心して仕えよ7
「赤獺よ、そなたであってもだ」
大神様は端正なお顔を、真顔で赤獺に向けて言った。
「種族は違えど同じ星に誕生した兄弟達である。お互いを思い合う心が有るのならば、それでよいではないか?……確かに青孤の気持ちが一番ではあるが……」
大神様は口元を綻ばせてみことを見た。
「その方と青孤の気持ちが一番である……」
「いえ……。青孤さんとは全然……」
「そうですよね?」
平伏していた叔母が急に話しに入ってきた。
「……みことが本気で好きになったのなら、お許し頂けます?」
「それは勿論」
「だから、大神様はみことを選ばれたんですね?青孤さんと縁を結ぶおつもりで……つまり……もう一人の神使みたいに、人間を当てがおうと思われて……」
「言っている意味がわからぬが、ちがうな」
大神様は真剣な表情の叔母に、真摯に向き合われて言われた。
とても律儀な神様らしい。
「えっ?じゃあ、どうして?」
叔母は不服気に呟いた。
「なにやら不服気であるな」
「はい。私はずっと合点がいかずにいたんです」
「はて?」
「大神様のお使いの青孤さんが、みことの所に来てからずっとです」
「なるほど……」
大神様は大きく頷くと叔母を直視した。
切れ長の大きく黒い瞳が、とても美しくみことには見えた。
「どうしてその方ではないか……という事であろう?」
「そう、そうです。私はずっとみことより〝有る〟と自負しているんです。それなのに……」
「うーん?その方がみことより〝有る〟という意味も不明だが、その方の不服は理解しておる」
みことは再び大神様の〝みこと〟発言に胸キュンなのだが、そんな事はお構いなしの赤獺が
「な、なんと不届きな事を申す輩でござりましょう」
凄い剣幕で叔母を見た。
「いえ。それは私も同感です」
母まで大神様に詰め寄って言った。
「えっ?お母さんまで?」
「……って、一番あんたが不思議でしょう?霊感すら持って無いのに……」
「お、お前ら霊感と一緒にするとは不届きな」
赤獺がさっきより増して怒りを露わにして、無知な人間共を睨みつけた。
「ははは……霊感と〝これ〟とは、全くの別物だが……。まあよい。憤慨しておるが、赤獺すら怪訝に思っておる事で有るから……そうであろう?赤獺」
もの凄い形相を作っていた赤獺は、大神様に言われて気恥ずかし気に顔を伏せた。
「ええ?」
異口同音でびっくりの三人。
「偉そうに私たちを罵ってたわよね?」
「そうそう」
正真正銘のおばさん二人は、決して突っ込みを忘れない。
「……では、やっとわたしは思う所に出向ける事となった……」
大神様はそう言われると、長身の身を起こされて佇まわれた。
そして飄々としたご様子で店を出た。
大神様が本当に飄々とされているのか、それともみことの好みでそう見えるのかは、全くもって解らないが、ただその仕草佇まいは、みことをドキドキさせるものだった。
……ヤバイじゃんこれって……
ってやつだが、この思いさえ筒抜けって事もあるから、神様相手はとても怖い。
まあ、みことの好みになっている訳だから、好きになっても仕方ない……って事か。
いやいや大神様たるもの、一介の人間を魅了するなど当たり前って事か。
そうだ全ての人間は、神様の僕って事か。
「みことよくだらぬ事を考えるでない」
大神様はみことを見る事もなく呟かれた。
同行しているおばさん二人と赤獺は、意味を介せずにみことを見たが、みことは恥じらうように頬を染めた。