第六話
「ふぅ......」
文之は今、理事長室に入り込み、上から状況を伺っている。そして、今、オッサンが珈琲を飲んで休憩している図をひたすら見ている。
このオッサン、仕事なんなんだろうかと監視したがよくわからない。
机の上には文之がチラリと見たが全く関係ない書類が積まれている。
それから一時間ほど待機したが、何も起きなかった。
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続いてーー校長室。入るとまたしてもオッサン。しかし電話をかけている。
「後はブツを出すだけです。コレで100万を振り込んでくれますよね?」
そう電話に向かって緊迫した言葉で話し掛ける。
「(おいおい、明らかにヤバいことをしてるぞ、この校長)」
「はい。約500人、無事にデータ収集出来ました。」
『ドンッ!!』と突然、そのオッサンが机を叩く。
「はぁ!?話が違うじゃないですか!!取引は取り止めしますよっ!」
「(えー......結局、渡されずに終わるのかな?)」
「え?今、向かう?何言ってっ?グハッ!?」
突然、校長の腹部から紅い血が飛び散り、湧き水が地から湧き上がるかのように、血が滲み出てくる。
ソレの原因。それは校長の近くから生えてきたのは普通では有り得ないモノ。
黒い腕。
黒い腕は人の腕をそのまま切り取り、無機質みたいな黒いペンキをぶちまけたような見た目。生気の全く感じられない黒色の腕。
その黒い腕を校長の腹部を貫く。
スマホが落ちる音と校長の意識が落ちる。
黒い腕の手が腹の中から引き抜かれ、さらに血が溢れ出る。黒い腕の手の先が赤く血塗られた。
そして、校長が重力に従い、仰向けに倒れる。
ピタピタと滴り落ちる血。その元凶である腕は滴り落ちる音と共に空間へと呑まれていく。そしてやがて、空間の歪みは消え去る。その後、空間がさっきの数倍、大きく歪んで人の半身が出てくる。しかし、それは異質な存在。
黒い腕の持ち主かのような全身黒ずくめの人が出てきた。
それは目も口も鼻も耳も無い。胸が無い為、性別の把握すら出来ない人。いや、人型のなにか。そう言った方が良いだろうか。
体、全体が出てきて、空間の歪みから離れる。しかし、空間は歪んだまんまだ。
「...... 」
文之は本気で気配を消す。
ソイツは校長を蹴り、飛ばす。
バゴンッという重いものが当たる音を出し、校長が木の棚にぶつけられ、ボトボトと本が校長に降りかかり、棚ごと倒れて校長の姿が見えなくなった。
次に校長の着いたスマホを踏み壊す。そして、なんかを探し始めた。
「(おそらく、奴はデータの回収に来ている。問答無用で人を殺ったのだから、間違いなく政府では無い組織だ。)」
ソイツは机に置かれた紙束を見た。
「(回収される前に......)」
真っ直ぐに紙束のある机に向かう。そして、紙束に手が触れる、刹那。
「(殺す)」
ソイツの首がスパッと擬音が出そうな程、綺麗に切断され、首から上がボトッと落ちる。
ソイツの切断面は黒く、血も出ない異様なモノ。コレは生物では無いのだろうか。
確かに首を切断した、しかし。首の無い体が動く。
「(コイツ......まだ生きてやがる。)」
文之は指を動かし、あるモノを操作する。それは先程、ソイツの首を切断した物。
糸。
しかし、それはただの糸ではない。
その糸は波打つように動き、ソイツの体を囲む。それを見計らって、文之は指を引く。
そして、それが狭まり、体を縛り、くい込んでソイツの体が乱切りされる。ソイツの切られた後は、黒い物体の山となる。
だが......カタカタと未だに動くソイツ。
「(ああ、もう面倒だっ!!)」
文之は小さな手のひらサイズの壺を取り出し、印を組む。しかしその印は長い。
幸いにも、相手は文之の存在に気付いていない。
「(一瞬でカタを着ける)」
そう決めた文之は印を組み終わり、壺を......
握り潰す。
ジャリッと音を立て潰れた壺は砂のように空気中に欠片を溶かす。そして、欠片は部屋に広がる。
部屋の中心部に突如、渦が発生。部屋のモノが吸い込まれていく。それはソイツの黒い体と頭をも、吸い込む。
そして、それは元の壺の形へと戻る。大きさは変わらない。しかし、中身には入った。
「よいっしょっと」
文之はそれを回収し、封をする。そしてあることに気付く。
「あ、やべえ。例のデータごと壺の中に入った......まあ、いいや」
文之はそして、奴が来た空間の歪みをサッと見るがそこには何も無かった。
「はぁ......戦利品、無しか」
そう言って、文之は校長室から出ていくのだった。校長が壺に入ってる事を知らずに。
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「おい!戻ってこいよ!ッチ!対価分の仕事はしろや。悪魔の癖に約立たずが!」
片腕の無い茶髪の男がそう言った。
「あの男......手慣れている。一日、二日程度で順応したとは納得出来んな。一般人ではなかろう」
和服を着た美女は長い黒髪を触りながら、呟く。
「全く。いきなり、計画を邪魔されるとは思ってもいなかった。しかし、あの能力......素晴らしい。拉致......勧誘しに行こうか?」
白眼白髪の青年が和服の美女に話す。
「はっはっはっ、まだ早かろう。もう少し揃うまで待たんとな」
「これでまだ足らないって言うのかい?選びに選んだコイツらでもかぁ」
白眼白髪の青年は後ろを向く。
そこには十数人の少年少女達が檻の中に入っており、全員が黒の首輪を着けて、目の輝きが無かった。
その誰もが......学生だった。