もう一人の大神3
朝方早く赤獺が青孤の元に、息を切らす様子で飛んで来た。
「如何致した?」
青孤が大神様に何かあったのかと、気を回して言った。
「大神様が参られた」
赤獺は天を指差して言った。
「な、なんと大神様がか?」
青孤も天を指差して聞き返す。
「大神様だ……」
指差したまま赤獺は大きく頷いた。
「で?如何なご様子なのだ?」
「あのお二方が対座されれば、如何なものであるかは、神使のものであらば解ろう?」
「それはそうだが……」
「私は恐ろしくて恐ろしくて……。とにかく其方を呼びに来る事しか、考えが及ばなんだ」
「さもあろう……」
「大神様は此処の所、みことの元に行かれては、それはご機嫌よくされておいで故、直ぐに火山を噴火する事もなかろうと、こうして飛んで来たのだ」
「そう簡単には、噴火はされんから安心致せ」
「しかし、あの大神様であるぞ……」
赤獺は天を再び指差して言った。
「わかった。とにかくご様子を見て参る……」
青孤は赤獺にはそうは言ったものの、どうしたものかと思案した。
大神様は勝ち目のないあのお方の事で、よく癇癪を起こされる。
まずは掌中の珠の様な存在の、みことに様子を聞いてから……と甘い考えをしたが、聞いた相手を間違えていた。
……が、あのお方がご滞在の間は、彼処に大神様を置いておく訳にはいかない。
火山の噴火どころではなくなってしまう。
「なんと私が此処を出るのか?」
大神様は激怒するように、青孤を睨みつけられた。
「致し方ございません。我らが神山に、お越し頂こうとも考えましたが……」
「そう致せ」
大神様は突き放す様に言われた。
「そうは参らぬ事は、ご存知のはずにございます」
「…………」
青孤は話しをしながら拗ねまくる大神様を、溜め息が出る思いで見つめた。
「神祠は神気が一番高く、大神様にご滞在頂くは、最も適した場所にございます」
青孤は天を指差して言った。
「……では、私に何処に参れと申すのだ?」
拗ね拗ね大神様が、不満たらたらと聞かれた。
「近くに大明神様の社殿がございます」
「私に大明神と共にせよと?」
「今は大明神様は、ご不在にございます」
「何処へ参っておるのだ?」
「神々様がご不在の社殿が、多々ある事はご存知のはず」
「……では、あの方を〝そこ〟にお連れ致せ」
「空き社殿などにお連れ致せません。あの方のご気性は私よりもご存知のはず」
「だが此処は、かの昔より私の神祠であるのだ」
幼児の様に拗ねた大神様は、ひっくり返ってジタバタしそうな勢いで言われる。
青孤は天を仰いで、幼児の様に駄々をこねる大神様を思い溜め息を吐いた。
「では暫しの間、みことの家にお移り頂くというのは、如何でございましょう?」
「は?」
拗ね拗ね大神様のお顔が、一瞬にして明るくなられた。
「私は尊い大神様をあの様に狭苦しい所にお移し致すは、心苦しい限りであるのですが、この様に拗ね拗ねとさられましては、身を切る思いでございますが決断致しました」
青孤は真顔で畏まって言った。
「……と言う事であるので、みことは有り難く大神様にお仕え致せ」
「え?」
青孤はポポンと家を拡げて、それは立派な祭壇を作った。
「青孤さん、うちは神社じゃないんですけど」
「大神様がお出での間だけである」
「……って言っても……。あそこの祠だって、大した事ないのに……」
「戯け者!彼処の神祠は、それは尊い〝もの〟なのだ。何せ長きに渡り大神様が、鎮座されておいでであった。其方達がたかが建てた〝もの〟等と一緒に致すでない」
青孤が憤怒するように言った。
「なんか青孤さん、無理してる様に見えるんですけど……」
「な、何を……」
「なんか凄く、こじつけてる様に見えるんですけど?」
「ば、馬鹿を申すでない」
青孤は苦し紛れに、ちょっと笑んで見せた。




