ヒロインと悪役令嬢がまともだった場合
夕日の差し込む放課後の教室、その扉がわずかに開かれて止まった。
「お入りなさいな」
凛とした美しい声が教室内から響き、止まった扉が再び動き出す。
おずおずと顔をのぞかせたのは学生服に身を包んだ少女だ。
十分に手入れされている扉は少女が中に入ったのちに音もなく閉じた。
中で待ち構えていたのも入ってきた者と同じくらいの年頃の少女。
しかし、雰囲気は正反対と言っていいだろう。
少し不安げに、それでも柔らかな空気をまとった薄桃色の髪を持つ少女は、透き通るような水色の瞳に怯えの色をたたえて扉の前から動けずにいる。
対して教室中央で腰掛けていた椅子から立ち上がった少女。つり目がちの金色の瞳に怒りをにじませながら、垂れてきた艶のある長い黒髪をうしろへとはらうしぐさをする。どこか鋭さを感じさせる美しさだ。
「よく来てくれたわね、リーシアさん」
リーシアと呼ばれた少女がビクリと身をすくませる。
「はい、アデル様。それで、私に御用とは?」
リーシアの言葉にアデルの内側から煮えたぎるような感情が湧き上がる。
この期に及んで白々しい、あの軟弱な態度のどこに惹かれるのかしら?
アデルはこの国の王太子ライエルの婚約者である。
第二王子であったライエルだが、兄王子の病死によって急きょ擁立されたのだった。
それに伴い婚約者として求められる水準も上がったのだが、彼女はその期待に見事応え続けていた。
しかし、最近気になることができた。婚約者であるライエルが一人の女生徒に関心を向けているとの噂だ。
初めは直に尋ねてみた。
すると、学校に不慣れな様子を見て少し助けたのだと返された。
その時は納得したアデルだが、すぐ収まると思われた噂は内容が少しずつ変わりながらも続くのだ。
やれ、図書室を案内しただの、中庭で話をしていただの。
食堂で一緒に昼食をとっていたなんて話を耳にして、これはもう放置できないと相手の少女、リーシアを呼び出したわけである。
「いいですか?リーシアさん。貴方も仮にも伯爵家の令嬢なのですから、婚約者のいる男性と不用意に接することは控えられた方がよろしくてよ」
そう言い放ち、相手に反応を見ようとしたアデルは固まった。
リーシアの表情が崩れ落ちたかのように無になったからだ。
「あ、の?リーシアさん?」
彼女らしくなく、怖れをにじませた声で名を呼ぶと、無表情だった瞳からぶわっと涙が溢れ出した。
「あ、アデルさまぁ〜!!」
そのまま顔中から液体をまき散らして突進してきたリーシアを、とっさに出てしまった護身の術で床に転がすと、彼女は教室の床を拳で叩き始めた。
「私がっ!私が何したって言うんですか!?怖いんですよあの人たち!あんな雲の上の人たちの近くで何かやらかそうもんなら実家がどんな目に遭うか!!」
それを見てドン引きしていたアデルだが、そういえば、と目の前の伯爵令嬢についての事を思い出していた。
元は男爵家の末娘である彼女は、ライエルが立太子して直ぐに母親の実家である伯爵家へと養女として引き取られている。王太子らの興味を引いたのは男爵家で育てられた彼女の貴族らしからぬところだという。
伯爵家としては、あわよくば王太子の目に留まればといったところで、アデルもリーシアはその意を汲んで動いているのだと疑っていなかったが、この様子を見るに本人の意思は違うようだった。
「こんなまともな言葉をかけてくださったのはアデル様だけです!」
いつの間にやらリーシアは顔を上げて、アデルを見つめていた。
あ……これはやってしまったかしら?
そう内心で独りごちる。
アデルの家、侯爵家には生き物が沢山いる。
捨てられた生き物を見るとつい拾ってしまうのだ。
自らに向けられた縋るような眼差しに、きっと見捨てられないのだろうとため息を吐いた。
こうして、崇める様に慕ってくるリーシアに貴族としての常識を叩き込みながら、王太子としての自覚が足りない婚約者を再教育する日々が始まるのであった。
最近悪役令嬢ものやザマァ系が楽しくて、自分なりに書いてみたらよくわからないものになりました。
タイトルと違ってやっぱりヒロインもまともでないかもです




