第九話 初クエスト
「ロードウルフは平原によく出没する。奴らの弱点は二本に別れた尻尾だ。尻尾には大量の魔力が貯められており奴らが素早く動ける動力源だ。尻尾がなくなれば魔力がなくなり著しく速度が落ち、仕留めやすくなる」
なるほど、さすがSランク冒険者。
「奴らは商人達を主に襲う、人の味を覚えた奴らは時に群れで商人を襲い護衛達が負ける事もある」
数の暴力だ。
「人の味を覚える前に討伐するのが冒険者の役目だ。もうそろそろクエスト表に書いていた出没ポイントだ」
「そうですね、気を引き締めて行きましょう」
「ロードウルフは鼻がいい生肉の血の匂いで誘き寄せよう」
「はい」
そう言ってアイテム袋から1キロぐらいの袋に入った生肉を出すシルクさん。
それをひっくり返し地面へ。
うげっ僕も臭うぐらいの血の匂いだ。
そういえばこれも血だけど…あれを吸収してもレベルは上がるの?
『いや、生き血が必要だ』
じゃあ、生きた豚とか牛でも良いの?
『いや儂らに結合する種族の血じゃないとあかん。一番良いのは同族つまり悪魔。その他に結合率は低いがレベルが上がる可能性のある血は人族、ドワーフ族、ドラゴン族、魔人族ぐらいか?ほんでお前はエルフの血も持っているからエルフ族の血も同族として結合率は高い。そのほかの動物の血は基本俺たちの体には合わない」
じゃあ、ダメか…
そして、しばらくの時間が経った。
「ヨナ君!」
「はい!」
200メートルほど離れたところから大量の魔力が近づいて来る気配がする。
ロードウルフの群れだろう。
「あれ?」
ロードウルフの群れが見えてきた。
その先頭には馬車が見える…
「馬車を襲おうとして…る?」
『いや馬車には興味がない…って感じやな』
ロードウルフ達は馬車よりも遥かにスピードが速いから襲おうと思っていれば既に襲われているだろう。
馬車よりも前に出ている奴もいるし…
「馬車?あれは!?ヨナ君助けに行くぞ!」
シルクさんは何かに気づいた様子だった。
「はい!」
僕達は馬車に向かって走り出す。
御者台には綺麗な紳士服を着た長身の男性が手綱を持っている。
僕らは目にも留まらぬ速さで馬車の横を通り過ぎて行く。
男性は会釈をしていた。
僕とシルクさんは左右の側面へ迫るロードウルフを屠っていく。
数は全部で200体ほど。
こんなに倒して経験値は大丈夫だろうか?
『この位やったら大丈夫や』
じゃあ、じゃんじゃん狩りますか。
ロードウルフのスピードは確かに早いけど全然僕には関係無かった。
弱点である尻尾を狙う必要はなく、どんどんと首を刈り取っていく。
戦闘は五分程で終わった…
「討伐に必要なのは10体だけだったのに…」
ロードウルフの死体の近くに転がっている角を拾っていく。
「そっちの方は全部集まったかい?」
「もう集まりましたー」
シルクさんも角の回収が終わりこちらに来る。
さっき助けた人達を連れて。
「えっとそちらは」
僕はシルクさんに顔を向ける。
紳士服を着た男性とその前を歩く僕と同じくらいの年齢の女の子二人。
女の子は顔が瓜二つで所謂双子というやつだろう。
女の子達がシルクさんと男性の一歩前へ出る。
「私の名前はエーギル王国第一王女クレア・フォン・エーギル」
左の女の子がスカートの裾を持ち上げまるで貴族の様な自己紹介をする…って!
王女!!?
と言うことは…
「同じく第二王女エミル・フォン・エーギル」
双子なんだからそうなるよね…
「「この度は私達を助けていただき、感謝します」」
まって。
えっと頭下げないといけないんだっけ?
僕は頭を下げようと膝を折ろうとする。
「あの!頭は下げなくて大丈夫です。助けられたのは私達ですし」
クレア様は手を振り僕の行動を止める。
「すみません。田舎者なもんで礼儀とか分かんなくて」
「気にしないで。」
とエミル様が。
「クレア様、エミル様がご無事で嬉しく思います」
そう言ってシルクさんが話に入ってくる。
「シルクもありがとうございました」
そう言って3人は頭を下げる。
どうやらシルクさんとは知り合いのようだ。
まぁそうか王都の騎士団長だし。
「護衛隊はどうしたのですか?セバス殿」
シルクさんが男性に話しかける。
セバスさんの話によると。
ここから1キロ程離れた場所でロードウルフ10体程に遭遇して護衛隊が応戦していた時に別のロードウルフの群れが援軍に来た。
それが先程の群れだという。
護衛隊は大規模な戦闘になると予想し戦闘に巻き込まないため先に王女様達を逃しロードウルフに応戦しようとするがロードウルフは護衛隊を無視して馬車を追いかけてきた。
「なるほど、誰かが馬車を追うように仕組んだ」
「私達の暗殺?」
考え込むシルクさんにエミル様が聞く。
「王女暗殺の説が濃厚かと…」
「私達を狙う何者かが居るとそう言いたいのね?」
「そう思われるかと」
王位を狙った犯行?
でも、僕達が見た時ロードウルフ達は馬車を攻撃するように見えなかった。
他に目的が?
『お前らアホか?どう考えても、そこに転がっとる肉やろ。犬は鼻がええねんから』
ああ!
そう言うことか!
「とりあえず護衛隊の方には私が報告に行く。今後の警戒も兼ねて報告しなければ」
いやいや、ロードウルフは王女を狙ったんじゃなくてって行っちゃった。
シルクさんは馬車が来た方向へ走って行った。
「ああ、それと護衛はそこのヨナ君に任せて先に街へ!」
シルクさんは大声でそう言い残しまた走り出した。
「では、行きましょうか」
セバスさんが言う。
「えっと僕は馬車に並行して歩けばいいですか?」
「そうなりま……」
「いえ!私達と一緒に馬車の中へ!」
セバスさんの話を遮りクレア様が言う。
「クレア様それは…」
「私達がそうしたい。だから良い。」
「エミル様まで…では、そう言うことなのでお二人をお願いします。ヨナ様」
「は、はぁ、はい」
「では、行きましょう」
クレア様に手を引かれ馬車の中へ入る。
「先程は本当にありがとうございました」
「いえいえ、当然ですよ。ロードウルフを討伐のクエストの途中でしたし」
「冒険者をしているのですか!?」
クレア様は冒険者に興味があるようだ。
「昨日なったばかりなんですけどね」
「それなのにすごく強い。」
エミル様は冒険者と言うより僕に興味があるようです。
さっきからめっちゃ近くで観察される。
『おい、エミルとか言う女にあんまり近づくな。危ない匂いがする』
何が危ないの?
『ええから。あんまり目を合わせるな』
分かったよ。
「ヨナ様は今おいくつなのですか?」
「つい先日成人したばかりです。そ、それと様って言うのはやめていただきたいです」
「まぁ!偶然ですわ私達も先日に成人したばかりなのですわ」
「そう。」
様付けの件は無視のようだ。
それからは同い年という共通点から話が盛り上がった。
「お二人は何故この街へ?」
「私達はこの街で行われる騎士団の合同訓練の見学しに来たのですわ」
「そうなのですか」
2人は騎士団の合同訓練の見学に来たと言う。
「そう言うヨナは何でシルクと一緒に居るの?」
「たまたま会ったシルクさんに騎士団に入団しないかと勧誘されていまして。今は行動を一緒にしています」
僕は自分の思いつく限りの敬語を使う。
「ヨナ様も王都の騎士団に!?」
「いえ、僕はこの間街に出てきたばかりの田舎者なので王都へ行くのは少し抵抗が…」
「王都いいところ。騎士団の給料もいいよ?」
「そう言う問題ではなく、心の問題ですね」
『王都には多様な種族がおる。吸血し放題や!』
そんなの無理だわ!
『このクソへたれ!』
うるさい!
「もうそろそろ、街につきますね」
馬車の窓から街の外壁が見えてきた。
「ヨナ様。街までの護衛誠に感謝します」
セバスさんが御礼を言う。
「いえいえ、こちらこそ街まで馬車に乗せてもらってありがとうございました」
「それではヨナ様、またいつか絶対に会いましょう」
「絶対ね〜」
絶対って…
「また機会があれば。それでは」
僕はお辞儀してその場を離れる。
誤字報告ありがとうございます!