Before Start: 女達
風。風が吹いてる。
それは人々の思いを乗せて、山原の地を駆け抜ける。
ときに弱く、ときに強く、ときに追い風となり、ときに横風となり、ときに向かい風となって。
風は気まぐれだ。
いつどこで人々の気持ちを裏切り、牙をむくか分からない。ささやかな願いすら無情に引き裂き、吹き飛ばして、後には痕跡も残さない。
しかし、そんなことは関係ない。
ここにいる少女たちの思いは一つ。
わたしは戻ってくる。
わたしたち五人は戻ってくる。
必ず、一番最初に戻ってくる。
負けるわけにはいかない。
ここにいない、彼女のために。
今まさに戦っているであろう、彼のために。
レーススタート一分前のアナウンスが鳴り響く。
チームメイト五人で円陣を組む。
私たちは、繋いだこの手を最後まで絶対に離さない。
たとえ誰かが遅れても、たとえ誰かがいなくなっても、私たちは風を通じて繋がっている。
一人の勝利はチームの勝利。
チームの勝利は……彼女の勝利。
私たちは、チームメイトを信じている。
みんなの気持ちをのせて、彼女の気持ちをのせて――
「月ヶ丘あああぁーっ!!」
ライバル全員を……蹴散らしてやる!
「ファイッ!!!」
「「「「オーッ!!!」」」」
アマチュア・ロードレースの最高峰、『ツール・ド・おきなわ』。市民レース女子五十キロメートルの部。そのスタートまで、後三十秒に迫っていた。