肥料は難しそうです
1日の諸々が終わり、スライムを回収しようとしたところ、白スライムはぐるぐる回っていますが、緑スライムはじっとその場に留まっておりました。
「ふむ。動き回るよりも、そうしている方がいいのですか?」
なるほど、肯定ですか。
観察すると、日の光の下にいるようですね。
「<光合成>の最中ですか? そちらの方が効率が良いのですか? そうですか」
白が<光合成>をしていないのは、緑ほど効果的ではないということですかね。
スライムの色、というか種類によって得意な事があると。
そういう事がわかったところで、1体に戻ってもらってスライムたちの今日の仕事は終了です。
◇
アントンから借りた資料を読んでいますが、「手当たり次第」色々やろうとしたみたいですね。
■ 鉄の錆取り=余計な所も溶かして失敗。
■ 汚物処理=いつの間にか消えてた。
■ 雑草処理=農作物を食い荒らすだけだった。
散々ですね。まあ、基本的に制御不能ですからね。こうなりますか。
汚物処理で消えてたというのが少し気になりますね。失踪とかではなく消えてたですか。
で、さらに一つ、気になったものがあります。
■ 生ゴミ処理=大量にスライムが増えたため緊急焼却処分。
スライムが大量に増えるそうです。これは期待できるのではないでしょうか。
◇
「下水処理が発達していないことは予想していたけれど、まさか肥溜めや肥料が発達していないなんて。コゼットちゃんの屋敷や街は綺麗だったから油断してたよ。運んで外で捨ててただけなんて」
そして白い部屋です。
チヨ様がうなっています。
「肥料……、栄養剤ですか」
「どこから説明するかなぁ。ううん。畑で作物を育て続けていたら、だんだん収穫量が減ること知ってる?」
「はい。過去に<農家>の職能を得たイスフィールド家の当主がいて、その方が突き止め、土が疲労するということで一年から二年休ませてそこを牧草地として家畜を育てるようになりました」
「なるほど。連作障害については理解しているのね。職能、便利だなぁ。それでも肥料にまでは考えがいかないわけか」
そこで、チヨ様はこたつの上に触れるテレビ――タブレットと呼ぶそうです――を出し、色々な絵を見せながら説明をして下さいました。
土の中には栄養はもちろん、小さな生物が沢山おり、作物はそれらを消費して成長するそうです。
しかし、一種類だけを育てるとこの消費の比率が偏り、バランスが崩れて作物に必要な栄養素がなくなったり、悪さをする生物が増えるそうです。それが連作障害とのことです。
「で、牧草地にして休ませることでこのバランスが戻るわけだね。畜産をするということは、生き物の糞もそこに捨てられ、土に還って、生物由来の栄養素も入るってわけ。多分、休ませるのを無駄に思ってこの仕組みを導入したんだろうけれど、自分でこの方法を見つけたなら、その人は頭がいいね」
土は余すこと無く栄養としてそこに蓄えるのですね。
「そうなのですね。流石は飢餓から領民を救った英雄なだけありますね。ただ、問題がないわけではありません。魔の森付近では、畜産をしなくても森から肉が手に入るので、この方法が使えなく、休耕畑を完全に遊ばせている状況だと聞きます」
「なるほどねぇ。そこらへんはファンタジーあるあるかな。狩だけで肉が賄えるのか。私たちの世界では、もう少し進んでて、それぞれの野菜が消費する栄養を調べて、邪魔しあわない組み合わせでローテーションさせてたよ。麦、ジャガイモ、豆とかが有名だったかな」
「ずっと作物が育てられるのですね」
それは素晴らしい情報です。
「うん。ただ、ここでもそのローテーションができるかわからない。検証には長い時間がかかるね」
「そう都合良く成果が出るわけではありませんか」
わたくし自身で試す時間はなそうです。どこかのタイミングでお父様に提案してみるくらいしかできませんか。
「まあ、今困ってないなら冒険する必要も無いか。で、それに加えて土自体に栄養を与える方法として肥料があるわけだね。簡単に言うと生ゴミや糞を腐らせて作る栄養剤だね」
「腐らせるんですか。雑草玉だけでは足りませんか」
「足りない可能性が高いって感じかなぁ。発酵って言うんだけれどね。目に見えない生き物がゴミを土みたいに変えてくれるんだよ。チーズとかと一緒。ただ、きちんと洗わなかったら食中毒の原因になったはず。もしかしたらそれもあって街外へ捨ててるのか……?」
チヨ様が考え込んでいます。
「けれども牧草地はもちろん、森にも動物はいます。人間もそうです。それらが原因で野菜が毒になるという話は聞きませんが?」
「量と管理の問題だね。多少なら大地の処理能力で大丈夫だけれど、大量になると処理しきれないんだと思う。人の手でやって不十分な処理の肥料が出ると毒になる危険があるかも」
「難しいのですね」
「どうやらコゼットちゃんのご先祖さまはとても頭が良かったみたいだね。今のままだと怖くて試せないな。少なくとも衛生概念がしっかりしないと……」
しばらく唸っていましたが、結局のところ、保留ということになりました。
「ただ、スライムに処理して貰うのは試せるかも。見ていると緑のスライムは植物的な特性が強いみたいだから、緑スライムが有効かどうかの判断ができると思う。コゼットちゃんが貰った資料の『消えた』っていうのは、この毒で死んじゃった可能性があるけれど……」
「マカセテガッテン」
スライムがウニョウニョと屈伸していますね。本スライムはやる気のようなので、任せてみますか。
「で、スライム。この生ゴミで大量に増えたというのはどういう事でしょう」
今は、スライムの数を増やす手段を捕獲のみに頼っている状態です。手段が増えるなら歓迎すべきでしょう。
「ゴハン、イッパイ、カラダフヤセル」
「なるほど?」
生きる分以上の食料があれば、それを増える方に回すというわけですか。シンプルですね。
「雑草は玉にしていますからね。食事にした場合はスライム玉が作れないわけですか」
「ソノトーリ!」
「どれだけ増えるのか楽しみだね。今後は<ストック>のレベル上げも考えて行く必要がありそうだね」
「そうですね……。とりあえずは明日以降、雑草玉がある程度貯まったら、増える方に傾けましょうか。ご飯にするときは<吸収>を使うのですか?」
「ハイ! ゲンキデス!! クサ、タイヨウ、モットフエル」
当初よりもかなり重要度が高くなってきてますね、<吸収>。少し重視するようにしますか。で、緑スライムは<光合成>でさらに増えやすいと。種類によってやはり特徴があるようですね。
「白は増えにくいのですか?」
「フエナイ。ケイケンチニナル」
「あなたは増えないのですね。全て経験値行きですか」
「コノヨニシロハ、フタリモイラヌ」
頭扱いの白は少し特別という事ですかね?
あれ?
「あなただけが<ストック>持っていますよね。あなたが死ぬとどうなるのですか?」
全てのスライムが突然分裂するとかになると、確実にパニックになるのですが。
「シヌ、ナイ。アタラシイ、シロニナル」
「はーん、頭になるスライムが変わるだけなのね。リーダーや王様が変わるみたいに。つくづく面白生物だね、スライムくんは」
チヨ様が目を丸くしています。
「テレマスナァ」
「ある程度無茶ができるってわけですね」
スライムには個体の概念は無いので、半分資源か道具として考えるのが正解ですか。
もちろん使い潰すつもりはありませんけれども。
「クッキー1マイデテヲウトウ」
「安上がりだね。はい」
「ピィイエエエエエエイ!!」
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ピュア・スライム
経験値:0
<全が一><吸収 lv8><抽出 lv5><移動 lv3><ストック lv1><光合成 lv8>
修正値:3
ストック:14
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今日はこうなりました。確実に進歩していますね。