ストックは凄いです
「今日は飛んでたねぇ」
「流石にあそこまでポンポン飛ばされるとは思いませんでしたね」
いつものように、いつの間にかわたくしは白い部屋にいました。
「貴族令嬢って凄いんだね」
「外は危険が沢山あるということでしょう」
「言われてみるとそうかもね。魔物もいるしね」
チヨ様もうなずいています。
領地の魔物は、山や魔の森でなければ大体駆除されてはおりますが、道から外れるとどうしても人の目は少なくなりますからね。どこにでもいると考えた方が良いでしょう。
そして令嬢が馬車に乗っていて襲われるのは「テンプレ」だそうです。そういうものなのですね。
「基本的に護衛がいるものなのですが、それでも襲われますか?」
「理屈じゃないんだよ!! まぁ鍛えてて損はないよね。スライム集めるために色んな所にも行きたいでしょ」
「ええ、少なくとも魔の森には入りたいですね」
イスフィールド領の益になる事といえば、やはり魔の森への対処ですからね。
「だよね。学園に入るまでに成果出さないとだしね。まずは外に出る許可を貰うことが第一目標になるのかな」
本来であれば学園に入るまでにある程度の技術を修めれば良かったものが、期間を短縮する必要が出てきたわけですね。さらに求められる要求も上がりましたし。
「さて、我らがスライムくんですが、こうなりました」
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ピュア・スライム
経験値:21
<全が一><吸収 lv3><抽出 lv4><移動 lv2><ストック lv1><光合成 lv4>
修正値:2
ストック:6
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「なんか色々と変わっているのですが」
明らかに昨日と比べると大きな差異があります。ほぼほぼ全てのスキルのレベルが上がっていますね。吸収に関してはレベルが二つ分です。
「うんうん。できる女チヨちゃんは、スライムくんから色々と事前リサーチをしておりました」
「流石です」
「もっと褒めて!!!」
「は、はい。凄いです!! 憧れてしまいますね!!」
「ふふ~ん!! 何故こうなったのかというと、<ストック>のおかげです」
「<ストック>ですか。しかしあれは複数のスライムを1つにまとめるだけでは? 強化されるという説明はありましたが、これがその効果ですか? 経験値まで増えていますが」
さすがに雑草を処理して一気に経験値が20を超えるということはないと思うのですが。
「実はちょっと違う。文字通り1つになるみたい。<ストック>前と後で、コゼットちゃん何か変わった所なかった?」
「そういえば、テイムした時に少し目眩がしましたが。1つになるとそれがなくなりました」
「なるほどね、そんな感じか。どうやら、スライムは1つになると全てのスライムの経験が共有されるみたい。その分スキルのレベルも上がるみたいだね。<ストック>は特殊なスキルみたいで最初の子しか持ってなかったみたい」
「それは……すごいですね」
「さらに! スライムちゃん!」
「ピィエイ!!」
チヨ様の声にスライムが2つに分かれます。
一体は緑ですね。
「やっぱり、<ストック>の準備も完了したみたいだね。今は向こうでも分かれてるはずだよ」
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ウィード・スライム
経験値:0
<全が一><吸収 lv3><抽出 lv4><移動 lv2><光合成 lv4>
ストック:0
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「どう?」
「……え、これって」
白スライムはストックが1つ減ってるだけでそのまま。その1がこの緑スライムでしょう。
名前の通り、草スライムです。そして、そのスキルは白スライムとほぼ同じです。
「どうやらスライムは1つになると、全てのスライムのスキルが同じになるみたい。野生でレベルの高いスキルを持っている奴は少ないかもしれないけれど、弱いスライムでも集めれば即戦力だよ!!」
「ええ、これは凄いです」
今はまだその恩恵が小さいですが、今後育っていけば間違いなく強力な能力だと言えます。
「ナデナデシテェエエエエエ」
「うーん凄い凄い。クッキーをあげよう。それも二枚だ」
「ウォオオオォオオオオオ!!」
1つに戻ったスライムが、頭に二つのクッキーを刺して頭をぶんぶん振っています。
「分かれて頂いた方が良いのでは?」
「ゼイタクハミヲホロボス」
「そうですか」
殊勝なことですね。
「ちなみに、ついさっきまでこのストックの所に『準備中:6』って出てたんだよ。スライムの間に力量差があると、その差を埋めるために準備中になるみたい」
「なるほど。そうだったのですね」
「で、新たなスキルがこれ」
<光合成>
太陽光により魔力の回復速度があがる。また、土や草木由来の栄養素を成長に利用できるようになる。
「太陽の光を利用できるのですね」
「まんま植物の能力ね。草木にとってはメインとも言える能力だけれど、スライムにとっては補助的なスキルって言えるかなぁ」
「そうなのですか?」
「うん。植物は太陽の光を葉っぱに当てて、土からの栄養を自分で使えるように変換しているんだよ。このスキルもそれができるってわけ。これで雑草玉もスライムの成長に利用できるようになるね」
「それは嬉しいですね。ただ、畑の栄養剤にもなりそうなので、使うとしたらそちらに利用したいところです」
「そうだね。農作物の量はそのまま豊かさに繋がるからね。雑草玉がスライムにどれだけの効果があるかわからないし、余ったらとかでいいんじゃないかな。それに雑草をいくらかそのまま消化してるんでしょ? その分だけでも十分かも」
「確かにそうですね。スライムが強くなる手段が増えたと思えば良いですね」
「ウォオオ、チカラ!! チカラ!!」
「で、経験値ね。これもまた<ストック>の力ね」
「凄まじい量ですね」
経験値まで合計されるとは。これは一度テイムしたスライムは、基本的に<ストック>でまとめるのが良さそうですね。
「そうだねぇ、どうする?」
「そうですね……消化を早くしても、雑草を取り込んだ栄養を全て利用できないかもしれません。なので、<光合成>と<消化>に同量というのはどうでしょう」
「良いんじゃないかな。特に意見はないよ」
というわけでスライムに指示します。
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ピュア・スライム
経験値:1
<全が一><吸収 lv5><抽出 lv4><移動 lv2><ストック lv1><光合成 lv6>
修正値:2
ストック:6
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「1余りましたね」
「吸収分で9、光合成分で11で余り1ってところかな」
「ミナギル」
「うんうん。もっと強くなりたまへ。で、最後にこの『修正値』ってやつなんだけれど、これがスキルに良い影響を与えるみたい。これで1体分より強くなるってことだね」
「なるほど。今後どこまで増えるかわかりませんが、6体でこれだと期待できますね。1体分にわかれたスライムにもストックの表示がありましたが、スキルの<ストック>がありませんでした。これはどういうことなのでしょう」
「オヤブン、コブン」
「ふーむ。どうやら白い『ピュア』が親、分けると子、みたいな扱いみたい。頭と手足みたいな感覚かな」
「メノツケドコロガシャープ」
よくわかりませんが、正解ということなのでしょう。
「なるほど。『子』が<ストック>を使うことはできないのですね」
「ムリヨリノムリ」
「最初にどれくらい分けるのか、考える必要があるってことですね。気をつけなければ」
今後どう運用していくのかはわかりませんが、良く考えてスキルを使っていく必要があるでしょう。