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第五話 宿屋

 


「いや、先程は助かった。ありがとう礼を言う」


 僕は今冒険者ギルドで絡まれていたお姉さんと昼ご飯を食べている。


「いやいや、僕が助けたのは貴女じゃなくあのBランクさんですけど」

「と言うと?」


 お姉さんの顔つきはホワホワとしたものではなく怖い表情へと変わった。


「そんな顔すると怖いですよ」


 僕はそう言いながらお茶を啜る。


「なるほど、これはこれはすまなかった。少し殺気を向けてみたのだがね。さっきの動きと言い、今の殺気で動じないところを見ると君は相当強いようだ」

「いや、それはないと思いますよ。僕は今日冒険者登録しに行くところの新人ですし。レベルだって19ですよ?」

「そう言う事にしておこう、生憎私は鑑定スキルを持っていないから君のステータスを覗けないからね」


 嘘は言ってないんだけどな。

 このお茶おいしいな。


「で、さっきの話だがどう言うことかな?」

「どう言うことと言うのは?」

「私ではなくあの男を助けたと言う話だ」


 お姉さんは聞いてくる。


「いや、当たり前ですよ。貴女とあの人じゃドラゴンへゴブリンがちょっかいを出しているだけとしか思えないですよ」

「何故そう思う?」

「貴女の身のこなし体の作り着ている甲冑の質の高さ、剣に関してはこの世に二つと無い物を持っている。あとは貴女が言ったじゃないですか」

「なにを?」

「『私は大丈夫だ』って」

「……」

「?」


 動きが止まって無言になったお姉さんを見つめる。


「はっはっはは」


 え、なに?どしたん?

 お姉さんがいきなり笑い出した。


「うん、私が求めていたのは君のような人材だ!」


 お姉さんがいきなり立ち上がり僕に指差す。

 周りの人たちは何があったのかとこちらに目を向ける。

 そして言い切ったとばかりに静かに椅子を引き再び座る。


「えーっと。なんのことでしょうか?」

「私は騎士をやっている者で、シルク・ラルナという者だ」


 お姉さんが名前を言うと周りが騒がしくなる。


「おい、あれ王都騎士団長じゃ無いか?」

「うわ、マジだ綺麗だな」

「え、嘘!シルクお姉様!?」

「キャー最高。もう私今日死ぬわ!」



 まるでどこかの王子様のような人気だな。

 周りの声は本人には聞こえてないみたいだけど、僕はエルフで耳がいいから。

 と言うか騎士団長さんか偉い人みたいだね言葉遣いは丁寧にしておこう。


「はい。で、騎士様が僕に何か?」

「率直に言うと君を騎士団に勧誘したい!」


 勧誘?

 騎士団?

 この街に来たばかりなんですけど…したい事色々あるんですけど。

 冒険とか素材売りとか。


「はい。なるほど」

「まずは騎士団に入団するにあたってだが…」

「ちょ、ちょっと待ってください。なんでもう入団が決定しているんですか!?」

「あ、これはすまない悪い癖でないつも先走りすぎるんだ」


 無理やり入団させるような悪い人では無いのか。


「今の団には何としても君のような人材が必要なんだ!頼む!」


 シルクさんは僕の手をとりぐいぐいと迫ってくる。


 はぁ…どうしよう。


「じゃあ3日間考える期間をください。僕もまだこの街に来たばっかりなので早々に決めることはできません」

「そうか、分かった。すまないな、であれば君が入団したいと思わせれるように3日間私は君と行動しよう」

「は、はぁ」


 すごく積極的だな。


「一つだけ3日後に我々全騎士団での合同訓練がある。それだけは見学しに来てくれ。詳しい話は宿でしよう」

「分かりました」


 僕がそう言うとシルクさんは席を立った。

 せっかちだなぁ。


「では、君が泊まっている宿はどこかな?」

「いや、本当にさっき来たばかりで冒険者ギルドで素材を換金しようと思ってた所で宿の予約はまだ」

「そうか、なら私のおすすめの宿を紹介しよう。その前に素材を換金しにギルドへ行くか」

「分かりました。ありがとうございます」



 何だかんだで話がまとまり僕達は冒険者ギルドへ向かった。



「え、えーっと素材を売りたいと言う事で」

「はい」


 何故か受付嬢さんがおどおどしている。


 ヨナは気づいていない先程の騒動を見ていた者がどれだけヨナの事を恐れているか。


「冒険者登録の方は?」

「えーっとしておいた方が良いですかね?」

「あ、えっと冒険者登録している方ですと素材の売値が少し上乗せされます」

「なるほどならお願いします」


 受付嬢さんは奥へ行き登録に必要な物を取りに行く。


「では、こちらに種族、名前を記入して、こちらの魔導盤に手を置いてください」

「はい、分かりました」

「代筆は必要でしょうか?」

「大丈夫です」


 僕は文字をサラに教わっていた為自分の名前や種族ぐらいは書けた。


「書き終わりました」

「では盤へ」


 僕は魔導盤に手を置く。

 すると魔導盤が紫色に光り、魔力が少し吸われる感覚がした。

 1秒ほどで光がおさまった。


「ありがとうございました。これより奥で手続きをしてきますので。素材を右手の扉の向こうへ素材置き場があるので素材を置いてきてください」

「はい、ご丁寧にありがとうございます。では」


「終わったか?」

「すみません待ってもらって」

「いやいや良いんだ」

「今から素材を置き場に持って行きますが」

「ついて行ってもいいかい?君がどんな魔物を倒しているか見たいし」

「シルクさんが期待するような魔物の素材は持ってませんよ」

「それでも構わないよ、なんだか面白そうだからね」


 ほんとに期待されても何も無いんだけどなぁ。



「お兄ちゃん素材をここに置いて、終わったらこの台の上の魔導盤に手を置いてくれ。完了したら受付へ帰ってくれて構わない」


 おじさんは丁寧に説明してくれる。


「ありがとうございます」

「おう!分からんことがあったら聞きに来てくれ」


 そう言っておじさんは奥へ素材の鑑定をしに行ったみたいだ。


「じゃあ出しますか」


 狩りを始めて10年間溜め込んできた素材。


「お、ヨナ君はアイテムボクックス持ちかい?」

「あ、え、そうです」

「珍しいな」


 珍しい物なんだアイテムボックスってサラも父さんも持ってたから結構な人が持ってて当たり前だと思ってた。






「おいおい、どう言うことだ?」

「えっとどう言う事というのは?」

「ヨナ君、君は何者だ?」


  シルクさんは目の前の光景が信じられないという顔だ。


 それもそう、ヨナが出した素材の量は通常一人に用意される置き場を六つも埋めた。

 一つの置き場の大きさが家一軒が立つような敷地の広さだというのにそれを六つも埋めたのだ。

 シルクの顔は一つ目を半分埋めたあたりから暗く信じられない表情になっていた。


 アイテムボクックスの容量はスキルのレベルと使用者の魔力の量により収納できる量が変わる。

 つまりこれだけの量の物を収納できるアイテムボックスは魔力が極端に高いかスキルのレベルが最大に近いことを意味する。


「君は大魔導士か?それとも化け物か?」

「えっと…」

「それにこの量の素材。下級の魔物と言えこれほどの数。君のレベルは一体幾つだ?それに極め付けには上位種のオークまで。その歳でどれほどの経験を積んだ…」


 シルクさんは信じられないと言う顔をする。


「まぁ人並みには」

「これを人並みとは言わない!話は宿に帰ってから聞かせてもらう!」


 え、宿に帰ってからって。


「え!宿も一緒なんですか!?」

「当たり前だこんな物を見せられては帰るに帰れない!」

『血を…』

「はぁ…」


 興奮したのかなんだか体が熱いや…

 僕は六つの魔導盤に手を置き受付へと帰る。


「素材、置き終わりました」


 僕は先程の受付嬢の所へ行く。


「長い間ありがとうございました。ちょうどギルドカードも完成しました。身分証と同じく魔力を込めると情報が浮き出ます」

「ありがとうございます」


 そう言って受付嬢さんから何も書いていないギルドカード受け取る。


「では、素材の…はい、はい?は、はい分かりました」


 受付嬢さんが素材の説明をしようとしてくれていたら後ろから他の職員さんが受付嬢さんに話しかける。

 話を聞くうちに受付嬢さんの表情が硬くなって行く。


「す、すみません」


 またオドオドしている。


「はい、大丈夫ですよ」

「え、あのヨナ様の素材が今日中では鑑定できないという事なので」

「え」

「はい、すみません明日までには完了すると思われますので明日以降ギルドへお越し頂けると支払いができるのですが」

「今日は換金できないのですか?」

「そうなります」

「少しの素材分だけでも」

「すみません、ギルドの規定で一度素材を鑑定し始めたら中断や前払いと言うのはできないんです」


 そ、それは困ったなぁ宿代が。


「すみません」


 受付嬢さんが謝る。


「いえいえ、すみません、分かりました。ありがとうございました大丈夫です」


 大丈夫じゃ無いな〜

 久しぶりにしっかりしたベッドで眠れると思ったのに…



「どうしたんだヨナ君?そんな顔を暗くして」

「えっと鑑定に時間がかかるそうで換金は明日になるそうです」

「なるほど…」


 シルクさんは考え込むような様子をとる。


「ですから今日はどこかで野宿しま…「私が宿代ぐらい出すよ」

「え、ほんとですか?」

「未来の団員だそれくらいはさせてもらう」

「まだ入団するとは限らないですけど。と言うか断りにくくなるじゃ無いですか」

「嘘だ嘘。明日換金されるのだろう?では、明日その時に返してくれれば良いよ」

「分かりました。ではお言葉に甘えて、お借りします」



 僕らはギルドを後にしシルクさんのおすすめの宿へ来た。


「『銀狼の宿』なんか怖そうな宿…」

「怖くなんかないぞ。いつも女将さんのサービスも良いしな」

「へぇ〜そうなんですか」


「いらっしゃいませー!」


 扉を開けると僕と歳が変わらないくらいの女の子が出迎えてくれた。

 看板娘って奴ですかね?


「おう、レーナちゃん久しぶり」


 どうやらシルクさんの顔見知りのようだ。まぁオススメするくらいだし何度も泊まりに来てるか。


「シルクさん!一年ぶりですね。お母さん呼んできます」

「よろしく」

「可愛いだろ?私より二つ下の15歳だヨナ君と同じだな」

「え?」

「え?」

「えーーー!?」

「なんだ!?」

「シルクさん17歳だったんですか!?」

「なに?そんなに驚くことか?」

「いや失礼ですけど大人びてて、五つは上だと思ってました」

「ふふふははは!なんだ褒め言葉じゃないか大人びてるなんて」


 褒め言葉なのね、そうなのね。

 しかし、びっくり。


「あらあら、シルクちゃん」

「お久しぶりです。女将さん」


 そんな話をしているといつの間にか女将さんが来ていた。

 先程のレーナさんに似ていて若くて美人だ。


「久しぶりね。また遠征かしら?」

「そうですね。団体訓練の為に」


 ん?

 シルクさんてこの街の騎士団じゃないの?

 まぁあとで聞くか。


「で、そちらの子は?」

「あ、初めまして。ヨナと言います」


 僕は女将さんに軽く挨拶をする。


「あらあら、シルクちゃんにも春が来たのねうふふふ」

「違いますよ、今度うちの団に来てもらおうと勧誘中です」

「それで色仕掛けを?」

「な、わけ!ってそれもありか…」

「て、流されないでくださいよシルクさん!女将さんも悪知恵を与えないでください」

「あら勿体無いわね。これでもシルクちゃんかわいいと思うんだけどね」


 確かに綺麗ですけど。


「で、今日は宿泊ですか?」


 女将さんが話を切り替える。


「そうですね二人部屋をお願いします」

『ええやないか』

「いや、シルクさん冗談が過ぎますよ。一人部屋二部屋お願いします」

「いいではないか〜」

「黙ってて下さい」


 女将さんはニヤリと笑う。

 嫌な予感がする。


「ごめんなさいね〜今一人部屋が空いてなくてぇ二人部屋しか用意できないのよ」

「え」

「いいじゃないかヨナ君私の事は遠慮するでない」

「遠慮します!あ、そうだそれなら二人部屋二部屋お願いします!」

「それは無理ねぇ他のお客様も来るんだから迷惑になっちゃうわ」


 くそ!

 この女将さんおっとり小悪魔系だ!


 そんなこんなでシルクさんと一緒の部屋になってしまった…


『やっと血が…』




 誤字報告ありがとうございます!

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