鹿静と鈴音10
「薄月ですね」
みことは大神様の肩に、凭れかかる様に月を見て言った。
「はあ……月って綺麗……」
月を愛でるのが日課になってしまっている。
「みことは満月が好きか?」
「眉みたいな……眉月が好きです。それが真っ赤に見えるヤツ」
「さようか……」
大神様は能天気な、みことの答えに微笑まれた。
「大神が物見遊山に行かれた故、私は神祠に戻ると致す」
「あーはい。物見遊山?」
「なんでも、現世を遊び歩かれるらしい。私がスマホを持っておるので、それを欲しいと言われ、鹿静が差し上げたばかりに、行かれたくなったのであろう」
「神様も、スマホの魅力には勝てないんですね?」
「あれ以上賢くなられては、私が困る」
「え?なんでです?」
「あのお方には、やられっ放しなのだ」
「美の女神様だから、仕方ありませんよ」
「ああ、そうであった」
大神様は楽しげに笑われて言った。
「女神様、何処に行かれるんですかね?」
「彼方此方であろう?あのお方なら、他国までも行きそうだ」
「そんなにご活発なんですか?」
「活発というより……。言いあらわせん。みことよ……」
「はい」
「其方も、何処かに行きたいか?」
「えー?最近は大神様と散策したり、買い物したり映画に行ったり……。いろいろ行っているので、特別にありません」
「それはデートというヤツである」
「ああ、はい……」
「……ではなくて……」
大神様は、暫く考える素振りを見せた。
「神山に行きたくはないか?」
「神山ですか?」
「青孤やその嫁がおる」
「私青孤さんの奥さんに会いたいです」
「青女にか?」
「世にも稀有な奥さんに、会ってみたいです」
「青女か……それはよいな……」
大神様は、とても楽しげに笑われた。
翌日モーニング珈琲を飲んでいると、青孤が大神様の様子伺いにやって来た。
まだ淹れたてだったので、青孤も一緒に飲む事に。
「流石神泉の水であるな、とても美味い」
青孤は惚れ惚れとする笑顔を向けた。
「そういえば青孤さん、鈴音ちゃんがここの所、全然遊びに来ないんです。連絡も付かないし……」
「ああ……。鹿静が海外に行く事となって、共に参ったのであろう。彼処は仲が良い故……」
「海外ですか?」
「みことは、海外に行きたいのか?」
大神様が気にかけて聞かれた。
「いいえ。そうだ青孤さん、今度大神様が、青孤さんの奥さんに会わせてくれる為に、神山に連れて行ってくださるんです」
「さようか?」
青孤は大神様をチラ見して言った。
「神山には沢山の草花が咲いておるし、熊が気に入って此方から持っていった、梅が見事である」
「えーいつですか?」
「神山の花々は寿命が長い」
「え?長く咲いているんですか?」
「梅と桃と桜が、交互に咲いて楽しむ事ができるんだ」
「えー凄いですね。梅桃桜……」
「熊は実がなる花が好きなのだ」
「マジで?」
「梅の実は、美味いと言って植えたのだ」
「梅って酸っぱそうだけど……」
「食えるのは熊だけで、我らは食わぬし意外と実がなるは難しい」
「へー、青孤さんよくご存知ですね」
「熊は作物を作るが好きなのだ。私が所帯を持った頃は、野良仕事を致しておった」
「ええ?青孤さんが野良仕事ですか?似合わない〜」
「それが似合っておったのだ」
「うそー」
みことは大喜びだ。
「大神様、神山にお出でになられますか?」
「時期を見て参る」
「そのように準備を致します」
「え?そんな気にしないでくださいね」
耳聡くみことが言った。
「大神様のお越しとあらば、そうは参らぬ」
「みことは、宮殿に住まいたいか?」
「宮殿ですか?海神様の竜宮城みたいな?」
大神様は真顔で聞いておられる。
「あー、やっぱりあんな豪華なのは無理、無理です。広すぎて落ち着きません」
「では、如何様がよいか?」
大神様は真剣だ。




