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ごはんですよ

「流石に凄いですね……」


 雑草に加え、厩舎からのゴミで軽く山のようになっていますね。一気に掃除でもしたんですかね。これは今日中にできるんですかね?


 あとは生ゴミが桶1つ分と。注文通りですね。


 これだけあれば雑草玉の数も十分できるでしょう。余った分は全て<吸収>行きですね。


「では行ってください」


 わらわらとスライム達がそれぞれに向かって行きます。あとはよしなにやってくれるでしょう。


 ちなみに今日の捕獲スライムは7匹でした。このあたりのスライムを、仕事の合間に拾うとしてもこの程度という事でしょう。ギルドから補充が来るのはもう少し後でしょうね。


「ふむ、あなたたちが汚物組というわけですね」


 5匹の緑スライムが足下に留まっています。


「では、このスライムを連れていって下さいね」


「へぇ」


 桶に入れて庭師に連れていって貰います。


 流石にわたくしが直接行くのは醜聞が悪すぎるということでこうなりました。


 ゴミ処理をしている時点で色々と手遅れだと思うのですけれども。


 まぁ、わたくしが直接手を動かしていないので、貴族の体は保っているとは言えますね。ええ。


 貴族は体面が大事ですからね。


 がんばってくるのですよ~。



 さて、今日は裁縫をしています。


 刺繍ではありませんよ。裁縫ですよ。


 戦闘訓練の先生よりのお教えです。


「いついかなる危険があるかもわかりませんからな。武器の隠し方には熟す必要があるでしょう」


 とのことです。


 わたくしは女でしかも子供で、さらに貴族の令嬢ですからね。武装ができない事も多いので、服に武器を隠すということです。


 つまり暗器です。


 先生が体中から10本以上のナイフを出して見せた時は、びっくりするよりも、もはや呆れたほどです。


 話に聞く奇術師のごとく、です。


 黙々と刃を潰した柄の無いナイフを使い潰しても良いドレスに縫い付けます。今は練習ですが、実際も刃を潰したナイフを使うそうです。誤って怪我をしないようにだとか。


 ……ここ最近の鍛錬というか訓練内容に、疑問を思わなくもありません。


 わたくし、何をしているのでしょうね?


 最近、割と辛いなと思う訓練が続いていたりするのですけれどね。


 体力作りなどは、中々に苛烈と言って過言では無い勢いです。丸太を抱えて走るのにどんな意味が?


 あとはぽんぽん投げられたりとか、木刀を腕輪で防ぐ訓練とか。


「後ほど、武器の出し入れの練習もいたしましょう」


「わかりました」


 まぁ、必要というのならば、必要なのでしょう。


 幼いわたくしは世間知らずも良いところ。外はかように危険だと言うことなのでしょう。そう思う事にします。


 実際、何かあってからでは遅いですからね。


 危機に際して素手で対処しなければならないとなると、ぞっとしませんからね……。


 その後は、体に武器を仕込んだ状態で日常の行動をしたり、軽い運動をしたりと、暗器を持った状態に慣れる事に努めました。


◆◆◆


 ところ変わって、イスフィールド家の執務室。


 当主であるエドガーは報告書を読んでいる。


「コゼットは暗器の習得に入ったか」


「はい。現在は暗器の隠し方や慣しだそうです」


「順調だな」


「十分に」


 従者アントンの言葉にエドガーは満足そうに頷く。


「痛い思いができる内に、ある程度の痛みを知っておかねばな」


 エドガーの教育方針はとてもシンプルである。今後危険な場所に行く可能性があるのならば、目の届く内にその危険以上の困難な状況に対処できるようになれば良いだけである。


 その結果コゼットの学習スケジュールは過密を極め、並の子女なら泣き叫び、逃げ出しトラウマになること必至といった具合である。


 むろん、エドガーとて鬼ではない(鬼みたいな見た目だが)。コゼットを天使だと言ってはばからぬほどには愛情も注いでいる。


 この苛烈な訓練には、下手な実力をつけて増長しないようにと、一度自信を砕くという意味があるのだ。少しでも弱音でも吐けば、訓練の厳しさも弱める事ができる。


 そして、それを受けたコゼットといえば、粛々とこなしていく物だからさらに厳しくなる一方である。


 流石に本人も疑問を覚えているようではあるが。


「さようで。しかし、流石に厳しすぎるのでは」


 常識人アントンとしては、子供、それも女子がするにしては中々にハードな訓練の数々であると思うのだ。


「我とて思うところはある。しかし、急ぐに越したこともない。コゼットがこなせるなら特にな。コゼットに護衛を満足につけられぬ以上、コゼット自身に強くなってもらわねば」


 当主がそう言うのであれば、アントンとしてもそれ以上は何も言えない。


「子が優秀だと、親は困るものなのだな」


 エドガーが窓の外を見やる。


 口にはしないが、コゼットが諦めてくれたらそれを理由にして、内に入れて大事にするつもりなのであろうと、アントンは見抜いている。


 既にコゼットは、その職能の利用価値の片鱗を見せ始めている。熱心にスライムで色々と試しているようだ。


 非戦闘方向への才覚というのも良い。


 貴族の中で、戦う女というのは中々に風当たりが強いのが実情だ。強い女とは、それだけで扱いづらいものなのだ。理不尽に敵視される可能性もある。


 アントンとしては、コゼットを高く評価している。


 貴族の、しかも令嬢でありながらも人がいやがる雑務へと、忌避なく思考できるその性格は希有である。


 ゴミの問題は細事であると見なされがちだが、実際に金の流れに置き換えると馬鹿にはできない額が動く。放置すれば街にはあっという間に悪臭が立ちこめ、物が腐りやすく病気になりやすい事がわかっている。


 実際ゴミ処理をし始めてから、民の病や死亡率は下がっているのが実数として出ているのだ。無視はできない。


 そこへ目を向けることができるコゼットは、文官として向いている職能と性格だと評することができるだろう。


 エドガーとしても、もうこのまま安全な場所に囲いたいと思っているのであろう。それができる職能であることはわかりかけている。


 しかし、コゼットが見せた啖呵。それを試したのはエドガーであり、だからこそ前言を撤回することはできない。


 なんとも素直でない親である。


 それとも、これが親子というものなのだろうかとも思うアントンであった。


◆◆◆


「音をたててはいけませぬ」


「はい」


 どうも、コゼットです。


 暗器、難しいですね。


 実際に使うよりも、常に身につけてその存在自体を隠すことに、凄く神経を使います。


 少しの動作でカチャカチャと武器同士がこすれるのです。


 動きづらくはありませんが、暗器が暗器になっていないということです。


「大切なのは、自身の実力を常に把握しておくことであります」


「なるほど」


 つまり、今の私は過剰武装ということですね。


「とはいえ、訓練です。沢山失敗してくださいませ」


「精進します」


 武器をいくつか外して、試しに歩いてみます。


「まぁ、良いでしょう。今後は暗器を常に身につけ生活してくださいませ。暗器は見せぬから暗器でございますれば」


「常にですか?」


「ええ、暗器の存在を認めたら私まで報告するよう、通達済です。もちろん、私室でもメイドに見られてはいけませんよ。服を脱ぐ前に武器は隠して下さい」


 屋敷に何人の人間がいると思うのですかね。


「……通達されたらどうなりますか?」


 先生が爽やかな笑顔を見せてくれました。


 まぁ素敵。



 さて、スライム回収ですね。汚物の方は……全滅ですね。耐えられないようですね。


 スライムから「外れ」とがっかりした気配がします。当たりの時があるんですかね。


「また明日ですか。そうですか」


 まぁ本スライムがそう判断したなら従いましょう。


 さて合流させませしょう……と思ったところで、来ませんねスライム。


 桶のものも山のほうもその場に留まったままです。


「ふむ。どういう事です? ……? 準備中?」


 肯定と。


 少し考えてみます。


「増える準備ってことですか? 正解ですか。<ストック>すると増えない感じですか」


「ピィイエン」


 少し違うけれどまぁ、正解と。微妙なニュアンスはどうしても意思の疎通が難しいですね。もう少し<テイム>かスライムの力が増せばスムーズになる予感はしているのですが。


 焦っても仕方ありませんね。


 後で白い部屋で聞きますか。

 

 まぁ、今日の所はこれで終わりですね。緑たちは放置していくと周りに伝え、白だけ連れて帰ります。


 どうにかこうにかおトイレに乗じて武器を隠して、おやすみなさい。

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