もう一人の大神5
翌朝みことはいつもの如く、森林の木祠の前にテーブルと椅子を置いて、珈琲を大神様お二方にお淹れした。
「お!これはなかなかであるな……」
お姉君様の女神様が、みことを見て朗らかに言われた。
「なんか、神泉のお水を湧かし出しているとか?」
「ほう?」
女神様は、鋭い眼差しを大神様に向けられた。
「……でもやっぱり、神が付く泉の水だから、美味しいですよね」
「普通なら、人間如きが口に致せる物ではないからな」
「え?そうなんですか?お店でも使ってるんですけど、美味しいって言われる訳だ」
「それはそれは……。流石に寛大なる大神である、恩恵を惜しみなくお授けになる」
「…………」
今朝も今朝とて、女神様は言い方に一物……しこたま棘をお持ちだが、大神様は一瞥なさった切り、だんまりをきめ込まれている。
「故に少し窶れられたか?」
女神様の一言に、大神様は視線を大きく動かされて凝視された。
「其方がその様に見る時は、的を得ているという事であろう?」
大神様は何かを言おうとされて、直ぐに視線をみことへ移された。
「昨夜は緩りとなされましたか?お姉君様」
「ああ、此処はなかなか良いな……。今度来る時は此処を使おうとしよう、今度があらばの話だが……」
「此処は私の神祠、そう頻繁に使われては面目が立ちません」
「故に、使う事があらばの話しである」
お二方の間には物凄く、冷たい空気が流れるというか、重い空気が流れるというか……。
みことが堪えかねている所に、良いタイミングで鹿静がやって来た。
「これは大神様……」
鹿静が女神様を見て首を垂れると、女神様はしげしげと鹿静をご覧になられた。
「其方は……」
「私の神使にございます」
大神様がすかさず言われた。
「おお、長年仕えし神使であるな」
「はい」
「今は如何致しておる?これに長年仕えるは、難儀であろうに?」
「今は此方で神々様方のお品を、 お守り致しております」
「なるほど?……確かに以前は、全て神からの賜り物と理解できておったが、いつの頃からか、畏れ知らずにも私物と致す様になった故、しかと管理致すものが必要であるな」
女神様はそう言われると、ジッと鹿静を見つめられている。
「鹿静よ如何致して参った?お姉君様に挨拶に参ったのか?」
大神様は女神様を見て、それはそれは含みのある言い方をされた。
「お姉君様……でございますか?」
鹿静が怪訝そうに言う。
「私の事である」
「は?」
「私は此度お姉君様と相成ったのだ」
女神様は、みことへ目をやって言われた。
「なんと?」
鹿静が唖然と言うと
「故に、お姉君様とお呼び致せ」
大神様は上機嫌で言われた。
「……がしかし……」
鹿静が困惑の色を隠せずに言う。
「よい。此度はその様に致せ。私は余りに美し過ぎて、女神という事である故」
女神様はご自分から、恥じらう事もなく言われた。
本当に美しい女神様は、ご自分でそう認めておいでの様だ。
鹿静は一瞬口元を綻ばせそうになって、慌てて堪えて真顔を作った。
「どうせ青孤に、我らの様子を見て参る様、言い使ったのであろう」
女神様は鹿静を、尚も睨め付けて言われた。
「神泉の水を使った、実に美味なるコーヒーとやらを飲み終えた故、私は再び神祠で緩りと致す故、安心して青孤に伝えよ」
「ならば私も〝お姉君様の御為〟に、気に入りの神祠を明け渡しました故、致し方なく移りましたみことの家の〝私の部屋〟に戻ると致す故、その様に青孤に伝えよ」
大神様はたらたらと、嫌味たっぷりに言われた。
鹿静は困惑の色を隠せぬまま、再び首を垂れた。
「大神様あんな言い方、お姉君様に失礼ですよ」
みことが荷物を纏めて言うと
「あの位言っても、あの方はお解りにならない」
子供じみた様に言われ、ポポンとみことを連れて移動された。




