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神様のおでまし  作者: 東雲しの
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鹿静と鈴音12

 時は着実に経っていく。

 鹿静は毎日神山に行って神泉の水を汲んで来て、鈴音の身体を拭いてやった。

 業を落とす為の苦痛であるから、どの様な事をしても仕方ないのは解っているが、それでも神泉で拭いてやると、鈴音の苦痛は少し和らぐ様に見えた。

 だから、少しでも多く拭いてやった。

 時が経つにつれ、神泉の水を飲む事ができる様になった。

 すると、又痛みが和らぐ様に見えた。

 青女がくれた薬も、鈴音には効き目があるようで、その薬を塗ると、全身を覆った包帯を取って、身体を拭いてやる時に、皮を剥がされ再び張り付けられた時にできた、傷口から滲み出た膿で貼り付く事がない。

 そして最近では、もがき苦しむさまは無くなった。

 只々眠っている。水を口に含むだけだったが、今では飲み込む事ができるようになった。

 スープを飲む事もできるようになった。


「鈴音もう少しだ、頑張ってくれ」


 鹿静は懇願するように言う。

 鈴音は浅い息から深い息へと変わり、大きく頷いた。



「鹿静は如何であるか?」


 大神様は、青孤に意味有りげに言われた。


 ……解っておいでなのか……


 一瞬思う事もあったが


「まだ戻って参りません」


 と言うと


「そうか」


 と仰った。そして


「青孤よ、そろそろと神山に参る事といたそう」


 と付け加えられた。


「いつお立ちになられますか?」


「これからみことに申して、()()が、良いと申せば明日にでも……」


「大神様、もはや限界にございますか?」


 青孤は単刀直入に聞いた。

 その方がお返事頂ける事が多い。


「それは如何いう意味だ?」


「言葉通りにございます」


 大神様はしみじみと青孤を見やり


「そうではない」


 と申された。


「ならば安心致しました」


「あのお方に口火を切られては困る」


「賢明な判断にございます」


 青孤が首を垂れる。


「青孤よ。鹿静に神山に戻るように伝えよ」


「もしも戻れぬ場合は?」


「そんな所に行かせたか?」


「申し訳ございません」


「ならば私の加護を与えよう」


「ありがたき幸せにございます」


 首を垂れたまま言った。



早速伝えに来た青孤に、鹿静はこんこんと眠る鈴音を見て言った。


「神山には戻れぬ」


 鹿静はベッドに横たわる鈴音を、愛おしげに見つめ続けている。

 

「……であろう。故に大神様からの、お言葉を伝えに参った」


 青孤は、鹿静が平伏すのを待って続けた。


「神使鹿静は至急神山に戻るべし、しかし叶わぬ場合は私の加護を与えよう」


「有り難き幸せにございます」


「これは妻鈴音にも下されておる。鹿静良かったな」


 青孤は鹿静の肩をポンと叩いた。

 



「今日は何処へ散策されますか?」


 夕方の散策がお好きな大神様は、みことを伴われてよく散策された。

 その折に空を見つめては、雲の流れや種類を教えてくださった。

 時には珍しい形を作ってくださったり、空の色を変えて見せて下さった。

 虹や燃える様な夕焼けは、特にみことが好む事をご存知だ。


「お姉君様は、あの虹からできている」


 と教えてくださったが、道理でお美しいわけだと納得する。


「だが、あの虹のように屈折しておる」


 と何時も言われる。

 愛されているのか、憎まれているのか解らないご姉弟だ。


「みことよ、神山に参ろうと思う」


「何時ですか?」


「其方がよいと申せば、明日にでも……」


「はい」


「大事ないか?」


「はい。青孤さんがお店を持たせてくれたので、自由が効きます。それに母親は、前から自分がやっていたかもしれないって、錯覚してるから完全に私はフリーなんです。全身全霊で大神様にお仕えできます」


「なんと、青孤は何をやらせてもそつが無い」


 大神様は満足気に言われた。


「では、今日は丘の上の公園に参ろうか」


「え?駅向こうですよ」


「ふたりで歩めば遠くない」


「それはそうですけど……」


「あそこから夕月を見たい」


「あー今日は綺麗に見えるでしょうね」


「私が見たいと申せば必ず見える」


「ああ、そうですね」


 みことはそう言うと、手を差し伸べてくださる大神様の手を取った。


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