もう一人の大神2
青孤は中に入ると、もう一人の大神様の前に歩み寄って首を垂れた。
「これは大神様、久方ぶりにございます」
「其方も此処に来ておったか?任は解かれたのではなかったか?」
「新しき命を受けておりますが、解かれたわけでは……」
「私はまたあの人間の為に、其方に新たなる命を与えたかと思うておった」
「さようにございますか?」
もう一人の大神様はうんうんと、大きく頷かれた。
「その様な事を考えられるは、貴方様くらいなものですよ」
大神様が呆れ顔で言われた。
「さようか?私は其方と対をなす故、このもの達よりは心中を計る事ができる」
もう一人の大神様は、意地悪く笑みを浮かべて大神様を見られている。
「戯けた事を……」
「はっ、その表情は確信を突いておる、という事だ」
「……………」
大神様は凍る様な、冷たい視線を送っておられる。
間に立ち青孤が困惑する。
もう一方も大神様より少し前に、代替わりをされたばかりで年が近い所為か、寄ると触ると対立される。
もともと対を成す二神方であるから、仕方がないのかもしれないが、何かと大神様をからかっては楽しまれる所がある。
以前など余りの事に大神様は、火山を一つ噴火させて悔しがられたが、到底もう一方に敵うはずはない。
大神様がご誕生される以前は、群を抜いてお力の強い方であったが、元に持つお力が大神様の方が優れている為、敵対心を持たれるのだろうが、どう足掻いてもお力以外の全てで、大神様はこのお方には敵わない。
代替わりされて大神様になられた今も、その関わりは変わらない。
「その方が、人間にうつつを抜かすとは……果たして如何なものか見に来てみれば、如何様に致せば、あの様な者を選べるのやら……」
「うつつなど、抜かしておりません」
「さようか?」
もう一方は大神様の胸に、物凄い勢いで手を当てられた。
「ならば私に心中を見せてみよ」
大神様は素早く手を払われた。
「大神たるもの如何様な事があろうとも、心中は見せられません」
「上手い言い逃れを、するようになったものだ」
冷ややかに言われたが、何時もの事ながら上から目線の物言いだ。
「大神様……」
青孤が割って声を掛けると、大神様お二方が視線を向けた。
「あ……」
この二神が共に居られると、お呼びする時に困り果てる。
お二方共〝大神様〟であるからだ。
「天の大神様……」
青孤は〝そちら〟に顔を向けて首を垂れた。
「あの者が、姉君様と申しておりましたが?」
「あの愚か者が、私を女神と見間違ったのだ」
「は?」
「みことが私の姉君様と思ったので、そうして頂く事としたのだ」
「は?」
青孤はお二方の間に立って言葉がない。
天の大神様を女神に見たみことには吃驚だが、それをいい事に積年の恨みを晴らさんばかりに、姉君に仕立ててしまうとは……。
だが、確かに天の大神様は、大神様よりも美しい〝もの〟が、元となって誕生されているから、華奢でそれは美しく天空に映える虹の様なお方だ。
みことが〝美の女神〟と思い込んだのも、仕方ない事かもしれない。
「故に青孤も〝お姉君〟とお呼びいたすように」
大神様は、ご満悦な笑みを浮かべられた。
「戯けた事を申すでない。何故其方の姉呼ばわりされねばならん」
「ならば、とっととお戻り頂ければよいかと?」
「其方、この私を邪険に扱いおって……」
それは悔しげな様子をお見せになるから、大神様はドヤ顔で見下される。
「其方の素行が悪い故、私が監視に参ってやったというに……」
「…………」
そのお言葉に大神様は、ピクリと眉の端を上げられた。
「故に暫し此処に居る事と致す」
「此処にでございますか?」
慌てたのは青孤である。
こんな調子のお二方を、一緒に置いては火山が幾つ噴火するかわからない。




