鹿静と鈴音7
「青孤よ、其方には重々わかっておる事であろうに、如何してあれを甘やかす?」
天の大神様は、木祠に挨拶に来た青孤に問われた。
「大神様の申される意図が、私如きに解る術もございません」
「そのようにシラと、白を切れるは神使の中で、其方だけである」
大神様は溜息を吐かれて言われた。
「神泉の水を湧かせたは、其方であろう?そのように機転が利くも、其方くらいのものよ」
「畏れ多い……私如きが……」
「まあ良い……」
今日の大神様は、何故か投げやりに言われた。
何時もならしつこいくらいに、問われてこられるのに?
「私はお二方が、ご誕生の砌より存じております」
「ふむふむ……」
「故にお二方の事を他のものより、多少知っておるだけにございます」
「さようであるか?」
「天の大神様がこよなく、大神様を愛しまれている事も、あの大神様が他の神々様よりも、天の大神様をお慕い申されている事も……」
「流石口が上手いの……」
大神様は力なく笑まれた。
「あれは持って生まれた物は強固なれど、脆弱なところが有って哀れである。反して私は持って生まれた物は弱小なれど、丈夫にできておる。摩訶不思議な事よ……青孤よ、あれを今以上に頼んだぞ」
「彼方へお戻りになさいますか?」
青孤は天を指差した。
「馬鹿を申すな。せっかく参ったのだ、物見遊山を致さずして如何致す?」
「はあ?」
「物見遊山じゃ遊山」
大神様は先程迄の気だるそうなご様子とは、打って変わられて言われた。
「確かにあの愚かな人間が淹れる、コーヒーとやらは美味い。そう思えば、他の物も試しとうなるのは、致し方ない事である。であろう?青孤」
「しかしながら……」
「いろいろとあれを虐めとうて言っておるが、中の原の物には面白い物が多い。それを知らずして、何が〝神〟であろうか?糞食らえ……である。あれが驚いた事に跪坐いて懇願致した故、時を与える事と致した。暫し羽を伸ばして遊んで参る事と致す」
「大神様は跪坐かれたのですか?」
「おうよ。暫しあの愚かな人間と時を過ごしたい故、お許し願いたいと……そう申した。あれがあれが」
大神様はご満悦で青孤を見た。
「それは何よりにございました」
したり顔の青孤が言う。
「ゆ・え・に致し方なく時間をやったのだ。その間に私は物見遊山と洒落込もう……」
「それも、何よりにございます。しかしながら、大神様だけではご不便にございましょう?神使を誰かお付けせねば」
「よいよい。此処のもは彼方のものとは違う故、私の従者を連れて参る事と致す」
「流石そつの無い事で……」
「其方には適わぬ」
「とんでもございません。私などまだまだ……」
「謙遜も過ぎると鼻に付くぞ」
大神様は上機嫌で言われた。
「しかし青孤よ、あれはシカと見ておれよ」
大神様は、急に真顔を作られて言われた。
「我らが思うより早いかもしれぬぞ」
「は?」
「あれは惚けておるからな、それが力となって元気に見えるが、私は近いと読んでおる……」
「ならば何故物見遊山などと?」
「情に絆され、つい待ってやると約束してしまった。私も甘くなったものよ……」
「それ程、現世は面白そうにございますか?」
「うん……。な、何を申しておる。話しのタネに見て参るだけである」
「大神様のお気に召す所は、此処彼処にございます。ごゆるりとご堪能ください」
「青孤よ、其方だけである。棘のある物言いを致す神使は……」
大神様がそう言われた時
「大神様……」
従者の鷺王が辞儀をして立っていた。
「鷺王か……久方ぶりである」
青孤が懐かしげに言った。
「青孤よ変わりないな」
鷺王も懐かしげに言った。




