すなら、そう貴族。


「で、あるからこそ――」


「ふざけんじゃねぇ!!」


 難民の中の特に短気な男が飛び出した。


 これまでの鬱屈した感情、不安、憤り。そんな者の対象が目の前にいて、頭に血が上り気がついたら体が動いていた。


「お前らがいるから俺たちは――」


 虚をついたよう行動であるが、流石に衛兵はもとより、護衛には領の騎士もいる。その対応は流石といった所。男に槍が向けられ今にも突かれようとした。

 

 その瞬間。


「ガッ」

 

 この場の誰もが男が串刺しにされる所を想像し、緊張が走った。しかし、男は死ななかった。


 突然地面に転がったのだ。見れば両足を縛るように枷がされている。


 貴族の男子の横に立つローブの子供が腕を前に出しているところから、彼が何かをやったのだろうと皆が思った。


「ヒッ」


 小さな体躯で、しかも顔を隠すようにローブを深く被っていたのでわからなかったが、今ので少しはだけ、その顔が見える。


 真っ白な仮面だ。が、その表面に黒い斑点が浮き上がり、模様を変えてまた沈む。何かを形作るようで、何の意味も無いようにも思える。


 生きているようで、死んでもいるよう。


 あまりにも異質、あまりにも不気味。


 周りの兵たちは決して彼を見ない。彼が何かをしたのは明らかであるのに。


 そこにいるようで、いないように扱う。


 その異質さ。


 そのローブの彼はといえば、周りの空気を意に介さず転がった男にてくてくと歩いて行く。


 その仕草は子供そのもの。一生懸命に手足を動かす様はかわいらしいとも言えるが、それがまた不気味さに拍車をかけるのが皮肉である。


 転がった男だけがその仮面を間近から見、そしてその奥にある瞳の色を見た。


 青。


 どこまでも青。


 あまりにも無機質で、感情の色を伺うことのできないほどひどく冷たく、無。


「死ヌノハ話ヲ聞イテカラデモ、遅クハナイト思ウガ」


 その声はひどく甲高く、抑揚も無く、どんな感情も乗っていない。


 気を抜くとだたの音としか認識できないほど。


 対する男は、触れてはならぬ物に触れた気がした。それが自分を見ている恐怖。致命的な何かを動かしてしまった後悔。


「次ハナイ」


 そしてローブの彼は、そんな男の感情も全て無視するように、流れるような動きで縛りを外し、それを裾に入れて元いた場所に戻っていく。


 その途中、衛兵の槍が震えているのに気づいた彼は、ローブを深く被り直し、貴族の子供に合図をした。


 それに返事するでもなく、目を合わせるわけでもなく、貴族の子供が口を開く。まるで今の一時が無かったかのように。


「それでは説明する――」



 いやあ、焦りましたね。


 ごきげんよう、コゼットですよ。


 まさか突然暴れ出すなんて。びっくりですよね。いやですよ、目の前で人死になんて。


 それに大事な男手ですよ。絶対にダメですよ。


 もったいない。


 今はお兄様が、改めて難民に仕事の説明をしていますね。その話を聞いて不満なら街外へと帰って良いとも話していますから、安心でしょう。……、何故か酷く緊張している様子ですが。まあ、目の前で人が死にそうでしたからね。安心はできませんか。


 時間が解決してくれるでしょう。事実、こちらは難民の自由意志をある程度尊重しているつもりですからね。


 数日働いてみれば良い職場に……なると良いですね。向き不向きありますし。


 にしても、皆、簡単に人を殺しすぎますね。殺すのは魔物だけで十分でしょう。


 今回の件は、きっと難民への事前説明が足りてなかった結果なのでしょうねぇ。難民も結構な数がおりますし、希望者だけで十分なはずだったのに、ここにいるのは体力有りそうな男ばかり。


 それで連れてこられたのがゴミ処理場だと、怒って当然ですね。


 まぁ、今回はかなり急いで物事が進んでいますからね、こういうトラブルもありますか。


 チヨ様の防犯グッズが早速役に立ってくれましたね。


 仮面は思い切って常時模様が動くようにしました。結構かわいくできたと自負しております。評判は……まぁまぁですね!


 声はチョーカー型にしたスライムですね。小声で喋った言葉をスライムが発してくれます。


 ローブの中にも色々と隠しておりますよ。内容は淑女の秘密だということで。


 ちなみにこのローブは格闘術の訓練でひたすら酷使している物ですよ。頑丈さだけを追求したよい服です。跳んだり跳ねたりにはあまり向きませんが、体全体を保護しておりますので怪我をしにくいです。


 そして枷ですが……これは腕輪に偽装した土スライムです。スライム自身に投擲能力が無いなら、私が投げてしまえという事ですね。相手に取り付いて動きを縛ります。シンプルに便利です。


 スライムの造形能力は未だに低いですが、輪とか仮面とかくらいにならなれます。ナイフとか装飾とかはまだまだ今後の課題ですね。


 本当は格闘術の先生への隠し球だったのですが。やむを得ませんでしたね。今日も護衛としてついてきているのでバッチリ見られました。不意はつけそうにないですね。


 まあ、あのまま放置していたら、男の人が死にましたからね。その後の混乱を収めるのも手間がかかりますし、これから働く難民の士気をいたずらに下げるのもよくありません。


 そしてその男の人ですが、本来であれば貴族に害意を見せるのは処されても文句は言えませんが、今回は恐らく不問でしょうね。今の一時がそのまま無かったことになります。


 お兄様がわたくしを無視したのが証拠ですね。わたくしの意を汲んでくださったのでしょう。さすがはお兄様。サスオニ。ありがたいことです。


 ちなみに今のわたくしは「コゼット」ではありません。どこからか来たスライムに詳しい先生という扱いです。自分で言ってて怪しさしかないですね!!

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[気になる点] >悪評は轟くところを知らない これだと『悪評は轟いていない』ことになります。 轟くを使いたいなら『悪評が轟き渡るこの~』、知らないを使いたいなら『悪評の止(留)まるところを知らない…
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