序章
粉塵が酷かった。
自分は地面に倒れていて、どこの誰のものかもわからない足がうじゃうじゃと周りで動いていた。
なんとか身体を起こし、眼球に当たるような砂ぼこりに目を細める。
――隊長、倉田副隊長!
そのうち自分が誰かに起こされているのだということに気づいて自分と同じ青緑色のパーカを着こんだ男を見やると、そいつの頭はすぐに吹き飛んだ。
――ご指示を! 新山総隊長はお亡くなりになりました!
その男ではない声がさらに届いて、そちらを向く。今度は胸を撃ち抜かれてその男も死ぬ。
死屍累々だ。
頭を抱えたくなるような世界の中で、はっきりと自分に向けられている銃口を見つける。
すっと血の気が引いて、銃弾が放たれ、世界がスローモーションになって、
「この人殺し」
長いこと水中に潜っていたようだ。
倉田幸は飛び起きると、目を見開いて右手で口を塞ぎ、今にも困難になりそうな呼吸のために身体を丸めた。乱雑にサイドテーブルをまさぐって、置いていたかも覚えていない薬を探すが、失敗して諦める。その時になぎ倒したデジタル時計は朝の四時を示していて、起きなければならない時間よりも二時間も前だった。外はまた薄暗く、カーテンの隙間からこの世のものではないような薄い青が見える。しばらく見ていなかったその夢を見てしまった理由は分かっていた。倉田はしばらくベッドの上にうずくまっていた。
許されるには、殺し過ぎた。
倉田は思って、顔を上げる。その顔に生気は欠片もなく、ただ水底のように暗く青い目があるだけだった。
これが、人殺しの朝だった。