増えました
「さて、スライムが増える話だったけれど、ストックにすると分裂に必要な栄養が全て経験値になるみたい」
「……なるほど」
「野良でいる分には、個体が強くなるよりも、増える方に傾いているわけだね。なるほど、面白い生態だねぇ」
「セイゾンセンリャク」
まさにそういう事ですね。
弱いからこそ全滅しないように繁殖力……分裂力が高いということですか。
と、うにょうにょとスライムがこちらに体を傾けます。
「アルジ」
「なんです」
スライムから話しかけられるのは初めてかもしれませんね。
「ゼンブ、キュウシュウ、ニシテ」
「ふむ、<吸収>ですか。経験値を<吸収>に回せというこいとですね。足りないですか?」
「マニアワナイ」
「あー、これかな」
<吸収>
消化した対象が持つスキルを確率で習得する。消化力にも影響する。
チヨ様が光る文字を出します。<吸収>の説明ですね。
「スキルの習得を狙っているのですか?」
「ワンチャンイケル」
「それはいけない人が良く使う言葉だねぇ」
スライムをつつくチヨ様。
「汚物処理で全滅した件ですか。<吸収>を上げれば解決できるんですかね」
「カズウチャアタル」
「まぁ、今後増やせる手段もできたし、良いんじゃないかな?」
無駄にはなりませんからね。良いと思います。
「とはいえ今日は<ストック>していませんからね。今の経験値ではレベルあげられませんね。今後の方針ということで」
説明を聞く限り、今後も数を増やす方向に傾けるなら、経験値が貯まる効率は少し悪くなるでしょう。
ストックと経験値、どちらが良いかですが……。ストックにするとスキル全体に修正がつきますし、今のところスライム自体の数が足りませんからね。
しばらくは増える方向が良いですかね。
「ヨキニハカラヘ」
どこか偉そうに体を反らせるスライム。
「うむ。クッキーをやろう」
「アリガタキシアワセ!!!」
クッキーを貰ったとたんにこれですよ。
「秒で墜ちたね・・・」
まぁ、チヨ様のクッキーですからね。しかたないとは思いますが。
◇
「おお、3つもありますね」
いつもの場所にいくと、なんと樽が3つもありました。ギルドへの依頼の成果でしょう。嬉しいですね。
中を覗くと茶色のスライムが二匹いましたよ。
色的に土ですかね。後で詳細を確認しましょう。
さくっと<ストック>してもらい、1日放置したスライムたちへと向かいます。
「まぁ、増えましたねぇ」
なんとまぁ、ざっと30匹近くいます。
2体ずつ増えた感じですかね。
素晴らしい。
今日の分の雑草山がもうなくなっていますよ。
一旦、1つになってもらいます。
「それでは行きますよ」
厩舎へ移動します。
それぞれの場所から一カ所に草や生ゴミを集めて貰うのは大変なので、わたくしが移動することにしたのです。
厩舎の分は昨日掃除したのでほどほどですね。5体くらいですか。
で、問題の生ゴミですが、まぁ大量です。これは昨日の分もありますね?
20匹ほどですかね。行って貰います。
そして、残りを庭師へお願いします。
頑張ってくるのですよ……。
白はわたくしと一緒です。
ぐるぐる動き回らせるだけというのも飽き……はしないでしょうが、連れ歩きながら何か考えることにします。
むにむにした感触を楽しみながら、楽しい訓練へと向かいましょう。
◇
「スライムですな」
「そうですよ」
格闘術の先生に抱え上げて見せます。
「ふむ。どうしてこちらへ?」
「特に理由はありません。利用価値が無いか探している最中で、一緒に居た方がよろしいかなと」
「わかりました。ところで、昨日から今まで、無事に暗器は隠し通せたようですな」
おお、中々に骨が折れましたが、どうやら成功したようですね。
数を少なくしたのが功を奏しましたか。
針と糸自体も隠し持たなくてはいけないのが、地味に難しかったです。
「次はもう少し隠す数を増やして下さいませ」
ニッコリ笑われます。
嫌です。
すまし顔で答えとします。
◇
へう。
訓練が始まった途端に暗器を使い切らされて、ほどよく扱かれました。
嫌ならもっと武器を隠し持ってこいということですね。
わかりました。
やってやります。
ゲームみたいなものです。
どれだけ訓練中も暗器を温存する事を考えつつ、消費量を予測しその分だけ武器を持ち込むわけですね。
「ところでスライムですが」
「……はい」
「疲れを顔に出さないように。弱みになりますゆえ」
「はい」
「体の中に武器を持てたりしますか?」
「……おそらくできるかと」
てい、とナイフを白スライムに突き刺します。
抵抗なく取り込まれるナイフ。
「ふむ。中身が見えますな。不透明には?」
今は白い体の中に浮いているのが見える状態ですね。
「どうでしょう。できます?」
白さがまして不透明になりました。お前、こんなことができたのですね。
「よろしいですな。中々良い隠し場所です。誰も弱いとされるスライムにナイフが隠れていると思いますまい」
「確かに」
「意外な場所にあるから暗器なのです。女子供が武器を持っているはずがない、靴から刃が出るはずがない、髪に針が隠されているわけがない……そこに油断が生まれて、機会を作るのです」
なんの機会かは聞かないでおきます。
「スライムがナイフを扱うことはできますか?」
「持つくらいならできると思いますよ」
スライムの頭からナイフが生えます。
シュールですね。
「投げてみて下さい」
ぽろん。
「……なるほど」
先生は頷いています。
なにがなるほどなんですかね。
「無駄かもしれませんが、練習しないよりはましでしょう。お嬢様が訓練している間、スライムは体の中からナイフを飛ばす練習をしなさい」
「わかりました。言うとおりにしてください」
「ピイェイ」
そういうことになりました。
◇
驚いたことに、スライムはナイフを飛ばせるようになりました。
とはいえ、「飛ばせる」だけですが。
勢いもまだありませんし、飛距離にしてスライム4体分程度ですか。
頭が悪いわけではないですからね。どういう風に体を動かせば飛ぶかを試行錯誤したのでしょう。
もし繰り返してスキルが生じれば、経験値でレベルをあげる事もできますからね。
スライム自体に攻撃手段が増えるのは歓迎ですね。頑張って貰いましょう。
明日は互いに投擲させるために、ストックを1つは持たせるようにしましょう。
そして魔法はまだです。
えいえい頑張ってるつもりなんですがね。まぁ、まだまだ焦る時でもありません。