第三話 レベルアップ
村を出て数分。
「しかしびっくりしたなぁ」
サラの好意には気がついていたが、その好意は男女ではなく兄妹とか親族に向けるものと同じだと思っていた。
でもさっきの行動を思い出す限り、それは男女のものだと分かる。
ヨナは自分の唇を触り顔を赤くする。
「サラを守る為にも強くならないと！とは言ってもどうしたものか。はぁ」
こう言うのにも理由がある。
僕はレベルアップしない。
レベルアップとは基本は魔物を倒して得る経験値が一定数を超えるとレベルが上がる。
そしてレベルが上がるとステータスも大幅に上がる。
もちろん、体力や魔力などのステータスは日々の体力作りや魔法の行使等によって多少は上がる。
よって同じレベルの者と比べればヨナは基本のステータスは驚く程に高いのだが、レベルが上がらないヨナはどこまでいってもそこ止まりなのだ。
それは悪魔の目を持った者の定なのだそう。
【名前】ヨナ
【種族】エルフ【性別】男
【年齢】15歳
【称号】悪魔憑き 忌み子
【レベル】19
【体力】12560/12560→レベル19の平均値600〜1000
【魔力】14535/14535→レベル19の平均値1000〜1500
【スキル】（MAX Lv.10）
武術Lv.4
体術Lv.6
剣術Lv.7
隠蔽Lv.3
魔法耐性Lv.2
アイテムボックスLv.4
【魔法】
風魔法Lv.3
土魔法Lv.1
光魔法Lv.5
身体強化魔法Lv.6
生活魔法
【加護】
？？の加護
神の加護
なぜレベルの上がらない僕がレベル19なのか。
実は一度だけレベルが上がったことがある。
7歳の頃サラと魔池を見に行ってしまった時。
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「サラ！逃げろ！」
僕はサラ対して声を荒げる。
「ヨナも！」
「僕が時間を稼ぐからその間に…」
「嫌よ！それじゃヨナが死んじゃう！」
「危ない！」
オークがサラがいる場所へ棍棒を振り下ろす。
僕はサラに飛びかかり何とか、棍棒を避ける。
「大丈夫？」
「……」
サラの返事がない。
「くそっ！」
どうやらサラは木の根に頭をあてて気を失ったようだ。
どうしよう、とても気を失っているサラを抱えてコイツから逃げる事は出来そうにない。
僕にできる事……オークの気を僕に向けてこの場所から離れる。
でも、気を失ったサラをここに置いて行ったら。
魔池に肉食動物や魔物が集まってくるのは時間の問題…
ならオークをここで倒すしか無い。
ググググクぅ
オークが涎を垂らし、棍棒を引きずりこちらへ向かってくる。
僕は護身用に持っていたナイフを腰から抜き、構える。
身体強化の魔法を使いオークへと走り出す。
オークの武器は棍棒だけじゃ無い、オークの腕は筋肉質で腕を振っただけで木をなぎ倒す。
それに当たればひとたまりもない。
「まずはあの腕を」
腕自体にナイフをあてても仕方ない、狙うは関節、靭帯。
僕は肘関節を狙う。
なぜ防御力の低い手首の関節を狙わないかというと掴まれてしまったら一巻の終わりだからだ。
オークの握力は生木を握り潰せる。
オークに掴まれた僕は次の瞬間にはぐしゃぐしゃだろう。
オークの懐へ。
オークの反応は遅く、遅れて棍棒を振るう。
僕は棍棒避け、棍棒を持っている右腕の肘の側面へ攻撃する。
ナイフはオークの肉を断つと思ったが、オークの皮膚が硬く少し傷が付くぐらいだった。
「クソッ」
でもとりあえずオークの標的は確実に僕になった。
このままサラの気がついて、逃げてくれれば。
それまで踏ん張るしかない。
どのくらいの時間が経ったか…
「ん」
ここは？
私はヨナと池に来てたはず。
そしたらオークが…
サラは起き上がり目を開ける。
「ヨナ…」
「サラ！逃げるんだ！僕も後から行くから」
「ヨナ！？ダメよ！一緒に！」
ヨナは怪我をしてる。
あれじゃ私が逃げた後にオークから逃げれるわけない。
「大丈夫、僕は魔法が使えるから逃げれる！」
「なら私も！」
「クッ」
ヨナはオークの攻撃を避けながらオークの関節を狙っているみたいだ。
なら私も。
サラはアイテムボックスから弓を出す。
オークの頭に照準を正確に合わせ矢を放つ。
「サラ！攻撃したらダメだ！」
矢はオークの頭、一直線に飛んでいく。
矢がオークの頭へヒットする。
「よし」
サラは仕留めたと思った。
しかし矢はオークの頭に当たると硬い皮膚に弾かれた。
そして、オークは攻撃されたことに怒り標的はサラへと変わる。
オークはサラがいる場所へ。
近づくにつれオークはその醜悪さ増す。
「くそッ間に合わない、サラ！逃げるんだ！」
サラはオークを目の前にし恐怖で体が動かないようだ。
オークは容赦なく左腕を振り上げる。
体が動かない。
私はここで…
「サラあぁ！」
目を瞑る。
ドンッ！
「……？」
衝撃が弱く、当たった面積が小さかった。
不思議に思い目を開く…
サラに当たったのはオークの腕ではなく、サラを押しのけるために当たったヨナの肩だった…
目の前でヨナがオークの腕に当たる。
そして、その体は池の中へ。
「ヨナあぁ！」
…
……
…………
『下界の身体はほんま弱いなぁ』
頭の中で声が聞こえる。
それは懐かしそうで聞いたことのない声…
『お前、なんで庇った？』
何故？
何故だろうか？
なんでだろう。
『なんや分からんのか？』
…僕に優しくしてくれたから？
『カッカッカ。そんな理由でその命をかけたんか』
あなたは誰？
『儂はお前、お前は儂、一心同体言う奴や』
よく分からないな。
『まぁそのうち分かる。でもな、このままやったらお前は死ぬ。もちろんあの女もな』
それは嫌だな、せっかく友達ができたのに。
『儂も嫌やな。お前が死ねばまたお前が出てくるまで寝とかないかん』
寝てるだけだろ？
死ぬわけじゃないんだからいいじゃないか。
『お前ら下界の物も死ぬわけやない、輪廻を廻りまた下界に生を受ける。まぁそれには何百年とかかる』
そんな事より、なんで話しかけてきたの？
『そうやった、お前に話しかけた理由な、今から儂が力を貸してやる。ただしそれには条件がある』
なに？
『なに、簡単な事や…』
『神を殺せ』
…………
……
…
「ヨナあぁ！！」
ヨナが池へ吹き飛ばされた。
その体には力が入っている様には見えず意識を失っている様に見える。
このままじゃ溺れ死んじゃう！
サラは池へと走り出す。
ググググクぅ
しかしヨナが消え、オークの標的はサラに向いている。
オークはサラの行く手を阻む。
「あんたなんか！」
サラが弓を引く。
バキッ
オークの棍棒がサラの弓を攫う。
「あんたなんかに！」
サラは折れた弓の尖った方をオークに向ける。
グググカ
オークは醜く嗤う。
「死ねぇええ！」
サラはオークの懐に入り胸を貫こうとする。
バキッ
結果は当然。オークの皮膚は硬く木の棒では到底貫くことは叶わない。
グググカ
サラはオークの右腕に容赦なく攫われる。
サラの体は木へ叩きつけられる。
「いた、い」
サラは左腕の骨が折れていた。
なぜこれぐらいのダメージで済んだか、それはオークは右腕で攻撃した。
ヨナが関節を削いだ右腕で攻撃ダメージが少なかった。
グッグググッヴ
それを分かってオークは右腕で攻撃した。
サラを痛みつけ嬲り殺す様に。
オークは醜く嗤いながらサラに近づく。
今度こそ死ぬんだ…ごめんね、おじいさま、お父様、お母様。
「ごめんなさい、ヨナ」
オークの右手がサラに迫る…
ググがががぎゃぎゃ！！！
サラは目の前で起こっている事が理解できない。
突然オークの右腕が宙を舞い、オークが苦しみだした。
そして何故か目の前にはヨナが居る。
「ヨナ？」
サラが疑問に思うのも仕方がない。
明らかに雰囲気が違う。
目は鋭く三白眼に、髪の色は白さを増し少し伸びている。
「ヨナ！無事だったの！？痛っ！」
「怪我人やねんから静かにしとけ」
声色が全くヨナの物じゃない。
いやヨナの声が黒くなった感じの物。
「誰、貴方…」
「……」
クギグググがが！！！
オークは怒り少年に近づきその華奢な体を掴もうと左手を広げる。
「ヨナ！」
オークの手は少年の体を包み、握りつぶすように手に力を入れる。
「雑魚が触るな」
少年がそう言うとオークの手は固まり動かなくなった。
グガッ！？
オークは驚いた表情をしている。
「死んどけ」
次の瞬間。
オークの頭が弾け飛んだ…
オークの血を浴び、頬についた血を不気味に微笑みながら舐める。
サラが見る少年はいつもの彼ではない。
恐怖を感じる。
彼が近づいてくる。
「貴方は誰？ヨナを返して」
「儂に指図とはいい度胸や」
少年の視線は少女の左腕に落ちる。
「なんや骨が折れとるんか」
少年は少女の腕を掴み強引に向き合う形で自分の膝に乗せる。
「な、何をするの」
少女は顔を赤くする。
「おお、なんや儂に惚れたんか女」
「あ、あんたじゃないわよ！」
サラは慌て、否定する。
「儂やない言うことはもう1人の儂か、カッカッカ。ええやないか」
「ち、違うわよ…」
先程の態度とは違い、サラは恥じらいながら否定する。
「まぁなんでもええわ。ちょっとじっとしとれ」
「ちょっな、なに？」
少年は少女の首筋に顔を近づける…
「いたっ！なにを！？！
鋭く尖った牙を刺す。
「んっあっあぁ」
サラは艶かしい声を出す。
しばらくして、少年は少女から離れる。
「はぁはぁ、なにするのよ…」
「もう1人の儂のことを頼むぞ」
「なによそれ！？ってヨナ？」
それを言い残し少年の体がぐったりとした。
