怒れる大神8
天の大神様とお会いになり、散々揶揄われておいでの大神様だったが、怒る事も拗ねる事もなさらず、まして癇癪を起こされる事もなく日を過ごされた。
日々ただ黙々と、穏やかに過ごされている。
青孤達神使が地上の復興を伝えに来るが、ただお聞きになるだけで必要以上のお言葉は、一言もおかけにならない。
ご自分を責めておいでなのか、神使の大半を地上の復興の手助けに回されている。
そんなある日、大神様は閻魔様の謁見をお許しになられた。
「あの者が来たか?」
大神様は物静かに、落ち着いて言われた。
「はい。面前にて大神様に会わせて欲しいと……」
「……………」
「大神様、大神様を愛したが捨てられたと、訴えておりますが……?」
閻魔様は無言の大神様を、恐々見つめている。
「……のみならず、両親も一族の中で一番〝持っていた〟叔母をも含め、あの者に近しい者が七人以上死んで、尚も収まらず親友を巻き添えにして、罰を与えられたと申しておりますが?真にございますか?」
「………………」
しかし大神様は、何も仰せになられない。
「私が見るところ、あの者は頭は足りませんが……」
一瞬大神様の眉間に皺ができた。
目敏い閻魔様は
「根はとても良い者でございます」
と言って繕う。
「七殺に加え、男運が悪く……」
再び大神様の眉間が寄った。
「辛うじて操は守りました故、心は純なままにございます」
閻魔様は不機嫌が増すばかりの、大神様をチラ見した。
なんだかんだといっても、一度神に見初められた者を、たかが人間の男が物にできる筈は無い。
幸せにしようと不幸にしようと、手を出した者は罰せられる。
だから大概の者はそれを察して、手を出す事は無い。
それが大神なら尚更のこと、それぐらい百もご承知の筈だ。
「大神様。大神様が七殺致しました者達は、お言付け通り裁決も致さず、あれ等の望むように致しました。今一度生まれ変わりたい者達には、罪に応じた課題を与え出来によって、時期や順番を決めますが、その様な事を一切致さず……また極楽浄土を望む者は、その徳により裁決いたしますが、何せ遙の家系は、徳というものがございません。無いにも関わらず、私のゴリ押しで行かせました……」
「かつて私は其方の、肩代わりを致した事がある」
大神様はやっと口を開かれた。
「はい。……あれは初代様の折りか?二代目様でしたか?」
「其方は裁決に参った者に懸想致し、事もあろうかその者を生き返らせ、現世にて乳繰りおうておった」
「大神様……乳繰り合うなどと人聞きの悪い……」
「その間私は、其方の肩代わりをしてやった」
「はい。その節は……」
「……のみならず、其方は現世において次から次と、人間の女子と懇ろとなり、何人の女を裁決致した事か……」
「それを言われましたら……」
閻魔様はトホホ……と、言わんばかりにため息を吐いた。
何かといえば持ち出される。
何代も何代もだ。
確かに大神様が幽閉されて暫く経った後であるから、千年ちょいは肩代わりをお願いしたが、なんといっても、厳格過ぎて他の神々に疎まれたお方だ。
閻魔より性に合っていると、伝説の〝裁決〟となっている。
「あの者の好きに致せ」
「それは、大神様のお言葉通りに致しますが、実に〝心根〟だけは良い者にございます、 どうかお許しになられては、いかがでございます?大神様とて、あの者に情がお有り故に、あの様に罰した者達を望みのままに、しておいでなのでございましょう?」
「其方の与り知らぬ事」
「……ではございますが、私は大神様より人間の女子は、よく存じておるのです。仮令大神様であられようと、あれに〝魂〟を虜とされましたならば、致し方ございません」
「……………」
「全てを許し受け入れる大きなお心と、直ぐに許す寛容なお心をお持ちにならねば……自滅しかございません」
閻魔様はしたり顔で、意味有りげに言った。
「悔いても怒っても、手に入りませんぞ」
「閻魔、私を愚弄しておるか?」
「愚弄などと、滅相もございません」
閻魔様は大神様をジッと見た。
「身に染みてお解りのはず……」
大神様は閻魔様を一瞥されたきりで、何も言われなかった。
「其方は神山に預かりの身と致した」
閻魔様は苦肉の策で、みことを眷属神の青孤に預ける事とした。
こうすれば、何かあったとしても閻魔様に害は及ばない、と踏んだのだ。




