もう一人の大神4
凄く……物凄く、いいようにされてる感はあるものの、大神様と同じ屋根の下で暮らせるなんて、幸せ過ぎて蕩けてしまいそうだ。
考えてみれば、幾ら姉弟といっても、あんな狭い祠で暫く住むのは無理があるのかも?
あんな綺麗な女神様と一緒に居たら、大神様だって禁忌の愛に走ってしまうやもしれない。
そんな事になったら、今が幸せ絶頂のみことだって、奈落の底に落とされる。
……さすが青孤さん、ナイスな判断……
みことは幸せ過ぎて、顔が綻びっぱなしの間抜けな顔で思った。
立派な祭壇の前に座して手を合わせる。
……何妙法蓮華経……南無阿弥陀仏……
罰当たりな事に、こんな経しか出ない家の子だ……。
……あれ?……
一瞬何かが頭に浮かんだ気がしたが、なんだったか解らない。
「何を唱えておる。私は仏ではない」
大神様が真顔でみことを、覗き込んで言われた。
「あ!大神様」
みことが嬉しそうな顔をするので、大神様はご満悦だ。
「こんなに立派に、青孤さんが作ってくれました」
「さようか……」
そう言われると、静かにお顔を近づけてこられる。
「神聖な部屋で、不謹慎じゃないですか?」
「誰の為の部屋である?」
……おお!そうだった。大神様が良ければ、いいのか……
大神様は興を削がれた様に、みことから離れられた。
「お姉君様はあの祠を、気にいってらっしゃるんですか?」
「あれは、只々意地悪をしておるのだ」
「そんな。あんな綺麗な人に、悪い人はいません」
「みことよ。本当に見る目のない奴よ」
大神様は呆れる様に言われた。
「大神様とお姉君様は、仲がお悪いんですか?」
「仲が良いとか悪いとかの次元ではない」
……そんななんだ……
ひとりっ子のみことには、きょうだいの感情が解らないから、弟神が姉神にいじけて拗ねている様に見えて、ちょっと可愛かったりする。
ただの惚れた弱みだが……。
「此処は私の部屋である。其方の部屋に参ろう」
「どうしてです?こっちの方が綺麗だし、広いですよ」
「月が見えぬし、神聖な場所ではしてはいけぬ事もあるらしい」
みことが頬を真っ赤に染めたのを見てか見ずか、大神様はお力で一瞬にして、みことの部屋に移動された。
「繊月であるな」
大神様は赤く見える三日月を見て言われた。
いつもとても綺麗な名で言われるので、無知なみことでも少しずつ覚えてきた。
「大神様、部屋が少し広くなってます」
「青孤が気をきかせたのであろうが、私としてみたら狭い方が良いのだが」
大神様は、細い月を愛でておいでかと思いきや、グッとみことを抱き寄せて、唇をお近けになった。
暫しの間、二人は抱擁し唇を重ねあった。
「繊月……綺麗ですね」
とかなんとか言うが、大神様がご来臨されるまで、月なんて〝愛でた〟事なんてありゃしない。
窓から見る月を、満月、半月、三日月くらいの違いしか解りもしなかったし、輝きや増して〝色〟なんて全然、気がつく方じゃないから今更ながら感激している。
雨月とか偃月とか弄月とか。
朝行き月、上弦の月下弦の月と呼ばれるのは、とてもお好きだ。
夜見える虹である月虹を見せて頂いた事があるが、大神様と一緒でなければ、みことには決して見る事のない代物だ。
「そういえば大神様。こんなにポンポンと神力ってヤツでなんでもできるなら、鹿静さんと鈴音がご挨拶に来た最初の日、うちであんなに大騒ぎしなくても、高級なお店でやればよかったじゃないですか?」
「その様な事を覚えておったか?」
あの日は凄く大変だったので、お仕えの大変さを思い知らされたから、忘れる訳がない。
〝するもの〟だと思っていたから〝やった〟が、ポポンが有ると知った今では、恨めしく思ってしまう。
「あれは、其方達がああすると申したのだ」
「ポポンが有るとは、知らなかったからです」
「私に仕えるのだ。多少は苦労せよ」
「えー?そんなお考えなんですか?」
「致し方あるまい」
大神様は至極真顔で言われている。
……マジか……




