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神様のおでまし  作者: 東雲しの
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鹿静と鈴音5

 鈴音は大神様の後に従って、ずっと雲の上を歩いている。

 ひたすら何も無い雲の上を、刑場に引き立てられる思いだ。


「何も無いと思っておろう?」


「……………」


 鈴音は只黙っている。

 これから行う事を思えば、ペラペラと話せるわけもない。

 顔色が蒼白く唇が紫色に近かった。


「若い者達は贅沢を好むからな。ずっと先には眩ゆいばかりの宮殿もある、見に行ってみるか?」


 鈴音は軽く首を振った。


「私や下の()()は、その様なものに興味は無い」


 大神様はそう言うと、鈴音の腕を掴まれた。

 一瞬ビクッとしたが、鈴音は恐怖の余り身体を震わせた。

 

「辞めに致して、記憶を消してやろうか?さすれば、私が良い様に計らおう」


 だが鈴音は震えながらも、首を横に振った。


「何故神使如きに執着致す?それもあの鬼女の質か?」


 大神様は尚も鈴音を甚振られる。


「何でそんなに甚振られるんです?」


 声にならない声で鈴音は聞いた。


「真に其方があのものを思うておるか、興味があるのよ」


「思っていなければ、此処にはいません」


「それは如何であろう?では、それを聞いてみる事といたそう」


 大神様はそうお言いになるなり、ガシリと鈴音の顔を片手で掴まれた。

 

「ひっ!」


 鈴音が驚いて息を止めた。

 するとグッグッと指に力を入れ、爪を食い込ませて行かれる。

 鈴音が苦痛に喘ぐ表情を見せた。

 余りの痛さに声にもならない。

 大神様はそのまま一瞬にして皮を剥がされた。

 

「ぎゃ……」


 鈴音の断末魔が響き、血が滴り落ちる鈴音の皮を大神様は、ポイと脇に投げ捨てられた。


「やはりお前であったか?」


「何故ここまでする大神……」


 皮を剥がれた鈴音の体内から、痩せこけた鬼女が姿を現した。


「儘其方であったか」


 大神様は驚愕されて言われた。


「ならば余計に知りたい、これは其方の謀か?」


「この者は真に神使を思っておる」


「ならば、何故其方の子孫である者を苦しめる?もう充分と、生き長らえたであろう?」


「あの時大神は、沢山の仲間を殺した。多すぎる程だ……」


「故に子孫を使って、大神を苦しめるのか?」


「はは……。あの時大神は、愛する者を信じきれなかった。そして今再び大神は、人間に執着している。全く懲りぬ奴よ、その執着が()()の判断を鈍らせれば、島に追いやられた我らは、再び天下を闊歩できる」


()()が使い物にならねば、こうやって私が出張って参る。〝再び〟など有り得ぬ」


「ちっ!お前が出張って来ようとは……」


「あの時、厳格な大神に反撥し、其方を見逃したは誤りであった……。観念致せ」


「別に!お前に見逃してもらった故、永きに渡り楽しめた」


「ははは……。お前は人間の男にうつつを抜かし、果てに大神を怒らせた。そして又大神を怒らそうとは……、畏れを知らぬというか……」


 大神様は呆れ果てたご様子で言われた。


「其方の子孫は、その大神の神使の為に命をかけたぞ」


「命なぞ……」


「其方は人間の男を欲っしはしたものの……大神の女を陥れはしたものの……子を理由に私に命乞いをし、結局現世で只々永い年月生き長らえ、挙げ句の果て、惚れ抜いて命がけでお前と離別しようとする、其方の子孫に寄生し、尚も生き長らえようと致す……それがお前鬼女よ」


 大神様は、鬼女の頭を持ち上げると、そのまま頭をかち割られた。

 只の〝質〟だけであった鬼女は、頭をかち割られて絶滅した。

 その骸を大神様は、百日間晒される様を命ぜられた。


 ……幼子の癖に生意気が過ぎたか……


 大神様は苦笑し、約束通り鈴音を鹿静の元に返された。


「大神様……」


 血だらけの鈴音を引き取り抱きかかえると、鹿静は涙を流して大神様を仰ぎ見た。


「その者はよく耐えた、故に恩情をかけてやった」


 大神様はそう言われると


「何故か人間には、私は女神に見えるらしい」


 優しげに微笑まれた。


 鹿静は深々と辞儀をすると、グッタリと力尽きている鈴音を抱きしめた。

 百日かけて新しい皮ができるのを、待たねばならなかった鈴音だが、大神様より受け取った身体に皮は付いていた。

 醜い姿を晒す事のない様に、大神様が恩情をおかけくださったのだ。


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