心して仕えよ9
遙の家系は、遙昔から神託を授かる家系とされている。
特に女子に多くその傾向が見られ、初代様も女性だった。
かの昔にご神託を受け、それがずっと受け継がれる所もあるが、何せ遙の家系は、ご神託も些細なものだし、一族の何処に誕生するかも判らないし、女系に受け継がれるものだから、それこそ嫁ぎ先の嫁ぎ先の……という具合になっていくと、伝承やらなんやとやっている場合でもないから、一応そんな〝家系だよ〟的な事しかいい伝わっていない。
第一みことの様に、有り得ないのにこういう具合になる事もある。
叔母は幼い頃から〝持っている〟と、一族から目されていた期待の星なのに……だ。
だからみこと自身、自分が特別な〝もの〟だと勘違いしてしまったって仕方のない事だと思う。
洗礼された青孤や、果てしなく高貴な風格を漂わせる大神様がお成りになれば、誰だってそう思うに違いない。
あの叔母だって、大慌てで飛んで来るくらいだもの。
それが、大神様が以前鎮座されていた木祠のある森林に隣接しているって、それだけの理由だったなんて……。
大神様がただただ懐かしくって、たまたま近くに遙の家系の〝みこと〟が居ただけだなんて……。
まあ、どんなに残念がったとしても、今までの自分を振り返れば、自分が特別な人間ではない事は、誰よりも己が一番知っている。
それでも凹んでいると
「大神様のお出ましである」
翌日朝早くに、みことは赤獺に声をかけられた。
「えっ?」
「なにをもたもたとしておる、大神様がお出ましなのだ、きちんと身を正して降りてまいれ」
「えっ?こんな朝っぱらからですか?」
時計を見ると7時だった。
「なにを申しておる。日は出ておる。早くいたせ!」
「え〜」
昨夜はやっぱり凹んでいたからなかなか寝付けなくて、起きるのが辛い。
「早ういたせ、早う……」
赤獺に苛立つ様に急かされた。
顔を慌てて洗って身を整えて降りて行くと、朝の支度をしている母が気になる様で、居間にやって来た。
「なんと申し訳程度の神棚よ」
赤獺が呆れる様に吐き捨てた。
「申し訳ありません。まさか、我が家に神様がお越しになるとは、思ってもおらず……」
「ゆえに申し訳程度に祀ってあるというのか?」
「祀る……っていっても……神棚だけなんですけどね……」
みことが申し訳なさそうに肩をすぼめて呟いた。
何回も書いているが、遙の家系は万が一神様がご神託くださる機会が〝あるかもしれない〟家系なので、神棚を作って祀る様にと言い伝えられているのだが、ご時世もあるのだが、大体の所は〝信じ難い〟が本心だから〝気持ち形だけの神棚〟って所が大半なのだ。
叔母の様に〝自分こそは〟と確信している者以外は。
「まあよい。無いよりは有ってよかったではないか?」
大神様はおおらかに仰って、赤獺をなだめて下さった。
おおらかなのか優しいのか、とにかくみことの好感度は上がる一方だ。
「そこでだが、みことに頼みがあって参ったのだ」
「はい……」
「鹿静の嫁ごが大神様にお目もじ頂く事と相成ったゆえ、その方にもてなしてもらいたいのだ」
「もてなして?」
「さよう。鹿静は神使であるが相手は人間ゆえ、人間のもてなしを致してもらいたいのだ」
「あ……はい……」
「つまり、神使の方の許嫁が、ご挨拶に見えるのですね?」
年の功の母は、素早く理解して言った。
「おお、そうそう。そうなのだ」
「解りました。私どもでできる事はなんでもさせて頂きます。で、いつお越しになるんです?」
「今日だ」
「えっ?ええ?」
「鹿静は大神様がお越しになられただけでも、恐縮しきりなのだ」
「それはそうでしょうが……」
「ゆえにご挨拶は早めがいいと考えたのだ」
「それはそうでしょうが……」
「ゆえに今日参ると申してまいったのだ」
「えー」
母のみならずみことも焦りの声を上げた。




