鹿静と鈴音4
「如何に手間取ろうとも剥ぎ取る、仮令其方が苦しみ死んでもな」
大神様は冷ややかに微笑まれた。
「どの道死を選ぶのであろう?今此処で愛する鹿静に殺されるか?それもよい。己の手で殺めたとなれば、鹿静は永きに渡る生涯を、愛する者を手に掛けた後悔で、其方の事を忘れる事はできなくなる。それともやはり鹿静の懇願通り、全てを忘れて今生の天寿を全う致すか?鹿静を忘れ、其方の因縁の友との縁を切り……」
大神様は美しいお顔を、鈴音に向けられている。
鹿静は決して解ろうとしない、鈴音の本心の動揺をじっくりお読みになりながら……楽しまれている。
「わ、私……行きます」
鹿静は、鈴音の言葉に慌てるように、鈴音の手を取り見つめた。
「鈴音後生だ。辞めてくれ」
「鹿静と一緒に居たい」
「いや、私は其方に生きて欲しいのだ。来世……来世があれば、来世で添い遂げよう。大神様のお言葉には、決して嘘はない。来世は鬼女の〝気〟も〝質〟もなく生まれて来れる。そしたら添い遂げよう。大神様にお許し頂き、神山に連れ帰る。だから……。鈴音、高の原で死ねば来世は望めない……」
「鹿静よ、水を差すようだが、私は来世で鬼女の気は無くなると申したが、〝質〟が無くなるとは申しておらんぞ」
「大神様……」
鹿静はこれ程泣いても枯れぬ涙に、無情の感心を持って大神様に顔を向けた。
……何処まで虐めるおつもりか……
恨み言が込み上げる。
「其方と鬼女を上手く剥がせたとしよう。それから百日の間、剥ぎ取られた鬼女は高の原で晒され、灼熱の陽によって焼かれる。灰となったその〝質〟を、先代の大神が察し遺恨は消える」
「その間鈴音は如何なるのです?」
「鬼女を剥いだのち皮を剥がれた身体のみ、其方に返してやる。百日の間に皮が再生するだろう」
大神様は鹿静をじっと見られた。
「この其方の愛でる姿は無くなる。百日の間介抱致せるか?その様な姿を、命をかける程の男に見せられるか?じっくりと考えよ」
「私行きます」
鈴音は大神様を睨み付ける様に言った。
「鈴音考え直してくれ」
「私が皮を剥がされた姿になったら、介抱してくれない?」
「そうじゃない。皮を剥がされる状況を考えると、辛くて仕方ない。だったら俺が剥がされた方が、まだマシだ、だからそんな苦労はせずに、後生だから全てを忘れてくれ。今生だけ……今生だけ我慢しよう」
「……で?来世に同じ様になったら?その〝質〟ってやつでできてたら、又同じ様にするの?今と同じようになるの?」
「来世で私が、其方の元に来るとは限らぬがな」
大神様はちゃちゃを入れる様に言われた。
只々この状況を楽しまれている。
「大神様が来られなかったら、そしたらバレないんですか?そんな事じゃない。私は今別れたくないの」
だが鈴音は真剣に鹿静に言った。
「鹿静に汚い姿を見せたくないけど……」
鈴音は号泣した。
鹿静は鈴音の涙に弱い、全て明けて通すところがある。
「鈴音の苦痛を思うと、胸が張り裂けそうなだけだ。鈴音が望むなら、其方の皮の無い姿など……」
鹿静はグッと鈴音を抱きしめて言った。
「なんと情の深い事よ」
大神様は呆れるように呟かれた。
「ならば、明日この者を連れて参る故、今夜は二人でじくりと話しをいたすがよい」
大神様はそういうと
「其方の今の言葉が、真実の愛の言葉である事を祈っておる……」
鈴音に言い残されて、姿をお消したなった。
鹿静と鈴音は、強く抱き合って涙を流した。
「明日より暫し彼方に戻る事となった」
大神様は、みことの家の祭壇のあるお部屋に居られる大神様に、天を指差して言われた。
「おう戻るのか?」
「暫しである」
「そのまま此方に、戻って参らずともよいぞ」
「ふん。そうもいかんのは、一番其方が解っておろう?大神よ。私が戻って参る迄に、しかと決断致しておれ」
「…………」
大神様は、じっと黙って天の大神様を睨み付けられた。
「そうでなくとは、私が先陣を切ってもよいのだぞ。そうなれば、如何様な事となるか其方も存じておろう?それが嫌なら、其方が決断致すしかあるまい?」
天の大神様は、ニヤリと意地悪く笑われた。
大神様は黙って睨み付けられる事しか、おできにならなかった。




