まだ準備中みたいです
朝の鍛錬に戦闘訓練が追加されました。
どうやら、わたくしが貴族を捨てる覚悟を見せた事で、戦闘に関する優先度が1段階あがったようです。
わたくしは病気という扱いですし、今後の社交に使う時間が余る形ですからね。できるだけつぎ込もうという事なのでしょう。
とは言いましても、まだ型をなぞるお遊戯みたいなものです。
あとは受け身の練習としてポンポン投げられました。
1つ間違えると大けがだと思うのですが。
これでも一応、わたくし貴族令嬢でしてよ?
二階の高さに打ち上げられ、館内のメイドと目が合って手を振られる、というのは中々に希有な経験と言えるでしょう。
スライムで敵襲騒ぎになのに、わたくしが宙を浮くことについては特に問題にされないのですね。わたくし、複雑な気持ちです。
まぁ、なんとかなりました。休まず体を動かしていた甲斐があるというものですね。
◇
さて、気を取り直してスライムです。桶にはまぁまぁな量の雑草玉があります。
処理を指示して6時間程度、現在は処理を終えたようで、今はぐるぐる回っているだけですね。
どうやらストックの効果は現れている様子。処理速度は確実に上がっているでしょう。
ぐるぐるぐる。
この一生懸命さにどこか心が和みますね。
お前は呑気で良いですね。
私、結構酷いことされたんですよ? 少しくらい何か反応くれても良いんじゃないですかね?
……なんだか応援じみた気配を飛ばされました。
まあいいです。わたくしが自分で選んだことですし。
「まだ分裂はできませんか? そうですか」
結構な時間がかかりますね。どれくらいの時間、分裂の準備が整うまでに必要なのか。だいたいの目安だけでも知っておかねばなりません。
「疲れてませんか?」
特に疲労もない様子。やはり、スライムは疲れないようです。
あとは寝るかどうかですか。
それを確認するために、明日までずっと回り続けろという指示を出すというのも、あまりに酷というものでしょう。
まあ、聞けば良いという話かもしれませんが。
「あなたって寝るんですか?」
「??」
どうにも、こんな塩梅ですので。
まあこの感じだと「寝る」という考えがなくて、ずっと起きている可能性が高いと今は思っています。
どちらにせよ確認は必要ですが、夜にずりずり徘徊して回る物体は、どこであろうと不気味極まりないのでまた今度ですね。
「ふむ」
特に他にやらせたいこともありません。今日は夜までこのままで良いですか。
クッキーを刺します。
「ピィウエエエエエイ!!!」
ご機嫌ですね。
チヨ様より頂くクッキーよりは甘みも少なく、素朴な味といったようなものですが、特に問題もないようですね。良かった。
あちらで出されるものと同じ物を「こちら側」でも要求されたら、冗談ではなく家が破綻します。
あれは控えめにいって神の食べ物ですからね。あれほどのものは、王族であろうと口にしたことはないでしょう。……慣れてきてるのが怖いですが。
自分で自由に使えるお金があれば、再現しようと頑張るのもやぶさかではありません。が、今ではありませんね。
薬草玉の入った桶は庭師に管理を任せます。
自分で試すための物は、昨日の瓶の分で十分です。わたくしよりも、庭師や他の者たちのほうが上手く使い方を探してくれるでしょう。
わたくしがわかったのは、外のぷにぷにした殻は水に溶けることくらいですか。
あとは雑草玉にすると、雑草そのままよりもスライムが消化しやすいようです。
ただ、時間的な違いは大きくても、魔力的に余裕があったとしても、短時間での連続的な抽出はできないようです。
結局は雑草そのままの消化と、抽出して消化、平行して行うことになるでしょうね。
それに、今のところ雑草玉を消化することに対するメリットはあまり感じられません。スライムからも「消化できるけれどそれだけ」といった反応がありました。
そういえば、スライムに関して新たにわかったことがまだあります。
面白いことに、わたくしが気持ちよく吹っ飛ばされたり、朝食を食べたりと離れている間も、このスライムの存在に加え、その大まかな方向と位置を感じ続けておりました。
これが<テイム>の力なのか、<スライム使い>特有なものなのかはまだわかりません。が、便利です。
この”繋がり”がどれほど保たれるのかはわかりません。少なくとも屋敷の敷地内では問題なさそうです。
もう少しスライムとのコミュニケーションが円滑にできるようになれば、応用できる範囲が広がっていくでしょう。楽しみですね。
あとは講義をして夕食を食べ、少し休み、よき時間になったらスライムを回収。
スライムを抱えて就寝です。
結局、スライムの<ストック>は準備中のままでした。
どうやらもう少しのようですので、明日になれば効果が見れますかね。
それではおやすみなさい。