飛んだ!
朝、起きて鍛錬に行く前に畑へと向かいます。庭師たちも作業中で、現在進行形で抜かれた雑草の小山ができております。
「お嬢様、あれが言われた雑草です」
昨日話した庭師が汗を拭って教えてくれます。
「わかりました。毎日この量ですか?」
「時期によるとしか。それに毎日ではありやせん。何日かごとって感じでしょうか。それでも屋敷中から集められることになると思いますんで、結構な量になるかと」
「わかりました。スライムの処理能力にもよりますが、いけそうなら雑草以外のゴミもスライムで処理できるかもしれません」
「そいつは結構な事です。皆が喜ぶでしょう。あとあの玉ですが、どうやら栄養になるようで」
「一日でわかるものなのですか?」
あの雑草玉が栄養になるかどうかなど、畑に蒔いたとしてすぐに結果が出るとは思いません。
「へぇ、<農家>の職能の奴がおりまして。そいつが玉を溶かした水を舐めた所、いけそうだってんで」
「なるほど。勇気ありますね……」
「まぁ元がここにある雑草だってんなら、たいした毒もねぇんで」
「まあそうでしょうが。お腹を壊したら報告してください。念のため実験したいので、利用する畑を制限したいのですが」
「へぇ、いくつか場所を区切って試そうという話でさ」
「雑草玉なし、少なく使う、普通、大量、という感じでしょうか?」
「そうしようかと」
「文字が書ける者に記録させて下さい」
「わかりやした。あと、雑草山そばの樽にスライムが入ってます。何匹が捕まえてきたようで」
どうやら雑草玉のとりあえずの使い道が決まったようです。
庭師にお礼を言い、樽を覗きこみます。
6匹の緑のスライムが入ってます。一生懸命、樽を溶かしていた感じでしょうか。
樽の表面が綺麗になっています。なんとも悲しい消化能力。
わたくしが顔を出した瞬間に、ピタりと活動を停止しました。
ふむ。
「どうすればいいのですか? テイムすればいいのですか?」
抱えたスライムから肯定の雰囲気がありますね。
「わたくしの配下になってくださいますか?」
<全が一>の事もありますので、上下関係をハッキリさせる言葉をかけます。
スライムたちとパスが繋がる感覚があります。
「ん……」
少し目眩がします。複数の思考が一度に入ってくる感覚に酔ってしまったようです。
テイムにまだ慣れていないから、というのもあるかもしれません。
「ピィイエイ」
抱えたスライムがブルブル震えます。樽の中に入れると、スライムたちが混ざりあい、最終的に一体だけになります。
色は緑ではなく白です。
「これが<ストック>ですか」
肯定が返ってきます。先ほどの目眩はもう無く、ここにいるスライムの存在は1つだけ認識できる状態です。
文字通り、1つになった、ということでしょう。
「分かれることはできるのですか?」
「ピィエン」
「否と。なぜですか? もう分かれることはできない? できるけど今じゃない? 時間がかかる? 準備中? ……ふむ、1つになってしばらくは準備が必要ということですか」
どうやら、他のスライムを取り込むと、分かれるまでに準備が必要なようです。
今は緊急ではないので問題ありませんね。
「何か変わるのですか?」
「ピィエエエイ!!」
その場でジャンプするスライム。
ジャンプ!?
「飛んだ!?」
なんと、あのずるずると這うようにしか移動できなかったスライムが……ジャンプしているのです!!
「とはいえ樽から出られるほどの運動能力はありませんか」
「ピィエイ……」
まあスライム7体分の力ですからね。そんなものでしょう。
ジャンプと言ってもスライム半分くらいの高さしかありませんね。
ぴょいぴょい跳ねるのはかわいくありますが。
拾い上げ、雑草の上に下ろします。
「<消化>で経験値は得られるんですか?」
「ペェイ!!」
「頼もしいですね。それでは消化しつつ抽出で雑草玉を作って下さい。雑草玉はこちらの桶にまとめてください」
この様子では移動の速度も上がっているでしょうし、問題ないでしょう。いそいそと雑草を取り込み始めたスライムを、しばらく観察します。
雑草表面に泡が見えます。経験値を費やした<消化>が<ストック>で強化されたのでしょう。
やはりしばらくは<消化>のレベル上げですね。
「雑草の処理が全て終わったら、その場でぐるぐる回っておいて下さい」
「ピィエイ!!」
これで放置していても<移動>で経験値が貯まるでしょう。
その間にわたくしは鍛錬に向かいましょう。